たまたま通りかかった本屋の前で、炭谷は立ち止まって、本の宣伝ポスターをじっと見ていた。 『時代を変える』…、そうタイトルされた本の筆者は、スーパーサプリ社長、鳳龍之輔。ポスターの中で自信に満ちた 笑顔を浮かべている30歳代の男だ。目鼻立ちのはっきりした、精悍なハーフのような顔立ちに、見事な鼻髭が似合っ ており、服装の着こなしもお洒落だ。 その顔が得意げな表情を浮かべて、こう言ったのを炭谷は思い出した。 「私は、朱美ファンドの50%を保有しました。」 場所は、都内の高級ホテルのラウンジ。炭谷の月収を軽く超える高い酒をグラスに注いで、鳳は彼に差し出した。 (別世界の住人だ…) 炭谷は驚きと尊敬と羨望がないまぜになった視線を相手に向ける。 鳳が経営するスーパーサプリ社は、彼が開発した万能の効果を持つサプリメント、スーパーサプリを販売するため に、自ら起こした会社である。鳳はこのスーパーサプリを店頭販売するのではなく、一般公募によるエージェントに販売 させるシステムをとり、学生やフリーター、家計を助けようという主婦やサラリーマンの副業にと、大々的にエージェント を集めている。そして、その売上げを株式などに金融投資することによって、莫大な利益を生み出す。そんな手法で、 鳳龍之輔は今や時の人になっていた。 鳳は、炭谷の目をじっと見て尋ねる。 「火山朱美は、ヴァージンだと聞きましたが、それは、間違いありませんね。」 「もちろんです。あの娘、セクシーで大胆なキャラで売り出してはいますが、実際のところは結構堅いし、ウブな娘で す。」 「結構です。」 満足そうにそう言うと、鳳はゆっくりと言葉を続けた。 「では、『大株主』として、朱美の初体験の相手をつとめさせていただくことを要求します。」 「えっ、しかし、それは…」 思いがけない展開に、炭谷はあわてふためく。 「何か不都合でも?」 「…いや、社長がどうおっしゃるか。朱美は社長のお気に入りですから…」 それは嘘ではない。朱美と汐理、スターハント出身の2人は、ATプロ社長のアルフレッド・タイラー肝入りのプロジェク トと言っていい。炭谷が勝手に取引の材料に使うことは、けっして許されない。 すると、鳳は楽しげな笑い声を立てて、こう言った。 「あわせてお知らせしておきますが、私はATプロの株式の20%を保有しました。今後、さらに株を買収するつもりで す。」 「えっ?」 「株主として、経営にそれなりの影響力を与えられるでしょう。」 「………。」 炭谷は言葉を失った。凍りついたような顔を浮かべている彼に、鳳はニッコリ笑いかける。 「そこで、私は、あなたを取締役に加えるよう、要求するつもりです。」 「えっ!」 「そして、いずれ、タイラー氏には退陣していただく。」 今度は目を白黒させる炭谷を前に、鳳はなおも言葉を継いだ。 「ATプロが私たちのものになったら、そのお祝いに、朱美のヴァージンをいただくことにしましょう。そう遠い話ではな い。それに、私は、美味しいものは後にとっておくタイプですから。」 そう言って、鳳は自分のグラスを炭谷の前にかざした。炭谷は一瞬迷った後、手にしたグラスをそれに触れ合わせ た。 FFCテレビの地下駐車場にATプロモーションの車が入ってくると、追っかけのファンが駆け寄って来た。 車を降りて来たのは、ゆったりした花柄のワンピースを着て、サングラスをかけた朱美である。スター・ハントでデビュ ーした3人の中で、グラビア・アイドルの道を進んだ彼女は、一足早くスターの仲間入りを果たしていた。 「朱美ちゃーん、サインして!」 度のきつそうな眼鏡をかけた少年が野太い声で言い、サイン帳を差し出した。十人程がいっせいに彼女の周りを取り 囲もうとするのを、マネージャーの炭谷が押しのける。 「ハイハイ、通してね。」 ぶっきらぼうに言いながら、ジロリと睨むと、その凄みに気圧されて、追っかけの一団は一歩後ずさった。その隙に、 炭谷は朱美の手を引いて、楽屋口から素早く中に入る。 「ゴメン、またね!」 朱美は振り返って、少年たちに申し訳なさそうに声をかけると、マネージャーの後をついて、中に入って行った。 「何だよ、ケチ。サインぐらいいいじゃないか。」 眼鏡の少年が不満そうに言った。その横でデジカメを抱えた若者とその連れが興奮した様子で喋っていた。 「ほら見ろよ、やっぱり朱美ちゃん、ノーブラだぜ!」 「それに、これ、下も穿いてないんじゃないか。」 一斉に注目が集まるのを感じて、撮影した若者は得意げにデジカメのディスプレイを示した。 可愛い花柄のワンピースはかなり薄い生地でできているらしい。上半身を写した画面では、胸に乳暈がうっすら写り、 後ろ姿のお尻はどう見てもパンティをはいている様子がなかった。 「穿いてないよ。間違いない。」 別の男が携帯電話のディスプレイを示して言った。あの短時間にどうやって撮ったのか、それはスカートの中の盗撮 写真だった。そこには、きれいに手入れされた陰毛と、ふっくらとした割れ目がはっきりと写っている。 「スゲェ!」 「そのデータくれよ!」 「俺も!」 追っかけの一団は大騒ぎでデータを交換し合った。 放課後の教室。 補習だと言われて残された女生徒に、男性教師が襲いかかる。 必死で逃げまどう女生徒は、じりじりと壁際に追いつめられた。 男はゆっくりと少女のそばに近づいて来て、首筋に生臭い息を吐きかけた。男の鉄のたがのような手が、少女の腕を ねじりあげ、少女は痛みに呻いた。 「脱げ!」 「い…、いや…」 「よし。それじゃあ、脱がせてやる。」 少女の目の中で赤い火花が散り、頭がふらついた。男の重い拳が彼女の頬に激しい打撃を与えたのだった。 「いやっ!」 ふたたび強い衝撃があった。男は冷静に、そして効果的に少女を殴った。しばらくすると彼女はぐったりと床の上に体 を横たえ、荒い呼吸を繰り返すだけになった。 「馬鹿め。おとなしくすれば、こんな目に遭わなくてよかったのに…」 男はそう言いながら、ゆっくりと楽しむように少女の服をはいでいった。少女は力無く手をのばしてそれに逆らった。だ が、無駄だった。男の手が彼女の胸をさぐろうとした、まさにその時、男の背後から、凜とした声が響いた。 「その子を放しなさい!」 男が振り返ると、そこには長い黒髪を風になびかせて、セーラー服姿の美少女が立っていた。 「誰だ、お前は?!」 「カーット!」 スタジオにディレクターの声が響いた。 凛とした様子で立っていたセーラー服姿の朱美の表情が緩み、付き人がタオルと飲み物を持って近づいた。 「よし、休憩の後は、いよいよ変身のシーンだ。」 ディレクターの声が響いた時、マネージャーの炭谷が一人の男を連れてスタジオに入って来た。 「いやあ、グラビアで見るより、ずっとセクシーで可愛いね。」 男はそう言って、朱美をじっと見つめた。今撮影中の新番組「学園騎士プリティ・ナイト」のスポンサー、スーパーサプ リ社の代表、鳳龍之輔である。 『新体操部の歴代部長に受け継がれる純白のレオタード、このレオタードにサイズがピッタリ合ったものは、学園騎士 プリティ・ナイトに選ばれたことになり、特別な力が与えられ、学園に潜む犯罪者を懲らしめるために戦うことになる』と いう設定の特撮アクションドラマだが、子供向け番組ではなく、深夜枠で若者をターゲットにしている。 「じゃあ、変身シーンの撮影いきます。」 朱美は新体操のリボンを渡された。カメラの前で、朱美はセーラー服のまま、リボンをくるくる回す。特訓のおかげで、 新体操の初歩の演技ぐらいはできるようになっていた。 「よし、じゃあ、次は着ているものを全部脱いで、全裸で演技をしてもらおう。」 「えっ、脱ぐんですか?」 「そうだ。変身シーンのコンテ、見てるだろ。」 「…は、はい…、でも…」 確かに絵コンテには「くるっと一回転すると、身に着けていた物は消える」と書いてあった。しかし、なんらかの画像処 理をするのだろうと思っており、まさか本当に裸になって撮影するのだとは、思ってもいなかった。 「さあ、早く脱いで!」 そう言うディレクターの顔には、いやらしい笑みが浮かんでいる。見ると、カメラマンもADも、照明係も、スタジオにい るスタッフのだれもが、その表情に好色な期待を浮かべているのが見て取れた。 「ぐずぐずするな!」 とうとう炭谷が怒鳴りつけた。その横には、興奮を抑えきれない様子の鳳が、じっとこちらを見つめている。 朱美はあきらめた様子で大きく息を吐き出すと、セーラー服のリボンをほどいた。そして、鳳やスタッフの前で一枚、 一枚と着ている物を脱いでいく。 「これでいいですか?」 最後の一枚を脱いで、朱美は片手で乳房を隠し、もう片方の手で下腹部を押さえながら言った。 「あとで合成する時に必要だから、そのまま、もう一度、演技をして。」 朱美はニヤニヤ笑いながら指示するディレクターを睨んだが、逆らおうとはせず、全裸のまま、簡単なリボンの演技を した。 動きに合わせて長い黒髪がなびき、豊かな双胸がプルンと揺れる。一時はつるつるに剃り上げていた陰毛は、今は 生えそろってきれいな小判型をしている。長くのびた脚を開くと、尻たぶの間から、ぷっくりした肉の割れ目がのぞい た。男たちは食い入るように全裸の演技を見つめている。 「じゃあ、リボンが体に巻き付くところを撮影していこう。社長、お手伝いいただきましょうか。」 ディレクターが絵コンテを鳳に渡す。そこにはイラストとともに「放り上げたリボンは宙を舞い、少女の体に巻きついて いく。リボンが強い光を発し、少女の姿が見えなくなった次の瞬間、白いレオタード型のバトルスーツを身につけた少女 が立っていた。」という説明書きがあった。 「よし、任せておけ。」 そう言うと、鳳はADからリボンを二本受け取り、一本に結びながら朱美に近づいた。 「新体操のリボンは6メートル、少し短いですからね…」 そう言ってディレクターは意味ありげな視線を炭谷に送り、炭谷が深く頷く。これは、スポンサーに対するサービスなの である。 「そうしてリボンを巻き付けたところをコマ撮りし、編集して、画像処理します。」 鳳は朱美の首にリボンをかけ、うつむいた彼女の表情をうかがいながら、首の少し下、胸元、お臍のあたりと幾つも の結び目を作りながら、最後に恥丘のやや上で結んだ。 まず、その状態を撮影されると、再び鳳がリボンを手にして、朱美に言った。 「もう少し、足を開いて。」 「は…い…」 朱美は天を仰ぎながら、足を少しずつ開いていった。すると、鳳は二重になったリボンを股間に潜らせ、背中のほうか ら引き上げた。 「あっ、いやっ…」 朱美が背伸びするように踵を浮かす。前から後ろにまわったロープが割れ目の花肉に食い込んだのだ。ちょうど花芯 にあたる部分に結び目があって、敏感な部分を擦ってくる。 「い…、痛いです…、もう少し…、緩めて下さい…」 「大丈夫、すぐに慣れるよ…」 鳳は背中に回ったリボンを引きあげて、首からかかったリボンに通す。股にリボンを通された朱美の姿を、カメラが前 後左右から撮影していく。 次に、二本のリボンを左右に分け、両脇の下を通して前にまわし、胸の立て縄を開いて菱形にする。そして再びリボ ンを背中に回し、今度はリボンで挟み込むように乳房の下を通って、菱形に通す。 「じっとしてろ。」 そう言うと、鳳は力いっぱい締め付けた。 「うっ…、つぅ!」 これは、どう見てもSMの縛りとしか思えない。朱美は身をよじり、抗議の声を挙げるが、炭谷もスタッフもニヤニヤ笑 ってとりあわない。 「おい、じっとしてないと、撮影できないぞ。いつまでも縛られていたいのか。」 ディレクターの怒鳴り声が響く。今はされるままになるしかない。朱美は俯いて痛みに耐えた。朱美の豊かな乳房が、 リボンで搾り出されて、形を変えている。 こうしてコマ撮りの撮影が進んでいった。彼がやっているのは、いわゆる菱縛りである。朱美は唇を噛みしめ、身体に 巻きついてくるリボンの感触に必死で耐えている。 「あっ…、いやっ、あうぅ…」 朱美はいっそう強く唇を噛みしめ、つらそうに眉根を寄せた。鳳は同じ要領で身体に幾つもの菱形を作っていく。リボ ンが横に引っ張られ、菱形ができていくごとに、股間を割ったリボンがきつくなり、秘肉に食い込んでくる。 リボンを括り終わると、鳳は太腿の付け根を割ったリボンをつかんで、揺さぶった。二本のリボンが、ぷっくりした肉び らを押し開き、処女の柔肉の中へ姿を消していた。 「…き、きつい…、緩めて…」 朱美が苦しそうに訴える。 「少しきついかな?」 鳳が少し心配そうに言ったが、ディレクターは平然と答えた。 「いやあ、それぐらい縛ってないと、感じがでないでしょう。」 「そ、そんなぁ…」 半べそをかく朱美などそっちのけで、撮影が続けられる。 「じゃあ、その格好で、さっきのリボンの演技と同じ動きを撮影しよう。」 ディレクターの指示でカメラが回り始めたが、とてもさっきのように動ける状態ではなかった。 ちょっと身体を動かし ただけで、リボンが身体を締めつけてくる。そればかりか、股間を走るリボンが敏感な箇所を擦り、妖しい感覚が身体 の奥から湧き出してくる。 朱美はその感覚に必死で耐えながら、おぼつかない足取りで演技を続けていたが、とうとう床に座り込んでしまった。 「いいなぁ、この変身シーンは。スーパーサプリのCMでも使わせてもらおう。」 鳳が上機嫌で言った。 第1回目の放送から、「学園騎士プリティ・ナイト」は深夜枠にもかかわらず、高い視聴率をたたき出していた。 スーパーサプリのCMも話題になった。ピンチになった朱美がスーパーサプリを飲んでプリティ・ナイトに変身し、ピン チを脱するという、「お約束」のCMだが、なんといっても人気急上昇中のグラビアアイドルのセミヌードが見られるので ある。しかも、こちらの方は「学園騎士プリティ・ナイト」の時間枠だけではなく、ゴールデンタイムを含む様々な時間帯に 放送されていた。 鳳とスーパーサプリ社の事業はますます華々しくなり、名だたる大手企業の買収に手を出して社会的注目を浴びるよ うになった。次の総選挙に保守党の候補として出馬するという話も浮上している。 朱美は、そんなスーパーサプリ関係の事業のイメージガールを次々につとめ、その人気と注目度はうなぎのぼりに高 まっていく。炭谷は、ATプロ社長の座が次第に現実の物になっていくのを想像して、顔が緩むのを止めることができな かった。 そんなある日、炭谷はタイラーに、スーパーサプリとのコラボレーションによる朱美のプロモーション計画を報告してい た。青い目の社長は、上機嫌で部下の報告を聞き、簡単な質問を二、三した後、握手の手を伸ばした。 「いいでしょう、それで。がんばりなさい。」 そして、手を握ったまま、炭谷の顔をじっと見る。 「ところで炭谷、ワタシに、隠し事、ありませんか?」 「いいえ、隠し事など、あるはずがありません。」 「ホントですか?」 タイラーは、何もかも見通してしまうようなブルーの瞳で、炭谷の顔をじっと見た。 「もちろんです…」 努めて平静を装って、そう言ったものの、炭谷の声はわずかに震えていた。どっと冷や汗が出てくる。 「…まあ、いいでしょう…」 炭谷が出て行くと、タイラーは静かにため息をつき、机の上の受話器をおもむろに取り上げた。 「厚生労働大臣を、オネガイシマース…」 |