第9話 処女証明写真

 清香は一人、TVCテレビの喫茶室にいた。「TOP HITS」のリハーサルまでの時間をつぶしているのだ。何枚かのス
マッシュ・ヒットを出して、風見清香はいまやヒットチャートの常連と言ってよい位置にいる。
 学校から直接来たので制服を着たままで、ダージリンのストレートティーを飲みながら、文庫本を読んでいる姿は、
「女学生」という言葉を連想させる。言われなければ、今売り出し中の人気アイドルだと気づく者は、あまりいないだろ
う。
「ねぇ、アンタ、風見清香でしょ?」
 隣のテーブルにいた娘が声をかけてきた お臍が出る短さのTシャツの上から洗いざらしのジーンズのベストを着て、
デニムのミニスカートをはいている。安物っぽい金物のアクセサリーをいっぱい身につけた、パンキッシュな格好の娘
だ。清香が一人でいることを確認すると、娘は飲んでいたアイスコーヒーのグラスを手に持って、特にことわるでもない
まま、清香のテーブルに移って来た。
「あなた…、確か…」
 その顔には、見覚えがあった。夏のイベントで一緒になったAV女優、確か、柏木亜美と言った。
「覚えててくれた?」
 亜美は、ニヤリとニッコリの中間ぐらいの笑みを浮かべて自己紹介をし、少し声を落として言った。
「ところで、アンタさぁ、自分は正統派アイドルだと思っているのかもしんないけど、とんでもないわよぉ〜!」
 いきなりそう言われて、清香は戸惑い、目をパチクリさせる。
「アンタたち、このギョーカイでどう言われてるか知ってる?」
「えっ…?どうって…」
 清香は口ごもった。自分と朱美、汐理の3人、スターハント・オーディションの最終合格者たちは、普通では考えられな
い恥ずかしいことをさせられている。亜美が言いたいのは、どうやらそのことらしい。
「エロドルよ、わかる?」
「………。」
「土本がよく、カッコつけて『より刺激で、より根元的な実験。限界に挑戦するアイドル・プロジェクト』とかって言ってるけ
ど、要するに、あんたたちは、今まではアダルトチャンネルやエロ本みたいなアングラ路線でしか映像化出来なかった
エロ描写を、清純派アイドルを使って、メジャーでどこまでやれるか、極限を試すために選ばれた生贄なのよ!」
 亜美は厳しい表情で、一気にまくしたてるように、そう言った。
「今はまだ18歳未満だから、物珍しさもあって、マスコミもいっぱしのアイドル扱いしてくれてるけどさ、18歳過ぎたらア
タシと同じ、あっという間にアダルト路線に売り飛ばされちゃうわね!」
 遠慮のない、歯に衣を着せぬ言い方に、清香は少しムッとした表情を浮かべた。
「どうして、私にそんなことを言うの…?」
「あいつらに腹が立ったから。」
 その言葉に、清香は驚いて目を見開く。自分に喧嘩をふっかけに来たのかと思ったが、そうではないらしい。
「清香ちゃーん、マネージャーがお呼びよーっ!」
 喫茶室の出口で、付き人の空野翔子が手を振っている。
「じゃあ、また…」
 清香が席を立った。
「ちょっと待って…」
 亜美が立ち上がって、後ろから声をかける。清香が振り返ると、亜美がぎごちない笑みを浮かべて言葉を足した。
「…それに、アンタが知らずにやってたら、可哀想だからね。」




 東京柔道館の大晦日カウントダウン・コンサートでロスト・ヴァージン。それが、土本が決めたプランだった。
 その日、Σ・ラボの会議室で、柔道館カウントダウン・コンサートの宣伝のための記者会見が開かれた。土本と清香
が並んで座ったテーブルの前に、大勢の芸能記者やレポーター、カメラマンが並んでいる。
 土本のプレゼンテーション、清香のあいさつに続いて、質問の時間になると、最前列にいた女性レポーターがトップを
切って質問した。二、三年前まではナンバーワンのアイドル女優だった天野優姫だ。一時期、干されて活躍の場がなか
ったが、最近はバラエティ番組の芸能レポーターとして売り出している。
「あのぅ、このカウントダウン・コンサートのステージで、清香ちゃん、ロスト・ヴァージンするって噂ですが、本当です
か?」
「ハハハ…、それは、キャッチフレーズの話でしょう。何しろ、清香にとって、初の柔道館でのコンサートですからね。ロ
スト・ヴァージンですよ。」
 土本が軽く笑い飛ばす。
「あれぇ、また間違えちゃったぁ!」
 優姫がおどけた口調で言うと、会場が笑いに包まれた。
 記者会見が終わった。芸能記者たちは三々五々、部屋を後にしたが、よく注意して見ていれば、そのうちの一部が、
別の部屋に向かっているのがわかったはずである。
「それでは、会見の第二部といきましょう。」
 さっきよりひとまわり小さな会場で、土本が口火を切った。事前の案内をもらっている記者だけが、こっそり別室に集
まっていた。スター・ハント・オーディション以来、このプロジェクトの全てを知ったうえで、支援し、見守っている関係者た
ちである。
「先ほどはああ言いましたが、文字どおり、今回のカウントダウン・コンサートで、清香をロスト・ヴァージンさせる予定で
す。」
「清香ちゃん、ホント?」
 しつこい取材で有名な男性芸能レポーターが、清香に尋ねる。
「え…、は、はい…」
 清香が小さな声で返事をし、恥ずかしげに頷いた。彼女にしてみれば、それはセックスするのかという質問なのだ。
「へーっ、何千人もの観客が見ている前で、男の人とセックスしちゃうんだ。」
 レポーターが意地悪く追いうちをかける。
「それじゃあ、オ××コにオチ×チ×を入れながら歌うの?」
「…はい…」
「よく決断したね。嫌じゃないの?恥ずかしいでしょ?」
「…お、大人のシンガーとして脱皮するには、…それも必要だと思います。」
 決められたとおりに答える清香。本心は、もちろん死ぬほど恥ずかしいし、嫌に決まっている。
「でも、本当に処女なのかしら?」
 そう質問したのは、優姫だった。彼女はすべて知っており、一般の記者会見でああいう質問をしたのも、すべて打ち
合わせどおりなのである。
「これまで、見ていて恥ずかしくなるほどエッチなことを、さんざんやってきて、『ヴァージンです』なんて言われてもねぇ
…、そう簡単には信じられないわ。」
 さっきのちょっと可愛らしいボケぶりとは打って変わった辛辣な口調、もちろん、こっちが彼女の地である。
「みなさんも、そう思うでしょう?」
 優姫の言葉に多くの記者やレポーターが同意する声をあげた。意地の悪い視線を浴びて、うつむいた清香は、はた
目にもわかるほど真っ赤になり、恥ずかしさと悔しさで唇を噛んでいる。
「そうおっしゃるだろうと思いました。ですから、証拠をお見せすることにしました。」
 土本が落ち着き払ってそう言う。
「証拠と言うと?」
 身を乗り出して尋ねたのは、某芸能雑誌の記者だ。
「ズバリ、清香の処女膜です。」
 土本がそう言うと、会場がザワザワ騒ぎだした。カメラマンたちがシャッターチャンスを狙って場所を探しはじめる。
「いえいえ、この場で撮影すると言うのも無粋ですから、写真家の尾形大地先生に撮影をお願いすることにしています。
合成写真なんかじゃないという証拠に、撮影の日には、みなさんもご招待しますよ。ただし、撮影は尾形先生だけ、よろ
しいですね。」

「あの頃のアタシはただのバカだったわ。芸能プロダクションと契約さえすればタレントになれて、日本中の男の子のア
イドルになって、そして白馬の王子様が迎えに来てくれるんだって。」
 缶ビールを片手に、少し酔っ払った亜美は自嘲気味に言った。ジンジャエールでつきあっている清香は、どう相槌を
打っていいかわからず、黙って亜美を見ていた。
 亜美の部屋はワンルームで狭いが、居心地が良い。喫茶室での出会い以来、2人は時折、お互いの部屋を訪ねた
り、一緒に買い物や食事に出かけるようになった。一言で言えば、馬が合ったのである。
「でも、駆け出しのアイドルなんて風俗嬢と同じよ。契約先のディレクターや社長のブタどもの汚いチンポしゃぶらされ
て、望まれるだけ夜の相手させられて…。毎日何人もの男に犯されてたら、顔も名前も覚えてらんないわよっ!」
「亜美ちゃん…」
 さすがに清香が困惑した表情を浮かべる。
「いずれ貴方もわかるわ。セックスなんて、ご飯食べたりおしっこしたりするのと同じ、ただの生理的欲求に過ぎなくなっ
ちゃうからさ。だから処女喪失なんて、身構える事ないって!」
 どうやらそれが言いたかったらしい。清香のロスト・ヴァージン・コンサートの噂を聞いたのだろう。
「あたしの最初の相手なんか、前の芸能事務所のブタ社長だったよ。あー!今思い出しても、気色悪くて吐き気がする
わっ!」
 顔をしかめてそう言いながら、亜美は清香に視線をやる。しかし、亜美の話はかえって今後のことを想像させてしまっ
たらしく、清香はちょっと涙ぐんでいる。
(しまった…、逆効果だったわね…)
 亜美は、清香を元気づけようと、慌てて言葉を継いだ。
「…だから、アタシみたいに鳴かず飛ばずで、風俗のバイトで食いつないで、ブルセラ雑誌のモデルの依頼しかこなくな
る前に、清香は、できるだけ名前を売っておかないと!」
「でも、せめてヴァージンは、好きな人に…」
 清香はぽつりとそう言って、耳まで赤くなった。
「えっ、清香、好きな人って、誰かいるの?」
「いないわ…。」
 清香は手を横に振り、また沈んだ表情を見せる。
「ふーん…、よし、わかったわ…。もし、コンサートまでに処女をあげたい男ができたら、私も一肌脱ごうじゃないの、っ
て、私、脱ぎっぱなしかぁ…」
 そう言うと、亜美はケラケラと笑い転げた。

 清香の処女証明写真を撮影する日がやってきた。
 「都市の中で女を撮る」がコンセプトの尾形大地らしく、撮影は、清香も通い、芸能科があることで有名な玉輿学園高
校で行われることになった。しかも、清香が着ているのはセーラー服だ。
「どうして、セーラー服なんですか?」
 撮影現場に招待された芸能レポーターが尾形に尋ねる。
「処女喪失と言えば卒業、卒業と言えばセーラー服。インスピレーションの問題だね。」
 わかったようなわからないような説明をする尾形に、レポーターは「要するにセンセイの趣味だな」と納得した。
「クラスメート役もいるんだ。」
 尾形がそう言うと、清香と同じセーラー服を着た娘が現れた。
「亜美ちゃん!」
 清香が驚いた表情を浮かべ、亜美がいたずらっぽくウインクした。
「比較写真用に非処女のオ××コも撮影しようと思って、柏木クンに来てもらったんだ。使用前、使用後なんちゃって
ね。」
 尾形が失礼な冗談を飛ばす。
「やっぱりだ、2人は身長も同じぐらいだし、体型も良く似てるだろ。こうして並ぶとよくわかる。」
 尾形が言うのは本当だった。服装やキャラクターイメージの違いから、誰も考えたことはなかったが、ほとんどメイクを
せず、同じセーラー服を着て並ぶと、2人は姉妹のように良く似ていた。
「ホントだ、次のビデオは風見清香のそっくりさんで売り出そうかなぁ…」
 亜美のマネージャーがポツリと呟く。
「さあ、さっそく撮影だ!」
 尾形が声をかけると、助手やスタッフが一斉に動き始めた。
「清香ちゃん、スカートを捲って、脚を開いて見せて。」
 清香は、スカートの裾に手をかけて少し捲ると、尾形の指示で、立てた左右の膝をゆっくりゆっくり開いていく。
「おおっ、パンティ、はいてないのか?」
 芸能記者の興奮した声がする。すらりと伸びた太股の合わせ目を、淡い翳りだけが隠している。清香は横に顔を向
け、真っ赤になっていた。
 隣では亜美が大きく脚を広げ、股間を手でおおった。恥ずかしがってというよりは、焦らしているという感じだ。
「清香、亜美みたいにするんだ。もう少しスカートを捲って!」
 撮影に立ち会っている土本の指示が飛んだ。清香はスカートをさらに捲っていく。縦裂を隠し切れない淡い翳りがす
べて露出した。
「足ももっと開いて!」
 清香は、おずおずと脚をひろげていった。しかし、レポーターたちの視線を突き刺さるように股間に感じると、途中で
脚を内側にしぼりこむ。
「もっと!」
 土本がイライラしたように内腿に手をあて、グイと乱暴に開かせる。
「清香、がんばって!」
 亜美に励まされて、清香はやっとのことで脚を開いた。
「よし、そうだ…」
 緒方がカメラを構えて言った。ほぼ限界まで脚を開き、女陰があますところなく見えている。陰毛に飾られたヴィーナ
スの丘はぷっくりと丸みを帯び、大きく脚を広げたせいで、割れ目が少し開いて、肌の色とさほど変わらないハート型の
小陰唇がはみ出していた。
「指を使って、アソコを開いて、中までよく見えるように!」
 カメラをのぞき、シャッターを切りながら、尾形が言った。
 亜美は股間に手を伸ばし、思い切り良く開いて見せた。淫らに色づいた陰唇の奥から露わになった膣は、ぽっかりと
口を開いている。招かれた芸能記者やレポーターたちが、じっとそれを見ていた。
 清香はおずおずと両手を肉の割れ目に指を掛けた。内側のツヤツヤしたピンク色が覗く。細かな襞に包まれた膣口
の周りに綺麗に整った処女膜が確認できた。
「ほら、みなさんご覧下さい。ちゃんと処女膜が見えるでしょう!」
 得意げに説明しているのは土本だ。記者達はメモを取りながら、口々に二人の性器の色や形について論じている。
「きれいなもんだ。あの色だけで、処女だってわかるよ。」
 一人の記者が、清香の陰部を見つめて、隣の男に話しかけるのが耳に入った。集まった男たちに秘肉をさらけだす
恥ずかしさと屈辱感で、清香は、ますます顔を赤くした。
「よーし、いい格好だ、アソコ、丸見えだぞ…」
 パシャ、という音と共にフラッシュが閃いた。尾形が次々に清香と亜美の恥ずかしい姿をフィルムに収めていく。清香
の羞恥心を煽るためか、敢えてズームを使わず、清香の前にしゃがみ込み、股間に顔を寄せて秘部を接写した。開き
きった陰部にもろにフラッシュを浴びせられるたびに、清香の羞恥心が高められ、表情がキュッと強ばる。
「きれいだよ。お尻の穴まで見えるよ」
 尾形は、2人をからかいながら写真を取る。
「ああ…、は、恥ずかしい…」
 清香が思わず漏らした時、隣で亜美が色っぽい声をあげた。
「うふぅ、気持ちいい…、もっと見てぇ…」
 記者たちの注目はそちらに集まった。亜美が、驚いた顔の清香にちょっとウインクして見せる。

 ある日、清香ファンクラブの会員に一斉にメールが送られてきた。
 インターネットでアクセスして、パスワードを入力すると、柔道館でのカウントダウン・コンサートでのロスト・ヴァージン
の企画が詳しく掲載されていた。そして、セーラー服を着て大きく股を開き、性器を広げて見せている清香の画像がア
ップされていた。隣には、非処女の女性器と比較するために、同じ格好をした柏木亜美が映っている。
 さらに2人の性器の拡大写真が掲載され、その下に、GIFアニメを使って「清香の処女が欲しい奴!集まれ!!」とい
う文字が踊っていた。
 それは、清香のロスト・ヴァージンの相手を選ぶイベントの告知だった。





 
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