第10話 イメージ・ガール

 官能的な肢体を淡いピンクのレオタードに包んで、十人程のバックダンサーを従えて踊る朱美。
 付け根まで露出したムチムチの太腿が、躍動感溢れるステップを刻んだ。音楽にあわせて、豊かな乳房が上下左右
に大きく揺れる。
 すらりと伸びた長い脚で、切れのあるターンを決める。形よく上向いたヒップは、官能的な盛り上がりを見せている。
丸みを帯びた腰を左右に振ると、その尻がくねった。
 バックダンサーたちもそれに合わせて、一糸乱れぬ動きを見せる。
 その動きはセクシーで、見ようによってエロくも見え、逆にスポーツでも見ているような爽やかさを感じもする。
 カメラが躍動する体をアップで映し、朱美の胸、腹、腰となめるように下がっていく。
 レオタードからのぞく胸元がくっきりと谷間を作り、ぴっちりした生地に乳首がぽっちりと浮きあがっている。お臍の形
もはっきり映り、下腹部はほどよく締まって、滑らかなラインを描く。股間は、割れ目の形がわかるほどの食い込みを見
せていた。朱美もダンサーたちも、レオタードの下に何も着けていないのではないかと、話題になっている映像だ。
 覚えやすくキャッチーなメロディとビートの効いたサウンドは、一度聴いたら耳について離れず、誰もが思わず口ずさ
んでしまう。歌っているのは朱美自身。それほど上手いわけではないが、弾けるようなダンスナンバーにキュートな声が
よくマッチしている。着メロのヒットチャートで、このところずっと1位になっているこの曲の作者は、もちろん土本創児
だ。
 画面では、踊る朱美たちを背景に、次々に企業の名前がスクロールする。全て、鳳龍之輔が買収して傘下に収めた
企業だ。
 話題のこのCMをはじめ、朱美は鳳の企業がスポンサーになっている番組やCMなどに数多く出演し、今や鳳グルー
プのマスコットと言ってよい状態にあった。
 音楽が止まり、ポーズを決めてウインクする朱美。
 鳳グループのロゴが大きく浮かび上がった。

 大スクリーンに映し出されたCMが終わると、1000人を収容する会場に拍手が湧き起こった。拍手に迎えられるよう
に、鳳が大きく手を振りながら登場し、ステージ中央に設置された演台の所に立つ。
「鳳グループ各社の社員のみなさん、スーパーサプリ販売員のみなさん、こんにちは。鳳龍之輔です。」
 今日は、半期の営業成績を報告し、年末年始に向けて社員と販売員の士気を高めるための決起集会である。
 鳳は、社会情勢の話から始まって、経済動向を論じ、鳳グループの理念を説く。時折、ジョークを交えながら、エネル
ギッシュに熱く語る鳳の演説に、満員の会場は引き込まれていった。まさにカリスマである。
 鳳の演説に続いて、会社幹部たちの業務報告が行われ、その後、司会が弾んだ声でアナウンスした。
「それでは、今日のスペシャル・ゲストです。」
 鳳グループCMソングのイントロが流れ、プリティ・ナイトのコスチュームを着た朱美がステージに登場した
。客席が拍手と歓声に包まれる。
 バックダンサーたちも現れて、CMでお馴染みのダンスが始まった。朱美もダンサーたちも、音楽に合わせて一斉に
胸を揺すり、腰を振る。ナマで見るダンスに、会場全体が大きく盛り上がる。



 朱美はもちろんだが、スクリーンに映るバックダンサーたちも、なかなかの美女、美少女が揃っていた。彼女たちは、
鳳グループの金融会社から金を借りて返せなくなった債務者や、債務者の娘だという噂がまことしやかに流れている
が、誰も本当のところを確認したことはない。
 ダンスの後、朱美をプレゼンターにして、営業成績のよかった社員や販売員の表彰が行われた。それが終わると、女
子社員や女性販売員は、スイーツ・バイキングが用意された別会場へと移動する。
 途端に会場の照明が暗転し、不気味な音楽が流れる。会場に残った男たちが何事かとざわめく中、エコーの効いた
声が響き渡った。
「ふふふ…、プリティ・ナイト、ここにいたのか。今日こそは覚悟するがいい。」
「その声は、怪人グロテスク!」
 スポットライトを浴びた朱美が、凛々しい声で言い、客席のあちこちから、黒ずくめの衣装を着た男たちが姿を現わ
す。男たちを従えて、中央の通路をズンズン歩いてくるのは、不気味な特殊メイクをしたプロレスラーのような男だ。
 会場から拍手が起こった。プリティ・ナイト・ショーが次の余興らしい。
 戦闘員を従えてステージに上がるグロテスク、プリティ・ナイトは、逃げ惑うバックダンサーたちを背中に庇う。
「かかれっ!」
 グロテスクの命令で戦闘員たちが襲いかかる。プリティ・ナイトはバッタバッタと戦闘員を倒していく。しかし、バックダ
ンサーに襲いかかった戦闘員は、演技を忘れた様子で、彼女たちのレオタードを剥ぎ取っていった。
「キャァーッ!」
「いやーっ!」
  ダンサーたちの悲鳴や泣き声が響く。噂どおり、レオタードの下は何も着けておらず、ダンサーたちは、次々に全裸
にされていく。戦闘員の何人かが、舞台の袖からX字型の磔台を引き出して来て、全裸にしたダンサーたちを磔にして
いく。
「こっちを見ろ、プリティ・ナイト!」
 磔台の前に立ったグロテスクは、そう言うと、手にした鞭でダンサーの乳房を打った。
「キャアッ!」
 力いっぱい打たれたらしく。ダンサーが悲鳴をあげ、痛みに顔を歪める。他の戦闘員たちもそれぞれにダンサーの乳
房をこねくり、股間をまさぐっている。
「いやっ!」
「きゃあぁーっ!」
 絶望的な悲鳴や鳴き声があがった。
「おとなしくしないと、この女たちがどうなっても知らないぞ。」
「ひ、卑怯者!」
「何とでも言うがいい。」
 プリティ・ナイトは、あきらめたように両手をだらんと下に下ろした。
「よーし、プリティ・ナイトを縛りつけろ!」
 戦闘員数人がプリティ・ナイトを取り囲み、ステージ中央に置いたX字の磔台の所に引っ張っていく。
「卑怯者め!」
 そう言ってグロテスクを睨むプリティ・ナイト。グロテスクは意に介さず、両手両足に枷を嵌め、プリティ・ナイトを磔台に
固定した。
「あっ!」
 グロテスクが手を伸ばし、円を描くように乳房を揉みしだく。思いがけない攻撃に、狼狽した表情でプリティ・ナイトが声
をあげた。
「ふふふ…、よーし、我々に逆らったらどうなるか、思い知らせてやろう。」
 グロテスクが取り出したのはピンクローターであった。指よりやや太いぐらいの楕円形のカプセルからコードが伸びて
いて、コードの先にはスイッチだと思われる円筒がついている。
 怪人はスイッチを入れずに、ローターをプリティ・ナイトの右の乳首のあたりに押し当て、ぐりぐりと動かす。
「ううっ…」
 プリティ・ナイトが呻き声を漏らす。
「スイッチを入れるぞ…」
「いやっ!」
 ローターのスイッチをオンにすると、ジイィィっとモーター音がした。グロテスクは乳首の周りを円を描くようにローター
を這わせ、振動による快感を引き出していく。
「ああ…」
 必死にガマンしていたが、乳首への絶妙なタッチに、とうとう声を出してしまった。それを聞いたグロテスクが、勝ち誇
ったように笑い声をあげた。
「あっ…、あっ…、あぁぁっ!」
 プリティ・ナイトが身悶えした。グロテスクは、勃起して敏感になった乳首を執拗に攻め続けている。身体をよじってな
んとかローターから逃れようとするが、できるはずもない。
「いやっ!やめて…、やめて下さいっ!」
 その声は、もはやアトラクションのプリティ・ナイトではなく、素の火山朱美に戻っている。磔にされるところまでは聞い
ていたが、ローターで弄ばれることまでは聞いていなかったのだ。しかし、こうして拘束されてしまった今、朱美にできる
抵抗らしい抵抗は、頭を振って叫ぶぐらいしかなかった。
「次は、ここだ!」
 そう言うと、グロテスクは朱美の臍の下に手をやった。そこにはファスナーがついている。グロテスクがファスナーを下
げる。股間に伸びる赤いラインが左右に開き、悩殺的な恥丘のカーブが露出した。



「キャッ!イヤァ!」
 朱美が身をよじった。レオタードや水着を着ることが増えたので、最近は陰毛を剃られている。幼女のようなつるつる
の割れ目がスクリーンに映し出された。色にくすみのない肉土手は白い素肌に近い色で、まだしっかり閉じ合わされて
いる花びらだけが、うっすらとピンクに色づいている。
「おおーっ!」
 会場からどよめきが起こった。なにしろ、トップアイドルの仲間入りを果たそうとする美少女の秘所が、目の前で露わ
になり、スクリーンに大写しになっているのだ。
「あぁ、恥ずかしい…、恥ずかしいよう…」
 朱美がうわごとのように呟く。グロテスクは羞恥に身悶える朱美の様子を楽しむように、ゆっくりと大陰唇を指先で押し
開く。
 初々しい薄桃色の粘膜が幾重にも折り重なって顔をのぞかせる。怪人は、露わになった可憐な花弁にローターを押し
当てた。
「ひっ!…あぁぁっ!」
 振動が敏感な肉襞を震わせる。性感が朱美の体を駆け抜けた。ローターがクリトリスに触れる。朱美はたまらず、喘
ぎ声をあげて、腰を揺すった。
「やっ…、ひっ、ひぃんっ…、あンっ…」
 グロテスクはローターを巧みに操り、朱美に嬌声をあげさせる。
 朱美の悶える表情やローターで弄ばれる陰部がスクリーンに映し出された。会場の数百人の男たちは固唾を飲ん
で、淫らな拷問に見入っている。
「濡れてるようだな。よし、中に入れようか?」
 グロテスクは確認するように朱美の性器に指を埋め込み、ひとしきり粘膜を弄りながら言った。そこは溢れる愛液で
ビショビショになっている。
「いっ、いやっ…、いやですっ!」
「なあに、このサイズなら、処女でも大丈夫だ。」
 そう言うと、グロテスクはローターを膣内に一気に押し込んだ。とたんに朱美の身体が反り返る。
「いっ、痛いっ!抜いてっ!…抜いて下さいっ!」 
 痛みというよりは、体内に異物を挿入されたショックで、朱美は泣き声をあげた。
「いや…、やめて…、こんなの…いや…」
 体中で玩具が淫らに振動するのを感じて、朱美は耐え切れずに声を漏らした。うっすらと閉じられた目から涙がこぼ
れる。
「ちょっと待った!」
 会場に凜とした声が響いた。芝居っ気たっぷりにステージに登場したのは、なんと鳳龍之輔である。場内が拍手と笑
いに包まれる。
「何だ?お前は?」
「鳳グループ総帥、鳳龍之輔だ!」
 鳳が見栄を切ると、爆笑と割れんばかりの拍手が湧き起こった。
「さあ、プリティ・ナイト、これを飲みなさい。」
 磔になった朱美の所に駆け寄り、鳳が小さな箱をかざして見せる。大スクリーンに映し出されたパッケージは、会場に
いる者なら誰でも知っている。スーパーサプリであった。
 スーパーサプリを口にした途端、朱美を縛っていた拘束具が外れた。朱美は、気を取り直してプリティ・ナイトの演技
を再開する。
「さあ、グロテスク!覚悟しなさい!」
 プリティ・ナイトは戦闘員をなぎ倒し、グロテスクと闘う。
 プリティ・ナイトが新体操のリボンに似た武器を取り出し、決め技を放つ。
「ライジング・サンダー・リボン!!」
「うっ…、ううっ…、うおぁーッ!」
 苦しげな叫び声をあげて、グロテスクはその場に崩れ落ちた。
「えーい、覚えておれ…」
 よろよろと立ち上がったグロテスクは、捨てぜりふを残すと、戦闘員を引き連れて、舞台の裾に消えて行った。
 学園騎士プリティ・ナイトのテーマ曲が流れる中、拍手と歓声に包まれて、鳳が朱美をエスコートし、ステージの中央に
立った。
「鳳グループは、次の新たな事業展開を計画しています。みなさん、ぜひ、ご期待ください。」
 その言葉で、大盛況の決起集会は終了した。

 鳳が緊急の記者会見をしたのは、その翌日だった。
「鳳グループは、大手芸能プロダクション、ATプロを買収することにしました。」
 自信たっぷりにそう言う鳳。すでに大量の株式を保有していることを明らかにする。しかし、マスコミの取材を受けたA
Tプロのタイラー社長は、カメラに向かって、きっぱりこう言い放った。
「応じるつもり、アリマセン!」
 すぐさま、両者の全面戦争を予想するニュースが新聞、テレビのトップニュースで取り上げられた。
 その日の午後、炭谷は社長室に呼び出された。心にやましいところがあってビクビクしている彼に、タイラー社長が命
じる。
「炭谷、鳳グループのCMや、提供する番組の全てから、朱美を降板させなさい。」
「えっ…、しかし、契約が…」
「違約金は、いくらになってもOKです。」
 タイラーは断固とした口調で言った。
「…は、はい…、かしこまりました…」
 炭谷が慌てて退出しようとするのを見て、タイラーが彼を呼び止めた。
「炭谷、昨日は朱美のスケジュール、オフになっていますが、間違いありませんね。」
 炭谷は冷や汗をかいた。昨日あった鳳グループ決起集会は、事務所に内緒で入れた営業である。今、こういう事態
になってみると、それは、タイラーに対する裏切行為であり、営業でつまみ食いしたというレベルの話ではない。
「…はい、間違いございません…」
 そう答えながら、炭谷はタイラーを盗み見る。もしかしたら、気づかれているのか。ヒヤヒヤしながら、表情を窺った
が、タイラーの顔色は穏やかなままで、特に変化は見られなかった。
「そうですか。それなら良いです。」
 普段と変わらぬ口調でそう言う社長に、炭谷は深々とおじぎをして、社長室の扉をくぐった。そして、ドアを閉めた途
端、大きく息を吐き出した。

 ATプロの買収騒ぎが連日マスコミでとり上げられ、それに比例して朱美のマスコミ露出も増えていった。なにしろ、両
者の綱引きの真ん中にいるのだ。それが格好の宣伝材料になったのか、朱美の人気もうなぎ登りで、スターダムの頂
点に昇るのも間近かと思われた。
(これで、後は鳳さんが買収に成功すれば、俺は会社役員。いや、これは、社長も夢じゃないかもしれんな。)
 そんな皮算用にニンマリする炭谷のもとに、十日ほどして、一本の電話が入った。
「な、なんだって、まさか!」
 電話に出た炭谷は、慌ててテレビのスイッチをつけた。
 流れていたのは、鳳が詐欺と薬事法違反の疑いで逮捕されたというニュースだった。
 厚生労働省がスーパーサプリの成分を調査したところ、単に小麦粉を丸めただけの代物で、何の薬効もないことが
明らかになったのである。同時に、エージェントによる販売網は、金集めのためのマルチ詐欺商法だということが、明る
みに出たのだった。



 
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