第12話 ささえあえたらいいね


「ちくしょー!さやかぁ!」
 ユウキは夜の路上でギターを抱きかかえ、地べたに胡座をかいていた。アマチュア時代のように、小遣い銭稼ぎにス
トリートで演奏するつもりだったが、結局、ほとんど曲は弾かなかった。
 足元には、空になったビールの缶が何本も転がっている。注射だと痕が残るので、覚せい剤をビールに溶かして飲む
のが、ユウキの使用の手口だった。
「死んじまったヤツのことなんか忘れて、俺の彼女になってくれぇ〜!」
 ユウキが、空に向かって絶叫する。
 辻本のプロデュースで、ライブハウス「Stormy」を舞台に、セクシー・ライブ・パフォーマンスをやってきたユウキは、ス
テージ上で、もう何十回も清香と体を重ねてきた。
 今まで高嶺の花だったあこがれの歌姫、トップアイドルの清香と連日のようにセックスし、中出しし放題だというのだ。
これで喜ばない男がいるだろうか?
 輝くように美しい清香の肢体を、ユウキは仕事を忘れて、夢中で犯しまくった。一晩で最高6発中出ししたこともある。
その度に、「これで清香は俺のモノだ!」という征服感に酔いしれていた。
 それなのに、一旦、ステージが終わると、清香の態度は冷淡そのものだった。
「予定がなかったら、このあと晩飯でもどう?」
 とびっきりのレストランをこっそり予約し、夕食に誘っ
た時も、「明日も仕事が早いので…」とつれなく答えて、1人でタクシーに乗って帰ってしまう。
 ステージ上ではユウキにしがみつき、歓喜の涙を流し、何度も潮吹きをして絶頂を迎えたのが、信じられないほど別
人の顔になるのだ。
(あの時、すでに清香の心は、陽介に占められていたのか…)
 複雑な思いが、ユウキの心に去来する。清香と陽介の関係が、芸能人仲間の間で明らかになったのは、陽介が死ん
でからだった。
(あいつ、どんな顔してたっけ…)
 ユウキは陽介を相手に、清香とのステージの様子をしょっちゅう話していた。何回、どんな体位でやったのか、清香の
身体の感触までも詳細に語り、自慢した時に、陽介がどんな表情で自分のことを見ていたか、ユウキはどうしても思い
出せなかった。
 バカな男だと嘲笑していたのか、それとも、恋人を犯された怒りに歪んでいたのか…。
(でも…、清香の心は陽介のものだったんだ…)
 その事実は、ユウキを打ちのめした。クスリも心の痛みを緩めてはくれなかった。もし、彼を癒してくれるものがあると
したら…。
「清香あぁ、俺の嫁になってくれぇ〜!!」
「な…、何を…言っているの?」
 冷たい路上に座り込んだユウキを、戸惑った表情の清香が見下ろしていた。
(ああ、こりゃあ幻覚なんだな。神様が俺にプレゼントしてくれたんだ…)
 焦点の合わない目で見上げると、ユウキはやおら目の前の清香に抱きついた。
「きゃあっ!いきなり何するのよっ!」
「おおっ?すっげ〜リアルな幻覚だ。ぷにぷにした感触も甘い香りも、リアル清香ちゃんそのものだあ!」
 清香の腰にしがみつき、頬ずりするユウキの頭に、清香は手に持っていたハンドバッグを振り下ろした。
「目をさましてっ!この変態っ!」
 ゴッ!!
 つんのめったユウキは、そのままアスファルトの路上に頭を強打し、視野が暗転した。

 目が覚めたユウキは、見慣れた場所で寝かされていることに気づいた。そこは、Σラボの休憩室だった。
 横を見ると、心配そうにユウキを見下ろす清香の姿があった。
「さ、清香…ちゃん?信じられねぇ、ホンモノか?」
「気が付いた?良かった。倒れて頭打って気絶しちゃったからスタジオの警備さんに頼んで休憩室まで運んでもらった
のよ」
 そう言えば、ユウキがギターを抱えて座り込んでいたのは、Σラボのすぐ近くであった。
「ところでね、ユウキさん」
 そう言うと、清香はキュッと眉根を寄せて、ユウキを睨んだ。怒った表情もたまらなく可愛く、思わずユウキの胸がとき
めく。
「はいっ?」
「路上で、あんまり恥ずかしい事言わないでくれません?仕事ではそうゆうことがあったけど、アナタと私はまったく関係
ないんですからね」
 清香がさらっと言ってのけた言葉が、ユウキの胸に突き刺さる。
(関係ない、か…、俺は本当に清香のことを愛しているのに!)
 そう叫びたくなるのをグッと堪えたユウキは、情けない顔を清香に見られないように横を向いた。ふと、視線の先に1
枚の楽譜があった。
「これは…?」
 楽譜を掴んでサッと目を走らせたユウキの表情が、見る見る変わっていく。
「陽介さんの曲よ…」
 清香が泣き出しそうな顔になった。
「あいつ…、やっぱり天才だな…」
 ユウキがギターを取り出し、その曲を弾き始めた。清香が軽くメロディーを口ずさむ。

 ささえあえたらいいね…
 つないだ手のあたたかさが
 この世界を受け止める力になればいいね…

「陽介は高校の同級生だ。その頃からのダチだよ。俺たち、ずっと親友だった…」
 ギターをいじりながら、ユウキがポツリと言った。
 陽介は高校時代から仲の良い音楽仲間だった。一緒にプロを目指して活動し、チャンスを共に喜び、うまくいかない
時には、励ましあって前に進んできた。
「それに、ライバルでもあったんだよ…」
 BLOWは、もともとユウキが作ったバンドだった。しかし、メンバーの中でも、音楽の才能は陽介が飛び抜けていた。
陽介を中心にバンドが動くようになり、やがて、彼に追いつき追い越すことが、ユウキの密かな目標になった。
「でも、どうやってもオレ、あいつに勝てなかった。ランクが違うんだよ。『才能って残酷だな』って、そう思ったもんさ…」
 もし、この世界が、本当に実力だけで評価される世界だったら、あの土本創児以上のポジションにだっていけただろ
う。実際にはそうはならなかったが…。
「でも、…どうして死んじまったのかな…」
 清香の瞳がうるみ、必死でこらえていた涙がポロポロ流れ出した。それは、彼女が何度も繰り返し、心の中で叫んで
いる言葉だった。
「もし生きてたら、正々堂々、キミの彼氏の座をかけて、勝負したのに…」
 清香が涙を浮かべた目で、ユウキを見た。その目を見つめながら、苦しいほどの思いを吐き出すように、ユウキが言
葉を続けた。
「俺、デビュー当時からキミの大ファンだった。キミとエッチできて、ホントに嬉しかった。そのうち、キミを本当の彼女に
したいって思うようになったんだ。俺は本気で清香ちゃんに惚れてた…。でも、キミは陽介のことが好きだったんだな
…」
 一気にそう言うと、ユウキの瞳からも大粒の涙がこぼれた。勝負すべき相手は、既にこの世にはいない。陽介の死こ
そが、自分の心にポッカリと穴をあけたことに、ユウキは、今初めて気がついた。
「悪い。ああ、俺、もう大丈夫だから、タクシー拾って帰るよ」
 ユウキはそう言うと、ギターをケースにしまった。
「待ちなさいよ…」
 ユウキが振り返った。掠れた声で呼び止めたのは、紛れもなく清香だった。
「恋人を亡くした女の子のお喋りに、少しつきあってくれません?」
 そこには、コーヒーの入った紙コップを差し出す清香の寂しそうな笑顔があった。

 清香の話は続いた。アイドルに憧れてスターハントオーディションに応募したこと。オーディションで面食らったいきなり
の羞恥プレイ。過激なイベントや枕営業、筆舌に尽くしがたい屈辱の数々…。
「…それでも、私、やめようと思わなかったの。大好きな歌を続けたかったから…」
 そう言うと、清香がふーっとため息をついた。
(ああ…、俺、自惚れていたよ。羞恥アイドル・風見清香にとって、セックスなんて演出にすぎなかったんだ。エッチした
だけで恋仲になれるなんて、おこがましいにも程があるよな…)
 ユウキがそう思った時、ふいに沈黙が流れた。
「…ねえ、こんなに汚れた私でも、まだ愛せる?」
 ハッとして顔を見ると、清香は悲しげな様子で、視線を落とした。ユウキの中から、激しい感情が突き上げてくる。
「汚れている訳ないだろ!清香ちゃんは今でも俺の天使だ!日本中の男たちの憧れだ!!」
「ありがと…」
 清香はユウキの顔にそっと手を差し伸べると、頬に優しくキスをした。
「清香ちゃんっ!」
 ユウキはたまらなくなって、清香の身体を抱きしめた。しなやかに肩にかかる栗色の髪から、甘い香りが漂う。
 ユウキが見つめると、清香は一瞬、躊躇いを見せたが、やがて静かに目を閉じた。唇と唇がぴったり重なり合った。
柔らかい感触が伝わってくる。ユウキの中で何かが弾け、激しく唇を押しつけた。
「むぅ…」
「んんっ…」
 ユウキが唇を吸うと、清香も舌を伸ばし、彼の口内に忍ばせてきた。お互いの舌の表面を舐め、裏側を舐め、先端を
吸う。交接するようなディープキスだ。唾液と唾液が混じり合い、糸を引いて切れる。
 ユウキの脳裏にチラチラと浮かんでいた陽介の顔が薄れた。それは、清香も同じだった。彼女自身、前に進むきっか
けを必要としていたのだ。
 ユウキは、清香をソファに仰向けにすると、ゆっくりとブラウスのボタンを外しながら、胸を揉んでいった。ずり上がった
ブラジャーから、形の良い乳房が姿を現す。
「んっ!」
 乳頭を指で弾く。清香の体がビクッと震える。指腹で刺激を加えていると、すぐに乳首がピンと起った。指で摘むと
徐々にコリコリとした感触がして、清香の息使いが荒くなってくるのが分かる。
「ああ…」
 ユウキがスカートを捲る。
(やった、濡れてる…)
 パンティの股間に染みを発見して、ユウキが内心小躍りした。清香の身体は自分を受け入れようとしているのだ。
 丹念に乳首を舐めながら、愛液を吸い込んだ下着を脱がせる。露わになった陰毛を優しく撫でていく。
「ん…っ」
 指先を、愛蜜に濡れた亀裂に触れさせる。漏れる声とともに、清香の体の力が抜けていくのがわかった。
 ユウキは清香の真っ白な太腿を、左右に大きく開いた。顔を近づけようとした瞬間、清香がハッとした表情になり、両
手を伸ばして秘所を隠した。
「ダメっ、だめ…だめ」
 イヤイヤするように首を振る清香、ここに来て激しく抵抗する彼女に、ユウキは少し腹を立てた。
(何だよ!ここまで来て、やめられるか!)
「ダメと言いながら、本当は見て欲しいんでしょ?」
 ユウキは清香の手を邪険に払いのけると、彼女の花弁をこれ以上は無理というほど全開に開いた。いままでかろうじ
てクレヴァスの奥底に留まっていた淫蜜が溢れ出し、お尻を伝ってソファを汚す。
「す、すげえ。きれいなピンク色してるよ。うわぁ、膣穴が盛り上がってビラビラからはみ出してる!膣穴がイソギンチャ
クみたいにヒクヒクして、ヌルヌルしたマン汁がトロトロと湧き出てくるよ…」
 清香の羞恥心を煽るような言葉を吐きながら、ユウキは自らも興奮を高めていった。
「ああん…い、いやっ…恥ずかしい」
 清香はビクンと腰をうねらせ、イヤイヤしながら腿で性器を隠そうとする。その可愛い仕草がたまらなかった。
「舐めて欲しいんだろ?」
「ダメ、…きたないわ…」
 泣きそうな声で言う清香に、ユウキは理解した。洗っていない性器に顔を近づけられるのを恥ずかしがっているのだ。
ユウキは意地悪な気持ちになって、わざとクンクンと鼻を鳴らして匂いをかいだ。
「や、イヤ…いやっ!ああっ、嗅がないでぇ!恥ずかしいよぉ…」
「清香ちゃんのオ××コだったら、洗ってなくても俺には嬉しいんだ。舐めちゃうよ!頂きま〜す!」
 ユウキはそう言うと、清香の性器にむしゃぶりついた、クリトリスを丹念に舐め、尿道口に、膣口にと、性器の隅々ま
で舌先を這わせる。そのたびに、清香の腰が跳ね上がり、こらえてもこらえても、羞恥を含んだ喘ぎ声を漏らしてしま
う。



(き、気持ちいい…、私、変態かしら…、洗ってないのに…、恥ずかしいのに…、舐められると興奮しちゃう…)
 考えてみるとユウキほど執拗にクンニをしてきた男は他にいなかった。陽介のクンニは前義のさわり程度のものだっ
たし、イベントの客達は中出しすることに夢中で、前義など、ほとんどする余裕はなかった。
「あっ、あっ、ああぁっ…」
 清香は両手を固く握り締め、太腿でユウキの顔を強く挟んだ。膝から足のつま先まで、ピンと伸ばし、天井を向いた足
の裏が何かを掴むように、指を曲げている。体は大きく弓なりに仰け反っていた。
「う、あううっ…いや、感じちゃうう…」
 燃え出した官能が清香のためらいを溶かしてしまった。だんだんと、喘ぎ声が大きくなっていく。
 ユウキは、とうとう我慢できなくなり、怒張を清香の割れ目にあてがった。
「うっ…」
 清香が小さな呻き声を漏らす。怒張が花弁を割って、体内に入っていく。
「いいっ、いいの…もっと奥まで…」
 清香はそう言うと、ユウキの動きと合わせるように自分の腰を前後させ、怒張を子宮の奥に導いた。ステージで毎日
のようにセックスしていた間柄だけに、一旦、肌を合わせてしまえば、お互いの身体が一つに溶け合うように馴染んで
いく。
「気持ち…いい?」
「うん…、いい、気持ちいい…」
 ユウキは卑猥に腰をグラインドさせては、ズーンという直線的な深突きを繰り出す。
「あん、あん、ああん…」
 清香は喘ぎ声をあげた。髪が一筋、頬に張り付き、雪のように白い肌にねっとりと汗をにじませている。
 全ての血液がそこに集まったのではないかと言うほど充血した男根が、柔肉の襞に擦られ、ギュッ、ギュッと締め付
けられる。
「すごいよ…、すごく気持ちいいよ」
「きっ、きて…もっと強く…」
 清香がうわごとのように呟く。ユウキは清香の恥丘にぶつけるように、激しく腰を振る。
「あ…あぁ…胸を…」
 ユウキが清香の乳首を口に含み、歯を立てる。
「あっ…あっ…、と…溶けちゃう…」
 清香の秘孔が、ユウキの怒張を繰り返し締め付けてきた。
「ううゥゥ、ううッ…」
 ユウキは呻き声を漏らし、乳房に顔を埋めて腰を震わせた。そろそろ限界が近かった。ユウキはフィニッシュに向か
って、腰を振るピッチを早くする。激しい動きに清香の胸が大きく揺れる。
「もっ、もう…、だ、だめ、イクぅ…」
 清香の方も、眉根をたわめ、鼻から甘ったるい声を漏らして、絶頂を告げる。ユウキは、たまらず爆発した。
「で…出る…あぁ…気持いいっ…」
 清香の体にしがみつくようにして、ユウキが果てていく。
 いつしか清香が微睡み始める。ユウキは快感後の柔らかな弛緩の中で、考えをめぐらせた。
(なんて可愛いコなんだ。絶対このコを彼女にしたい…、でも、今の俺にはその資格は無いよな。ヤクをやってることが
バレたら、清香ちゃんにも迷惑をかける…)
 横で寝息を立てる清香の天使のような顔を見て、ユウキはレインドロップスの言葉を思い出した。
(自首しよう!一から出直すんだ!!)

 朝、西野がスタジオにやってくると、休憩室のソファの上で、清香が一人で仮眠をとっていた。
「おやおや、女の子がこんな所に泊まり込んじゃって…」
 西野は、寝ている清香をそのままにして、ミキシング室に入り、昨日までに撮った音源のトラックダウンを始めた。
 それは、清香が持ち込んできた陽介の曲だった。
「あれっ?このトラック…」
 西野が首を傾げた。彼が録音した記憶のない、ギターのトラックが録音されている。てらいのない、真っ直ぐなギター
サウンドは、陽介の曲にぴったりとマッチしていた。
「へえ、誰が演奏したのか知らないけど、かなりイイじゃん…」
 しばらくして、ドアが開き、誰かが部屋に入って来た。
「なんだ、清香ちゃん、起きたのか…おはよう…」
 清香が入ってきたのだと思った西野は、軽く声をかけると、振り返りもせず、作業を続けた。
「これは、何だ…」
 思いもかけず男の声がして、振り返った西野の表情が凍りついた。てっきり清香だと思っていたが、そこに立っていた
のは、なんと土本創児だった。慌ててミキサーのスイッチを切る西野に、土本が険しい声で命令した。
「音を出してみろ!」
「は、はい…」
 再びメーターが動き始め、ギターの演奏をバックにした清香の声が流れる。
「誰の曲だ?」
 厳しい声で詰問され、西野がしどろもどろになりながら答えた。
「ええ、あの…、清香が持って来たんです、その…陽介の曲を…はい…」
 土本の顔がみるみる強ばっていくのを見て、西野は卑屈な笑みを浮かべ、揉み手をせんばかりの様子で言った。
「ええ、ええ、わかってます。すぐに消しますよ。今日は、新曲のレコーディングでしたね。しかし、何だね、こんな冴えな
い曲、売れるわけないよなぁ…。その点、土本さんの曲は、どの曲も垢抜けていて…いや、比較するなんて、おこがまし
い…」
 追従の言葉をダラダラと並べようとする西野を、土本はキッとした顔で睨みつけた。
「お前に何がわかる…」
「へっ?」
 ポカンと口を開けた西野に、土本が怒鳴りつけた。
「バカにするな!俺は、アーチストだ!」
 そう言うと、土本は、休憩室にいる清香にスタジオに入るよう指示した。
「これ、歌ってみろ…」
 清香が驚いた表情を土本に向ける。譜面台には、陽介の楽譜が乗っていた。
 ユウキが残して行ったギターの音で曲が始まる。清香がそれに乗って歌い始めた。昨夜の激しい交合を思い出して、
清香の頬が赤らむ。
 Bメロに入ったところで、優しいピアノの旋律が、清香の声を受け止める。攻撃的ないつもの土本の演奏とは180度
違った、それはまるで…。
(陽介さん…)
 一瞬、清香の目に鍵盤に向かう陽介の姿が映った。しかし、その姿はすぐに消え、土本の姿が現れた。清香が歌う
のに合わせて、土本がピアノの録音を始めたのだ。
 「時代の寵児」…、この男の才能もやはり本物であった。その演奏を足場にして、清香の声がどこまでも伸びる。羞恥
アイドルとして実験材料にされた恨みも、陽介の才能の芽を摘もうとしたことへの怒りも、もう関係なかった。

 ささえあえたらいいね…
 つないだ手のあたたかさが
 この世界を受け止める力になればいいね…

 最後まで弾き終えた瞬間、土本はピアノの上に突っ伏した。近寄ろうとして思い止まった清香が、優しく声をかけた。
「土本さん…」
「この曲、次のシングルにしよう…」
 顔をあげずにそう言った土本の声が、かすかに震えていた。



 
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