第8章 グラビアアイドルの午後
 
「起立!礼!」
 髪を三つ編みにし、瓶底メガネをかけた、見るからに地味な女生徒が号令をかけ、4時間目の授業が終わった。他
の生徒達が弁当を取り出す中、彼女は急いで帰り支度を始めた。
「委員長、今日も早退?」
「ええ。」
 そっけなく答えた彼女は学級委員長をやっており、友達からも「委員長」と呼ばれている。大き目の制服が野暮った
く、他の女生徒たちのようにスカートも短くしていない。「真面目」を絵に描いたような少女だ。
 すれ違う先生たちに丁寧にあいさつをしながら、少女はひたすら校門を目指した。
 校門の真ん前に銀色のセダンが停まっていた。少女が近づくと、後部座席から髪の毛を短く刈り込んだ、角張った男
の顔がのぞく。
「早くしないと遅れるぞ、朱美。」
 
 朱美が車に乗り込むと、炭谷はカバンを受け取り、彼女の制服姿をじろじろと眺めながら言った。
「あーあ、すっかり服のラインが身体についちまっただろうなぁ。さあ、早く着ている物を全部脱ぐんだ。」
「えっ、ここでですか?」
「そうだ。仕事の前には身体にラインを着けないようにするんだったろ。」
「でも、こんな所で…、私、嫌です。」
 朱美はすっかり困惑した顔で言う。車の中とは言え、真っ昼間の都心を走っているのだ。周りのドライバーに見られる
可能性は高かったし、停車した時など、何かの拍子に覗き込まれるかもしれない。
「しかたないだろう。なんなら、これから仕事の日はマンションを出る時からずっと素っ裸でいてもらってもいいんだぜ。」
「い、嫌ですっ!」
 朱美は激しく頭を振った。炭谷の様子からすると、冗談ではなく、本当に全裸であちこち引き回されかねない。今日の
ように、学校に行ってから仕事だと言えば、全裸で校庭に放り出すぐらいのことはするかもしれない。そう思った朱美
は、ブラウスのボタンを順々に外し、さっと脱ぐと車のシートの上に丁寧に畳んで置いた。
「急げよ、現場に着くまで30分程しかないんだからな。」
「は、はい…」
 あわてて朱美はシャツのボタンを外し、シートに投げ出すようにシャツを脱いだ。現れたブラジャーはスタイルを保つ
ためのもので、お世辞にもセクシーとはいえない代物だったが、朱美が身につけていると、結構色っぽく見えるから不
思議だ。
 炭谷は満足そうな笑みを浮かべて、隣で服を脱ぐ朱美を舐めるように見つめている。
 ジロジロ見られると、思わず手が震えてしまう。朱美はぎこちない手でスカートのホックを外し、ファスナーをゆっくり下
げた。そして、シートから腰を浮かして引き抜くと、スカートはふわりと朱美の足下に落ちた。
 両腕を器用に縮めながら肩紐を抜き、ふと見上げると、ルームミラー越しに運転手の南野と目が合った。彼も朱美が
服を脱ぐのをチラチラ見ているのだ。
 炭谷と南野の視線を意識すると、窓からも誰かに覗かれているような気がした。何度も裸になっているのだと割り切っ
て、勢いに任せて脱いでしまおうと思っていたが、街の中を走る車の中で服を脱ぐのは、やはり抵抗があった。ホックを
外そうと背中に両手を回してはみたものの、思わずその手が止まってしまう。
「何をぐずぐずしてるんだ。」
「あ、すいません…」
 炭谷の尖った声に対して反射的に謝ると、同時にホックが外れ、ブラは勢いよく前へ弾け飛んでしまった。おわん型
のたわわな乳房が車の震動にあわせて揺れている。きれいなピンク色をした乳首は小豆大にプックリ膨らんだ、いわ
ゆる「突出型」だ。
「おおっ!やっぱ、朱美ちゃんのオッパイ、最高だね。」
 ミラー越しに見ていた南野が大げさな声をあげた。朱美は頬を羞恥に染めて、慌てて胸を隠す。
「さあ、あと一枚だ。」
 炭谷がニヤニヤ笑いながら言った。
 朱美は、片手で胸をかばいながら、恥辱に震えるもう一方の手でスタイル矯正用の野暮なパンティを脱いだ。露わに
なった下腹部は、先日のデビューイベントでファンにアンダーヘアをむしり取られたため、幼女のようにツルツルだっ
た。
 炭谷は身体を隠そうとする朱美の両手を払いのけ、いつものように指先で肌をなぞりながら身体のラインをチェックし
ていく。
「うん、ここのところにちょっとラインがついてるが、これは裸でいれば本番までには消えるだろう。」
 南野もバックミラーからその様子をチラチラと見ている。気のせいか、周りを走っている車も朱美たちの車に近づくと、
スピードを落とすように見えた。
(ああ…、横の車にも窓から覗かれているかもしれないわ…)
 しかし、視線をあげてそれを確認する勇気はない。炭谷の検査を受けながら、羞恥の色が朱美の首から胸元までほ
んのりとした広がりを見せていた。
 そして、車が停まった。
「さあ、着いたぞ。」
 先に車を降りた炭谷が、朱美の手首を掴んで引っ張った。
「ちょっと、ちょっと待ってください!何か、何か着る物をください!」
 停まった所は都心の路上である。いくらなんでも、全裸のまま車を降りるわけにはいかない。両足を踏ん張って、朱美
が必死の声をあげた。
「そのまま降りりゃあいいじゃないか。」
「えっ!そんなぁ…」
 朱美が泣きそうな顔で炭谷を見た。それを見て、炭谷はニヤリと笑う。
「冗談だよ。さあ、これを着ておくんだ。」
 炭谷が渡したのはタオル地のバスローブだった。着てみると、前身ごろが少し短く、常に手でかきあわせておかない
と、すぐに前がはだけてしまう。
「紐かベルトはないんですか?」
「当然、無いさ。そんなものすると、身体にラインがつくからな。」
「ああ…」
 炭谷の無情な答えに、朱美は哀しげなため息をつき、両手でローブの前を押さえながら車を降りた。
 
 そこは、ビルの谷間にちょっとした緑の空間を作っている都心のオフィス街にある公園だった。
「おはようございます。」
 声をかけてきたのは、「ステディボーイ」の編集者岩本晃だ。その後ろには、朱美付きのスタイリスト赤川由紀が立っ
ている。
「この場所、ちょっと意外だろ。」
 朱美たちを公園の中に案内しながら、岩本が言った。
「カメラマンの尾形さんは、こういう場所で女の子のヌードやセミヌードを撮るのが得意なんだ。」
 尾形大地は、今女性を撮らせたら5本の指に入るというカメラマンで、今回の「ステディボーイ」の巻頭特集で朱美を
撮ることになっている。今日はその撮影日なのだ。
「人気急上昇中の火山朱美ちゃんの撮影現場としては、ちょっと不満かもしれないけど、尾形さんが撮るんだから、バッ
チリ綺麗に撮れるよ。」
 岩本が少し弁解するように言った。朱美はデビュー以来、着実にファンを増やし、今や注目の新人グラビアアイドルの
1人に数えられるようになっているのだ。
 一同が公園の中に入ると、尾形のアシスタントらしき若い男が3人、カメラや照明器具のセットをしていた。周りのオフ
ィスが勤務時間中であるせいか、公園では数人のサラリーマンが何か書き物をしたり、携帯電話で打ち合わせをしてい
る程度だった。
「そうだそうだ、ここならいいだろうな。」
 岩本はいきなり振り返って、そう言うと、ポケットから何かメモ帳のようなものを取り出して、朱美に見せた。
「あっ!それは…」
 朱美が狼狽した声をあげる。岩本が取り出したのは、ファンクラブの会員証だった。広げたページの真ん中には黒く
縮れた毛が一本、貼りつけられている。
「じゃあ、見せてね。」
 そう言うと、岩本はいきなり朱美が着ていたバスローブの裾をめくった。
「キャッ!何をするんですかっ!」
 朱美は岩本の手を払いのけ、バスローブの裾を押さえて、後ずさりした。
「あれっ、聞いてないの?業界内でファンクラブの会員証を持っている者は、君と出会ったら、挨拶がわりに君のアソコ
を見て、ムダ毛が生えてたら、その場で抜いていいことになってるんだぜ。」
「えっ!私、そんなこと聞いてません!」
 朱美はそう叫んでから、ハッとした顔で炭谷の顔を見た。
「そういうことだ。」
「ねっ、マネージャーもそう言ってるだろ。事務所がした約束はちゃんと守らないと、タレントは業界では生きていけない
よ。」
 岩本の口調は変わらないが、言っていることは完全に脅しである。しかも、その目は異様な光を帯びており、冗談でな
いことは良くわかる。朱美はあきらめた顔でうつむき、岩本の前に立った。
「そうそう、ちゃんと言うことを聞かないとね。じゃあ、両手でローブの裾をまくってよ。」
 調子に乗って命令する岩本を一瞬、キュッと睨んでから、朱美は下唇を噛みながらバスローブをまくる。
 陰毛のない下腹部が露わになった。両手を放したせいでローブの前がはだけ、豊かな胸が作る谷間も、可愛らしい
お臍も見えている。
「うーん、まだツルツルだなぁ。」
 岩本が残念そうに唸った。
「イベントの最後に、結構強力な脱毛剤を塗りましたからね。もう少ししないと生えないでしょうよ。」
 炭谷が答えたところに、尾形のアシスタントたちがやって来た。3人ともその手にファンクラブの会員証を持っている。
「俺達もファンクラブ会員なんだ。」
「見せてもらっていいでしょう。」
 そう言いながら、3人はその場にしゃがんで朱美の股間を眺める。
「奥の方は生えてないかな?」
 アシスタント1人が言うのを受けて、岩本が朱美に命令する。
「ちょっと、脚を開いてみせてよ。」
 朱美がおずおずと脚を肩幅ぐらいに開くと、4人の男が一斉にその恥部を覗き込んだ。
「生えてるか。」
「生えてないな。」
「触ってみたら、産毛ぐらい生えてるんじゃないですか。」
 口々に勝手なことを言いながら、男達は思い思いに朱美の性器をいじくり始めた。
「あ…、あぁ…」
 敏感な部分に触れられて、朱美が声を洩らす。ローブの裾を自らの手でまくりながら、男達が陰部を弄ぶに任せなけ
ればならない恥辱に、閉じた目尻には悔し涙がにじんだ。
 
 約15分遅れて、気難しそうな顔をしたカメラマンの尾形大地が現場にやってきて、さっそく撮影が始まった。
「じゃあ、これに着替えてね。」
 朱美がスタイリストの赤川から渡されたのは、清楚な白いレースのブラジャーとパンティだった。
「どこで着替えたらいいんでしょうか?」
 不安そうな朱美の問いかけに答えたのは、尾形だった。
「どこかその辺で着替えなさい。」
「そ、そんなっ!」
 オフィス街の真ん中にある公園は、日中の人通りが少ない。しかし、人通りがないというわけではなかったし、数人で
はあるが、先ほどから遠巻きに何の撮影だろうと眺めている野次馬もいる。
 必死であちこち見回すと、近くに木の植え込みがあった。そこなら人に見られずに着替えることができるだろう。
「じゃあ、あそこの木のかげで着替えてきます。」
「ダメだ。ここで着替えるんだ。」
 炭谷が厳しく命じた。尾形がニヤニヤと笑いながら見ている。朱美はやっと、尾形がその辺で着替えろと答えたの
は、着替えるところを見せろという意味だということを悟った。
 しかたなく、朱美は尾形やスタッフたちが見守る中で、ローブで身体を隠すようにしながら、器用にブラジャーとパンテ
ィを身につけた。
 尾形は、下着姿の朱美をブランコやすべり台などの遊具で遊ばせ、その様子を撮影していった。
「次は、噴水で撮影しよう。」
「ブラを取って、これを着るのよ。」
 尾形が言うのに答えて、赤川は胸の辺りに字がプリントされた白いTシャツを朱美に渡した。
 ブラを取ってTシャツを着ると、朱美は尾形の指示に従って、じゃぶじゃぶと噴水の中に入っていく。その時、噴水が
大きく吹き出し、彼女は頭からずぶ濡れになった。公園にいた数人の野次馬が噴水の周りに集まってきて、興味津々
の様子で見ている。
 その間も尾形はシャッターを切り続ける。プリントの字で乳首は映っていないものの、濡れたTシャツが肌に貼り付い
て、エロチックな効果をあげていた。
「じゃあ最後に、着ている物を全部脱いで、あのベンチに横になりなさい。」
 必死に陰部を隠しながら、パンティーを両脚から抜き去り、びっしょり濡れたTシャツを脱ぐと、朱美は胸と下腹部を押
さえたまま、公園のベンチに寝そべった。その姿を尾形のカメラが様々な角度で撮っていく。幸い、ここでは身体を隠す
手を払いのけられることはなかった。これは、あくまでセミヌードの撮影なのだ。
「よーし、良い絵が撮れたよ。」
 尾形が上機嫌で言った。
「さあ、仕事も終わったことだし…」
 そう言いながら、尾形が朱美に見せたのはファンクラブの会員証であった。
「朱美のアソコ、見せてもらおうか。」
 

 


 
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