第15話 希望と絶望と…

 カーテンの隙間から、朝日がベッドの上に差し込んでいる。
 目覚めた汐理の横で、島津はまだいびきをかいて眠っていた。時計を見ると6時過ぎだ。そろそろ島津を起こさなけ
ればならない。汐理はベッドに潜り込んだ。
 起こすと言っても、普通の起こし方ではない。汐理も島津も二人ともベッドの中で全裸で寝ている。汐理は朝立ちで半
ば勃起している陰茎を口に咥え、クチュクチュとしゃぶり始めた。
「う…、ううん…」
 まだ夢の中にある島津が声を漏らし、仰向けに大の字になる。
 汐理はカリからサオの裏に舌を這わせ、唾液に濡れたペニスを口に含むと、睾丸を優しく撫で、舌をサオに絡めなが
ら、強く吸う。島津の肉棒は、ムクムクと大きくなり汐理の唇を押し広げていった。
 陰茎が十分勃起すると、汐理は毛布を取り、天井を向いて屹立している肉棒を自ら陰裂にあてがって、ゆっくりと腰を
降ろしていく。
「うぅ…、ううん…」
 ブルッと体を震わせて島津が目を開いた。下腹部を見ると、太い肉棒が陰裂を押し広げ、汐理の中にゆっくりと出入
りするのが見える。
「お…、おはよう…ございます…」
 島津の上で腰を上下させながら、汐理が挨拶をする。
「おはよう…、朝からいやらしい娘だな…」
 そう言いながら島津は手を伸ばし、目の前で揺れる乳房を鷲掴みにした。柔肉が島津の手の中で形を変え、尖り出し
た乳頭が掌をくすぐる。汐理は愛撫を胸に受けながら、左右に前後にとクネクネと腰を振った。
「ううん、あん、ああん…」
 腰の動きに合わせ、秘孔からはクチュクチュと淫らな音が聞こえてくる。乳首を摘み、コリコリと転がしながら、島津も
ゆっくりと腰を動かす。
「あん、ああん…、ああん…」
 汐理はベッドの上で体がバウンドするくらいに腰を振り、身体を仰け反らせた。
 その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「おはようございます。池尻です。」
「もうそんな時間か…。入っていいぞ。」
 カチャッと音がして、ドアが開いた。美津子には予備のキーカードが渡されているのだ。慌てて、島津の体から離れよ
うとした汐理の体を島津が抱きしめる。



「あら、汐理ちゃん、まだ先生に抱かれてるの?早くしないと、間に合わないわよ。」
 全裸で島津に抱かれている汐理を見て、美津子が大きな声をあげる。島津の陰茎は、彼女の中に入ったままだ。
「あんっ!」
 太い腕で抱き締められたまま、いきなり真下から突き上げられた。肉竿が子宮の奥まで入ってきたのを感じて、汐理
はか細い悲鳴をあげながら、思わず島津に強くしがみついた。
「もうちょっとなんだ、そこで待っていてくれ。」
 美津子に声をかけると、島津は汐理に言った。
「さあ、腰を振って、私をイカせてくれ。」
「それじゃあ、急いでするのよ。」
 あきれたようにそう言って、ため息をつく美津子が見つめる前で、汐理は淫らに腰を振った。
「あはっ、はぁ…、はぁ、はぁ…」
 腰の動きが早くなり、汐理の口から漏れる吐息も早くなっていく。汗ばんだ額に、頬に、切り揃えられた髪が張りつく。
汐理の秘孔は、島津の怒張を繰り返し締め付けてきた。
「いいぞっ、いっ…イキそうだっ!」
 そう言って島津が呻き声を漏らす。島津の怒張がさらに大きくなった。汐理の膣がキュッキュッと収縮する。途端に、
汐理の体内に大量の精液がぶちまけられる。
 汐理は慌てて、島津の腕を擦り抜けて立ち上がった。太腿に生暖かいものが流れる感触がして、栗の花の臭いが立
ち昇る。
「さあ、早く服を着て。本当に遅れちゃうわ。」
 美津子が時計を見ながら、イライラした調子で言った。
「ちょっと、待ってください。今、シャワーを浴びます。」
 バスルームに駆け込もうとする汐理の腕を、島津ががっちりと掴む。
「ダメだ。そのまま服を来て、出て行きなさい。」
「そんな…、意地悪言わないで…」
 汐理は半べそをかいて、島津に哀願する。自分の愛液と島津の精液で股間はベトベトになっている。気持ちが悪く
て、今すぐにでも洗い流して清めたかった。
「君は私のものだ。今日一日、それを体感しながら過ごしてもらおう。経験したことは、何でも芸能活動の肥やしになる
ものだ。」
 無茶苦茶な理屈をつけて、汐理の背中を押した。
「汐理ちゃん、先生の言うとおりにしなさい。」
 ティッシュで拭くことも許されないまま、汐理はパンティを穿いた。股間に溜まった液体が股から溢れて下着を汚す。
 汐理はしかたなく、そのまま服を着ると、美津子に引っ張られるようにしてホテルの部屋を後にした。
「今日は打ち合わせがあるから、迎えは事務所のスタッフで空いている人を寄越すわ。」
 学校の前で車を停めると、美津子はそう言って汐理を送り出した。未だ体からザーメンの臭いを漂わせた汐理が、浮
かない顔で車を降りる。パンティが濡れて冷たくなっており、お漏らししたみたいだ。
「ほらほら、元気出して!」
 そう声をかけ、ドアを閉めようとした時、逆に引っ張られるような感触があった。驚く間もなく、助手席に男が乗り込ん
で来た。柄シャツに安物のアクセサリー、派手なスーツ、顔にはサングラス。どう見ても堅気には見えない見知らぬ男
だ。
「車を出せ!」
 サングラス越しに美津子をねめつけると、唸るような声で男が言った。

 午後、汐理はTBC放送の近くにある公園を、一人でぶらぶらと散歩していた。島津がスタジオ入りするまでの約1時
間、それが、汐理に許された自由時間だった。
 公園のほぼまん中に、人工的に作られた小さな池があった。池のほとりのベンチに腰掛け、ぼんやりと水面を眺める
汐理。その表情は憂いに充ちて、今にも泣き出しそうに見えた。
 島津に処女を奪われた時は、ショックで二、三日、眠ることも食事をすることもできず、いっそ死んでしまおうかとも考
えた。しかし、その考えを実行に移す間さえもなく、島津のセックス奴隷としての日々が始まった。最初に感じた衝撃は
しだいに麻痺していくが、行き場のない悲しみと自己嫌悪は澱のように心の中に積もっていく。
(芸能界なんて、もうやめよう…)
 その決意は、九割がた固まっている。あとは、美津子に言い出す踏ん切りだけの問題だった。
 物思いに沈んでいた汐理の背後から、妙に明るい声が響いた。
「…なーんてね…」
「チャンチャン!」
「駄目だ、面白くねぇよ。」
 ベンチの後ろの、植え込みの向うから声がする。何気なく覗くと、3人の男が頭を寄せ合ってメモを見ながら、何やら
話し合っている。
「つっこみのタイミングが早いんじゃないか?」
「もうちょっと、このネタで引っ張ってさぁ…」
 どうやらコントのネタ合わせをしているらしい。ノッポ、チビ、太っちょの三人組、あまり見たことのない顔だ。駆け出し
のお笑い芸人なのだろう。
「じゃあ、もう一度最初から…」
 リーダーらしいノッポの男がそう言って、再びコントが始まる。
 汐理はベンチに座ったまま、それに聞き入った。まだまだ素人っぽく粗削りな部分はあるが、テンポがよく、勢いがあ
って面白い。安易に下ネタに頼ったり、相方を殴って笑いをとったりしないところが、芸に取り組む真面目さを示してい
て、清々しくもある。
 最初はクスクスと忍び笑いを漏らしていた汐理だったが、聞いているうちに、とうとう我慢できなくなって、お腹を抱えて
笑い出した。
 芸人たちが、汐理に気づいて、こっちを見ている。
「あっ!水沢汐理ちゃんだ!」
 ボケ役の太っちょが、大きな声をあげた。
 ノッポのヒデ、チビのケンジ、太っちょのポン、三人は「レインドロップス」というコントグループだった。デビューして1年
になるが、仕事らしい仕事が来たことは、今だに数える程しかなかった。今日は、久しぶりにテレビの仕事だということ
で、喜び勇んでやってきたのだが、コントをさせてくれるどころか、深夜のつまらない番組で、悲惨な罰ゲームを受ける
ためだけに出て来るという役回りだった。
 一緒にベンチに座り、そんな話を、まるでコントを演じるように話して聞かせる三人、汐理は悪いと思いながら、何度も
笑った。こんなふうに笑ったのは、ずいぶん久しぶりだった。
「でも、いつかビッグになるんだ。」
「大きなホールで、満員のお客さんを爆笑させてな!」
「汐理ちゃんも見に来てよ。」
 レインドロップスの3人は瞳を輝かせて言った。そして、思い思いに将来の夢やお笑いに対する情熱を熱く語る。その
様子を見ながら、汐理は少し元気をもらったような気がした。
(もう少し…、もう少しだけがんばってみよう…)
 もともと、やりたいと思って始めた仕事だ。実力さえつけば、島津の支配から抜け出ても、芸能界でやっていけるかも
しれない。汐理は美津子に「やめたい」と言うのを、先に延ばすことにした。

 そこは、マンションの一室だった。ここに来るまで細かい道路を迷路のように走らされたので、場所はどこなのか全く
わからない。ベッドに腰をかけて座らされている美津子の周りには、二人の男がいた。
「こ、ここは…どこ…」
 美津子は勇気を振り絞って尋ねた。
「やかましい、よけいなことは言わずに、大人しくしてるんだ!」
 美津子をここまで連れてきた柄シャツの男が、怒鳴りつける。いかにもヤクザといった、狂犬がそのまま人間になった
ような男だ。
「おいおい、マサ、そんな大声、出しなや。お姉ちゃん、恐がっとるやないか。」
 高級そうなスーツに身を包んだ男が、関西弁で狂犬男をたしなめる。美津子は視線を向けられただけで、背中がゾク
ゾクし、顔面から血の気が引き、手足が震えるのを感じた。言葉付きは穏やかだが、本当にヤバイのはむしろこっちか
もしれない。
「なあ、お姉ちゃん、仲良うしょうや。」
 そう言うと、男の手がスーツの上から美津子の乳房を掴み、いやらしい手つきで揉み始めた。
「あっ、いやっ…」
 男はポケットからナイフを取り出して、美津子のスーツとブラウスのボタンを次々に飛ばしていく。胸元が開いてセクシ
ーなブラジャーが覗いた。ナイフがブラジャーの紐を切る。
「んん…、あっ…、いや…」
 関西弁の男は露わになった胸の膨らみをグッと掴み、押し潰すように揉みしだきはじめた。美津子の口はカラカラに
乾き、鳥肌が全身を覆う。
「へへへっ…、ええ体しとる…」
 そう言うと、男はいきなり美津子の唇を奪い、そのままベッドに押し倒した。貪るように唇を吸い、胸元に差し込んだ手
をネチネチと厭らしく蠢かせて、乳首をコリコリといたぶる。
「ん…んん!…ん……」
 暴れる美津子の身体を力で抑え込みながら、男はスカートを捲り、ストッキングとパンティを脱がせた。
「あっ、いやっ!やめてっ!」
 すらりと伸びた二本の脚が泳ぐように空中をかき、両手が男の胸板を叩く。美津子は必死で抵抗した。これまで、
数々の男を手玉に取り、自分の体を武器にした営業も辞さなかった彼女だったが、相手は業界の大物や大企業の幹
部であり、しかも、イニシアチブは常に自分が握ってきた。チンピラヤクザなんかに無理やり犯されるのは、プライドが
許さなかったのだ。
「このアマっ!」
 マサが美津子の頬にビンタを食らわせた。関西弁の男も薄笑いを浮かべたまま、ベッドの上の美津子を殴ったり蹴っ
たりする。
「ああ…、ご、ごめんなさい、抵抗しませんから、もう許して…」
 容赦のない男の暴力を受けて、美津子が泣き出した。美しい顔が涙でぐしゃぐしゃに濡れて歪んでいる。乱れた髪が
かかる頬は、殴られて赤くなっていた。
「やっと、素直になったんか?ほんなら、仲ようさせてもらお。」
 そう言いながら、関西弁の男はズボンとパンツを脱ぎ捨て、美津子の太腿の間に体を入れる。そして、ほとんど濡れ
ていない美津子の花弁に唾液を吐きかけると、黒ずんだ男根を押し当て、無理やりにねじ込んだ。
「うっ…、くっ…、い…た…」
 痛みに顔を歪めて、美津子が呻いた。
「へへっ、どうせ、すぐに気持ちようなるわ。」
 男はグイッ、グイッと腰を押し出し、怒張を狭い秘孔に押し込むと、腰の角度を変えながら抜き差しし、美津子の性感
帯を探っていく。
「う…、あううん…」
 亀頭の反り返りがGスポットを擦る。美津子は頭を反らし、声を上げた。
(ど、どうして、感じてしまうの?)
 ヤクザに力ずくで凌辱され、激しい嫌悪感を感じているのに、声を噛み殺そうとしても、自然に喘ぎ声が漏れてしまう。
「うう…、いっ、ううう…」
「ここが感じるんやな…」
 そう言うと、男は腰の振りを早め、一気に攻め立てた。
「あ、あん…、あんっ…」
 美津子の身体がベッドの上で跳ねた。喉を伸ばし、頭を仰け反らしながら、痙攣するように震える。男は激しく腰を振
り、溜まっていた精液をたっぷりと膣穴奥深くに放った。
「次は、俺だ!」
 そう言うと、狂犬男のマサが美津子の上に乗った。男の肉棒が秘孔を押し開いていく。
「うぅぅ…、うっ…、うっ」
 美津子が呻き声を漏らした。それは、女の膣を使ったオナニーと言っていいような、荒々しく、ガツガツと貪るようなセ
ックスだった。グチュッグチュッと音を立てて溢れ出るのは、兄貴分が注ぎ込んだ白濁液だ。
「も、もっと…、やさしくして…」
 苦痛に喘ぐ美津子の言葉にはお構いなしに、マサは腰を彼女の恥丘にぶつける。
「おっ、おうっ、いいぞ!」
 オットセイのような声をあげて、男は腰の動きを早め、一気に攻め立てた。乱暴な動きで子宮の奥が突き破られそう
だ。
 マサが射精を終えた時、関西弁の男の携帯電話が鳴った。二言、三言喋った後、男は美津子に携帯電話を渡した。
「お美津さん、儂だよ…」
 それは、演歌の帝王、西郷公彦の声だった。
「あんた、私を裏切っただろう。」
「はっ?先生、それは、どういうことでございましょう?」
 ベッドに座った美津子は、かろうじて取り繕った声を出した。相手に見える訳でもないのに、髪をかきあげ、身繕いを
しながら話している。
「とぼけるのもいい加減にしないと、儂の友人たちが、あんたをもっとおもてなしすることになるよ。」
 ドスの効いた声で西郷が言った。二人のヤクザはニヤニヤ笑いながら、美津子の方を見ている。リサイタルに組員を
招待したり。組長の葬儀に参列したり、西郷と暴力団との関係は公然の秘密だった。島津を選んだ時点で手を打って
おくべきだったのだ。美津子は自分の甘さを呪った。
「申し訳ございませんでした。汐理のことは…。島津キャスターに、半ばレイプされるような形で奪われてしまいまして
…」
 なおも言い訳しようとする美津子を遮って、西郷は言った。
「言い訳はもういい。それより、汐理を島津の番組から降ろして、今後は、儂が選んだ仕事をする。いいな?」
「…はい、わかりました。」
 美津子は電話に向かって頷いた。それ以外の答えができる状況ではない。
「手初めに、汐理にドラマの仕事を受けてもらう。」
「ドラマ?」
 美津子が怪訝そうな表情を浮かべると、まるで話を聞いていたかのように、暴力団の男が彼女に台本と契約書を放
り投げた。

「よし、今撮ったシーン、見て見よう。」
 副調整室のプロデューサーの横にデンと座った西郷が言った。今日は、汐理の初主演ドラマ「ドッグ・ライフ」の撮影
初日である。
 クラスメイトを振った女の子が魔法で犬にされてしまい、彼女のことを心から愛する人と結ばれるまで魔法が解けず。
自分を振ったクラスメイトに飼われて暮らすというドラマだった。
 モニターに、撮影したばかりの映像が映った。
 放課後の教室、汐理が演じる犬塚杏奈が、呪いのかかったパソコンのスイッチを入れる。
「これ、何かしら?『呪文を唱えてください。レナニヌイグスマイ』」
 ディスプレイに浮かび上がった呪文を、何げなく呟いてしまう杏奈。途端にパソコンのディスプレイが怪しげな光を放
ち、杏奈は床に倒れ込む。
 床に脱ぎ捨てられた制服、靴、下着。そして、そこにあったのは、全裸で犬の耳としっぽ、首輪だけを身につけ、四つ
ん這いになった汐理の姿だった。





 
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