第13話 逆境の朱美

「いらっしゃいませ、ご主人様…」
 メイド姿のウエイトレスがグラスに入れた水を持って来た。
(おおっ、これは可愛い!今日はムチャクチャラッキーだぞ!)
 オタク青年は有頂天になった。やってきたウエイトレスは、目の覚めるような美少女だった。背中まである髪は黒く輝
き、頭に天使の環を作っている。脚が長く、メイド服を着ていても、胸の大きさやスタイルの良さがわかる。そこに立った
だけで存在感があって、持っている雰囲気もどことなく垢抜けしているのだ。



舐めるように見ているうちに、ふと青年は、その顔に見覚えがあるような気がした。
「あれ?君、どこかで会ったこと、なかったっけ?」
 オタク青年が、じっと少女を見る。
「そうだ!ひょっとしたら…、火山朱美ちゃんじゃない?」
 青年のあげた声に、周囲の客が一斉にウエイトレスの方を見る。
「まさか…!でも、よく似てるって言われるんです。」
 そう言ってコロコロと笑うウエイトレス。
「そうだよね、いくら何でも、朱美ちゃんがこんな所にいるわけないよねぇ。」
 オタク青年がそう言って、ウエイトレスと二人で笑い合う。しかし、それは紛れもなく火山朱美だった。
 鳳龍之輔が逮捕されると同時に、鳳グループの広告塔の役割を果たした朱美に対するマスコミの風当たりは厳しくな
った。スーパーサプリのインチキだけならまだしも、マルチ商法の被害者が大勢いたのが致命的だった。明るく健康的
なイメージで売っていた朱美のイメージダウンは止めようもなかった。
 しかも、鳳グループのCMや提供する番組の全てから朱美を降板させるようにというタイラー社長の指示に、炭谷が
従わなかったことが、さらに傷口を広げた。何しろ、鳳が逮捕された当日まで、テレビではレオタードでダンスする朱美
のCMが流れていたのだ。
 仕事は全てキャンセルになり、朱美はこうしてアルバイトをして、金を稼ぐしかなくなっていた。

「久しぶりに仕事だぞ…」
 メイド喫茶のアルバイトが終わったちょうどその時、焼津宏一から電話が入った。タイラー社長を裏切ってマネージャ
ーをクビになった炭谷に代わって、朱美のマネージャーになった男だ。
「…はい。」
 仕事の連絡が入ったと聞いても、朱美の声は沈んだままだった。
 駅前でハイレグのレオタードを着てティッシュを配ったり、デパートの屋上で売れない芸人の前説を超ミニスカートでや
らされたり、ただのエキストラ役で肌をさらす羽目になったりと、このところ、仕出しのタレントなみの仕事しか来ない。
 最も屈辱的だったのは、栗田麻由が主演しているテレビドラマにエキストラ扱いで出演させられた時だった。学園物だ
ったが、麻由の隣で着替える更衣室のシーンや、水泳の授業での水着の胸やお尻のアップといった、ストーリーとは全
く関係ない、サービスカットの撮影だけに使われたのだ。
 特に屈辱的だったのは、体操服でランニングするシーンだった。撮影現場で朱美は体操服の上だけを渡された。
「ADがブルマーを忘れちゃってね。どうしようかな…。」
 ディレクターがわざとらしく困ったような表情を浮かべて弁解すると、近くにいた麻由がニヤッと笑って言った。
「いいじゃない、下半身にボディペインティングすれば。どうせ、背景なんだから、わからないわよ。」
「そうだな…、そうしようか。」
 事前に麻由と示し合わせていたディレクターは、ニヤニヤ笑いながらそう言って、小道具の中から紺色の絵の具と筆
を持って来させた。
「よし、じっとしているんだぞ…」
 そう言いながら、ディレクターは朱美を下半身裸にすると、ADに任せるのではなく、彼自身が絵筆を握って朱美のお
尻に、ツルツルに剃られた下腹部に、紺色の絵の具を塗っていく。
「あっ…、駄目っ…」
 朱美が思わず声をあげた。ディレクターがしゃがみ込んで、股間の割れ目に筆を這わせているのだ。
「ちゃんと塗っておかないと、裸だってことがバレちゃうだろ。さあ、足を開いて…」
 近くにいたADが協力して、朱美の脚を肩幅ほどに開かせると、ディレクターは彼女の股間を見上げるようにして覗き
込んだ。きれいに陰毛を剃られたふっくらした大陰唇に縦線がスッと入り、中から5ミリぐらいのピンクの小陰唇がはみ
出している。
「ここも忘れずにと…」
「い…、いやっ、あっ…いやっ、はぁっ…」
 ディレクターは長いストロークで筆を走らせた。筆先で何度も陰裂を撫でられて、朱美は喘ぎ声を漏らして身悶えす
る。繊細な筆のタッチで、全身に鳥肌が立っていた。溢れ出す愛液を吸って、筆の動きが滑らかになっていく。
「面白そう!私にもやらせて!」
 麻由がやって来て絵筆を受け取ると。割れ目を開いて、クリトリスを筆先でなぞる。
「やめてっ…、そ…そこはっ…」
 敏感な突起を嬲られて、朱美は悲鳴をあげて腰を振る。しかし、ディレクターが背後に回ってがっちりと体を押さえて
いるため、逃げることができなかった。
「塗り残しがないようにしとかないとね…」
 楽しそうに笑いながらそう言うと、麻由は朱美の勃起しきった肉芽にをつついた。
「そこは駄目っ…、あぁんっ!」
 朱美が体を捩る様子を楽しみながら、麻由とディレクターは交互に絵筆で彼女を責め上げた。
 そうして、息も絶え絶えになりながら下半身のボディペインティングが終わると、朱美はロケ地の学校の校庭を、何周
もランニングさせられたのだ。
「ふふふ…、恥ずかしい格好…」
 麻由の声が耳の奥に残っている。撮影の合間に麻由が見せた、嘲笑うような視線が忘れられない。それを思い出す
度に、負けず嫌いで勝気な朱美は、「このままでは終われない」と思うのだった。

 焼津が取ってきた久しぶりの仕事というのは、新しくできた郊外型ショッピングセンターのオープニングイベントだっ
た。朱美が焼津と一緒に店内に入ると、多少デザインは野暮ったいものの、朱美の写真入りのポスターが店内のあち
こちに貼られていた。メインゲストの一人として扱われている分だけ、これまでの仕事より少しはマシだろうか。
 店側の担当者に案内されて、朱美が楽屋がわりに通されたのは、倉庫のような場所だった。以前の待遇と比較する
と悲しくなってくるが、それでも場所があるだけ良しとしなければならない。先日などは、デパートの屋上で、買い物客の
好奇の視線を浴びながら着替えさせられたのだ。
「さあ、今日の衣装だ。」
 焼津がやけに小さな紙袋を渡す。中を覗いて、朱美が驚いた表情を浮かべた。
「あ、あの…、これを…、着るんですか?」
「そうだ。さっさと着替えるんだ。」
 当然のことのように焼津が答える。がさつで乱暴なところはあったが、朱美を売り出すことには熱意を持っていた炭谷
と違って、この新しいマネージャーは、やる気のない役人のような男である。これまで朱美が何を言っても、反応らしい
反応を見せず、ただ「予定どおり」の仕事をするよう求めるだけだった。仮にここで泣き喚いても、このマネージャーは
全く意に介することはないだろう。朱美はそう思うと、抗議するのをあきらめて、与えられた衣装に着替え始めた。
 催し会場に作られた特設ステージでは朝から、ショッピングセンターに入っている店の紹介や福引き、アマチュアバン
ドや地域の吹奏楽、コーラスなどの出し物が繰り広げられていた。
 そして、午後3時を告げる放送を合図に、ステージ上の司会者が妙に張り切った声で告げた。
「それでは、お待たせしました。本日のスペシャルゲスト、火山朱美ちゃんでーす!」
 華やかな音楽と拍手の中、ステージに登場した朱美を見て、観客の中から「おおっ!」というどよめきが起きた。
 朱美が着ているのは、赤いビキニの水着だった。しかも、生地の部分が極端に少ない。トップは、紐でつながった小さ
な三角の布をあてているだけといった感じで、豊かな乳房の4分の3は露わになってしまっている。ボトムもいわゆる紐
パンで、水着を腰にとどめるための紐は、かなり下に位置している。下腹部の半ば以上が見え、今にもずり落ちてしま
いそうだ。お尻に回る部分は、単なる紐といっていいほどの細さになっている。
(恥ずかしいっ…)
 観客の視線を浴びて、朱美は羞恥に身を震わせた。休日午後のショッピングセンターで、その格好はあまりにも場違
いだった。事実、男性客が目を輝かせる一方で、休憩がてらイベントを見物しようとしていた家族連れや女性客は眉を
顰め、慌ててその場を立ち去っていく。
 一方、男性客、とりわけアイドルのイベントを狙って来ている観客は歓喜し、朱美の足の先から頭まで、舐めるように
視線を這わせる。
 胸と股間を手で隠したくなる衝動を堪えて、朱美は堂々とステージの中央に立った。こういう場合、体を隠す方がずっ
といやらしく見えることを知っているからだ。ファッションショーのように堂々としている限り、それは一種の「演出」であ
る。そして、火山朱美はモデルであり、グラビアアイドルなのだ。
 とは言っても、観客たちの卑猥な視線は変わらない。最前列に座っている数人の青年の声が、朱美の耳に届いた。
「大胆な水着だな。胸のポッチ、あれ、乳首だよなぁ?」
「鳳グループの事件以来、落ち目だからなぁ。今にヌード写真、出すぜ。」
「いや、ひょっとしたらAVデビューかも。」
「そしたら、俺、絶対買うよ!」
 朱美が思わず顔をしかめた時、青年たちの会話を遮るように音楽が流れた。かつて、朝のワイドショーで大人気を博
した「パッチリ体操」の音楽だ。
「よかったら、みなさんも一緒にどうぞ!」
 朱美はことさらにこやかな笑みを浮かべてそう言うと、音楽に合わせて体操を始めた。本音を言えば、今すぐ逃げて
帰りたい気分だったが、それは芸能界を放棄することとイコールだ。ここは、歯を食いしばってステージをこなすしかな
い。
 朱美が身体を前に倒した。豊かな胸が釣鐘型になり、文字どおりたわわな「房」になって揺れている。小さな三角の布
は申し訳程度にその頂点に乗っているに過ぎない。
 腰に手をあてた朱美が背中を反らせた。陰部を隠す生地が引き伸ばされて、股間に食い込んでいく。恥丘の盛り上
がりが強調され、股に食い込んだ薄い生地は、亀裂の形まで露わにする。



「うおぉ…、すげぇ…」
 観客たちが歓喜の声をあげた。
「もう少しでオ××コ見えそう…」
 観客は大喜びで朱美の股間に視線を送る。
 やっと体操が終わり、司会者が朱美の側に寄ってきた。司会者の視線も朱美の体に釘付けになっている。
「いやあ、大胆な衣装ですねえ…」
「ええ…」
 司会者が朱美にマイクを向ける。朱美はごまかすように笑って、恥ずかしそうに頷いた。
「いやあ…、ホント…、肌も露わで…、ねぇ…」
 司会者は無遠慮にじろじろと彼女の体を見ながら、なおも言葉を続ける。朱美は意を決した様子でそれに答えた。
「グラビアアイドルでデビューして、水着になるのが恥ずかしいなって思うこともあったんですけど…。最近は、ファンの
みなさんに、喜んでもらえるなら、どんどん見せていこうかな…、なんて…」
 観客から拍手が起こった。ちょっとはにかみながら答える様子がキュートで、男達の心をかき立てる。もちろん、本心
で言っているのではなく、事前に指示されたとおり答えているのだ。
 司会者とのトークに続いて、朱美は二、三曲、歌を披露した。朱美自身が歌ってヒットしたダンスナンバーは、鳳グル
ープの印象が強すぎるということで避け、仲の良い風見清香の曲を歌ったりしている。
「クイズ・ターイム!」
 歌が終わるなり、司会者が声を張り上げた。
「これから、お集まりのファンのみなさんにクイズをやっていただきます。優勝者は朱美ちゃんとクイズで勝負し、朱美ち
ゃんに勝ったら、当ショッピングセンターのお買い物券と、朱美ちゃんの熱いキスをプレゼントします。」
 観客たちが拍手し、歓声をあげた。
 最初は○×クイズで徐々に人数を減らし、残った数人がステージ上で勝ち抜き戦をやる。最終的に勝ち抜いたのは、
メガネをかけた痩せぎすの、大学生らしい青年だった。
「では、いよいよ朱美ちゃんと勝負です。負けた方は…」
 司会が垂れ下がっている紐を引くと、ザーッと音を立てて水が落ち、ステージを濡らした。回答者二人の頭上にバケ
ツがセットされているのだ。
 クイズは3問あった、優勝者と朱美が1問ずつ正解し、いよいよ最後の問題。
「スターハントのプロデューサーと言えば…」
「ハイッ!土本創児っ!」
 優勝者の大学生が先に答える。「正解!」という司会者の声に大学生がガッツポーズを見せる。
「さあ、朱美ちゃん、覚悟はいいですね。」
「えぇっ!どうしよう…、ちょっと、ちょっと待って…」
 うろたえる朱美の頭上でバケツがひっくり返り、ステージに水飛沫があがった。
「キャーッ!」
 朱美が悲鳴をあげた。長い髪がぐっしょり濡れ、白く滑らかな肌に水滴が流れている。
「おおっ!」
 観客からどよめきが上がった。
 水を含んだ水着は身体に吸い付き、乳首の形はおろか、乳輪の色も形も透かして見せている。下半身を見ると、股
間の割れ目がくっきりと浮き出ていた。裸でいるのと変わらない、いや、全裸になるより淫らで、恥ずかしい格好だっ
た。
「丸見えだ…」
 だれかがポツリと言った。観客席はシーンと静まり、一様に目を丸くして朱美の姿に見入っていた。
 最初は、何が起きたのかわからず呆然としていた朱美だったが、観客の視線を追って、スケスケになっている水着に
気づいた。思わず胸に手をやり、膝を折って股間を隠そうとする。
「キャーっ、見ないで…」
 とうとう悲鳴を上げ、ステージにしゃがみ込む朱美。客席で数多くのフラッシュが光る。観客の中には、カメラやケータ
イを構えている者も少なくなかった。
 観客席の一番後ろで、カメラを抱えている男の姿があった。その容姿からも、持っているカメラからも、周囲のカメラ
小僧とは違って、明らかにプロのカメラマンだとわかる。男は朱美の表情から全身、股間へとレンズを向け、カメラのシ
ャッターを切っていく。
「うむ、やっぱり朱美はいいな…」
 そう呟いたカメラマンは、尾形大地であった。彼は逆境にある朱美をずっと追いかけていたのだ。
 ステージでは、司会が優勝者にキスするよう、尻込みする朱美を促していた。ちょっと躊躇った後、朱美は素早く動
き、大学生の頬に軽く唇をつけた。普通のイベントなら、これで拍手が起きて終わりとなるのだが、司会者はそれでは
許さなかった。
「おや?そんなので誤魔化そうとしてもダメですよ。」
 そう言うと、司会者は朱美の腕を掴んで引き寄せた。
「朱美ちゃん、彼に抱かれて、唇と唇を重ねてください。」
 朱美の体を大学生の方に押しやり、今度は、彼の方に向かって声をかける。
「君、僕が許す。舌を入れていいからね。」
 司会者に言われて、大学生はニヤニヤと照れ笑いを浮かべた。
「じゃあ、キスしてください!」
「あっ…」
 司会者の合図とともに強く腕を引っ張られて、朱美が声をあげる。大学生は濡れた水着を着たままの朱美を抱き寄
せた。腕の中に暖かく、柔らかな感触があり、甘い香りが漂う。有頂天になった青年は、自分の服が濡れるのも構わ
ず、アイドルの身体を抱きしめた。背中に回した指先に触れた素肌の感触があまりに官能的で、無意識のうちに股間
がふくらむ。
「キス!キス!キス!」
 観客が一斉に手拍子で囃し立てる。
 朱美は覚悟を決めて顔を上げる。天使のように可愛い顔だ。大学生の心臓がドキドキと激しく脈を打つ。長い睫毛の
目が閉じた。プックリとした柔らかそうな唇が目の前にある。大学生は、無我夢中でその唇を奪った。

「社長、朱美にもう一度、チャンスをやっていただけませんか?」
 ATプロの社長室で、出されたコーヒーカップに口をつけながら、尾形が言った。ショッピングセンターのイベントの翌
日のことである。
「尾方先生は、朱美びいきですね。」
「ええ、もちろん。これまで多くのアイドルや女優を撮影してきましたが、あの娘には、他の誰にもない『華』があるのです
よ。」
 尾形が熱心に語るのを聞いて、タイラー社長はにっこりと微笑んだ。
「私も、あの娘は可愛い。このままにするつもりはありません。要はタイミングなのです。」
「それなら、私がそのタイミングを作りましょう。実は、暁タカシ監督の次の作品、私が撮影を手伝うことになってるんで
すよ。その主演女優として、朱美を推薦したい。」
「ほう…」
 タイラー社長の目が輝いた。暁タカシは世界的に評価されている映画監督だ。その作品の主演ともなると、さすがの
ATプロと言えども、なかなか引っ張って来られる話ではなかった。
「それは願ってもないお話だ。ぜひ、よろしくお願いします。」
 流ちょうな日本語でそう言うと、やり手の外国人社長はカメラマンに頭を下げた。



 
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