ATV 「とっておきセレクション」より
 
 ソフトフォーカスでカメラが映し出すのは、古い日本家屋の一室。
 美少女が文机の前に座って、文庫本を開いている。彼女の服装は、白い上品なブラウスに濃紺のプリーツスカート。
清楚で可憐ないでたちだ。
 少女は涼やかな声で朗読する。
 
 今この所を過ぎむとする時、閉ざしたる寺門の扉に依りて、声を呑みつつ泣く一人の少女あるを見たり。年は十六、
七なるべし。かむりし巾を漏れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我が足音に
驚かされて顧みたる面、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて、物問ひたげに憂ひを含め
る目の、半ば露を宿せる長きまつげに覆はれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我が心の底までは徹した
るか。
 
 ここは、明治の文豪森鴎外が、日本近代文学の成立に決定的な役割を果たした作品と言われる「舞姫」を書いた部
屋で、現在は東京のホテルの敷地内にあります。
 日本からの留学生豊太郎と舞姫エリスの哀しい恋の物語−「舞姫」は、実は鴎外自身がドイツに留学した時のお話
がベースになっているんです。
 鴎外は、ホームステイ先のお嬢さんと愛し合うようになったのですが、国の期待、家族の期待を一身に背負った彼
は、その恋を貫くことができず、日本に帰国しなければなりませんでした。
 若き日の鴎外の恋と苦悩が、「舞姫」という結晶になったんですね。
 東京文学散歩。ナビゲーターは水沢汐理でした。
 じゃあ。また来週。
 
 

 
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