第2話 ドッグ・ライフ

 一応、チャイムを鳴らした後、美津子は自分の鍵でドアを開けた。
「よし、犬らしく鳴くんだ。」
「わん!」
 奥の部屋から西郷の声が聞こえ、汐理が犬の鳴きまねをしている。
(来てるんだわ、また連絡なしに…)
 西郷には合鍵を渡してはいるものの、汐理の部屋を訪ねる時は美津子に連絡するという約束になっていた。しかし、
最近、美津子に連絡なしに来ていることがしばしばある。所詮、芸能界の専制君主に通じる話ではなかったかと、美津
子はため息をついた。
「おはようございます。失礼いたします。」
 声を掛けて部屋に入ると、和服姿の西郷が全裸の汐理に首輪を着けて、犬のように部屋を這わせていた。
「よう、お美津さん。ちょうどいい所に来た。」
 部屋に入って来た美津子を見るなり、西郷がそう言った。
「おはよう…、ございます…」
 四つん這いの姿勢のまま、汐理があいさつする。哀しそうな表情に美津子の胸が痛んだ。
「ちょっと、写真を撮ってくれ。」
 西郷はそう言って美津子にカメラを渡すと、かの上野の偉人像を真似てポーズをとった。
 写真を取ってカメラを返した時、美津子の携帯が鳴った。予想どおり島津からだ。西郷に気取られないよう「後でご連
絡を差し上げます」とだけ言って、美津子は電源を切った。
(もう少しだわ…)
 思わずカレンダーを見た美津子は、先月交わした島津とのやりとりを思い出した。

「なんだって?来月いっぱいで降板する!?」
 一瞬、声を失った島津は、憤りを隠せない様子で美津子に詰め寄った。
「池尻クン、どういうことだ、きちんと説明してもらおう。」
 汐理がニュース・タイムのレギュラーから降りると言うのだ。
「ニュース・タイムが問題なのではなく、スケジュールが立て込んできて、これまでのように、あなたの所に汐理を通わせ
るのは難しくなってきたのです。ですから、番組も、そちらの方も…」
 要するに島津との男女関係を絶ちたいというのだ。汐理をセックス・ペット扱いしてきた自覚がある島津は、真っ正面
からそう言われると、とっさに返す言葉を失った。
「…し、しかし…」
「これまでご指導いただいたことは感謝しております。」
 美津子は深々と頭を下げ、穏やかな口調で、しかし、きっぱりと言った。
「しかし、そろそろ汐理を卒業させたいと思っているのです。」
「…だが、あまりにも急じゃないか…。後釜も探さなきゃいかんし…」
 島津が未練がましく言う。
「ですから、番組の改編期にあたる来月いっぱいと申し上げております。」
 落ち着いた口調で言いながら、美津子は内心、必死だった。西郷から引き出した猶予もそこまでだ。それまでに完全
に島津の関わっている仕事から降りなければならない。さもなければ、汐理は芸能界を追放されるかもしれない。
(いいえ、違うわ、危ないのは私…)
 そう思って美津子は震撼した。西郷が本気で汐理を干しにかかれば、タイラー社長が乗り出してきて、汐理のタレント
生命はつながるかもしれない。しかし、自分は間違いなくクビになる。そして、裏切りを許さない西郷は、裏の人脈を使
って美津子に報復するだろう。
「わかった。だが、それまでの間は、…レッスンにも来てもらいたい。」
 島津は仕方なく、苦々しげな表情でそう言った。
「わかりました。これまでのように頻繁には無理ですが…」
 美津子がそう答え、それ以来、汐理は二人の男に弄ばれる生活を送っている。さすがに罪悪感を感じた美津子は時
折、汐理のかわりに、自ら男たちの性欲を満たしに行っているのだ。

 今日のロケ地は、郊外の閑静な住宅街であった。かすかに花の香りがする風が温み、木々の新芽も膨らんで、春の
訪れが感じられる。時折、朝の散歩やジョギングの人が、何の撮影だろうと好奇の目で見て通っていく。
 スタッフに囲まれた汐理は、頭にイヌの耳をつけ、膝まであるガウンを着て立っていた。メイク係が念入りに最後のチ
ェックをしている。
「じゃあ、本番いきまーす!」
 ADの声が響いた。
 汐理は周囲に視線を走らせ、ギュッと目をつぶると、ガウンを脱いだ。まばゆいばかりの白い裸身が露わになる。汐
理が身につけているのは、お尻にテープで固定されたフサフサした尻尾と、革製の赤い首輪だけだ。
 汐理が恥ずかしそうに胸と下腹部を手で隠して立っているところに、共演者の井上紀之がやって来た。人気アイドル
グループFLUSHのメンバーの彼は、その中でも二枚目半のキャラで売っている。
「汐理ちゃんの体、きれいだねぇ、肌が白くてスベスベで…」
「………。」
 軽薄そのものの口調でそう言う紀之の視線が、手では隠しきれない胸元や脇腹、下腹部から太腿、お尻と舐めまわ
していくのを感じて、汐理はギュッと下唇を噛んだ。白い肌が見る見るピンクに染まっていく。
「ワンちゃん、お散歩だよーっ。」
 ニヤニヤ笑いながら、紀之はスタッフから受け取ったリードを首輪につなぐ。汐理はひたすら顔を伏せ、全身を微か
に震わせている。カチャリと音を立ててリードがつながった時、紀之はゾクゾクするような興奮を覚えた。
「さあ、早く。撮影が始まるよ。」
 紀之がニヤニヤ笑いを浮かべたまま言うと、汐理はその場でゆっくりと四つん這いになった。

 汐理の初主演ドラマ「ドッグ・ライフ」は、大きな話題になっていた。
 テレビ放送ということもあって、乳首や陰部などは一切映らないように編集されてはいたが、全裸が映されることにか
わりはない。人気アイドルの思い切った演技は衝撃的で、もちろん批判もあったが、ドラマの視聴率はうなぎ登りであっ
た。とりわけ、知的なイメージのある汐理だけに、その意外性、話題性は十二分にあったのである。
 陰のプロデューサーと言っていい西郷公彦は、予想以上の成功にほくそ笑んでいた。このドラマに出演させることは、
自分に処女を捧げなかった汐理に対するお仕置きであり、イジメであったが、内容はどうあれ、汐理の人気が高まって
いくのなら、ATプロが正式にクレームを言ってくることはないだろう、西郷はそう読んでいたのだ。

 汐理は四つん這いになり、イヌそのものの格好で住宅街を進んでいく。背中から細い腰、お尻への滑らかな曲線が、
朝の光の中でしなやかな動きを見せている。
(やべぇ!完全に見えちゃってるよ。)
 リードを握って後ろを歩く紀之の顔に、にやけた表情が浮かんだ。目の前に白桃のようなお尻がある。それだけでは
ない。汐理の体が動くたびに尻尾が大きく左右に振れ、ぷっくりとした陰唇がクニュクニュと形を変えるのが丸見えにな
っているのだ。
 この陰部も、瑞々しさに溢れた揺れる乳房も、放送で映ることはないが、撮影中は共演者やスタッフの目に余すとこ
ろなく晒されている。しかも、今日は屋外ロケということで、エキストラ以外の通行人もいるし、カメラに映らない位置で
は、ロケの様子を見物しているやじ馬もいる。その中で、汐理は恥辱に耐えているのだ。
(これはエロいよなぁ…)
 紀之は、自然と股間が膨らむのを感じた。
 そこに、向こうから犬を連れた西郷が近づいてきた。西郷は、住宅地の自治会長役で出演している。彼が連れている
のは、茶色より黒毛の多いジャーマン・シェパードだ。精悍で大きなシェパードはかなり迫力があり、寄ってくるだけで恐
怖を感じるほどだった。
 シェパードは汐理を発見すると、西郷が握るリードをぐいぐい引っ張って彼女に近づいてきた。汐理の表情が自然と
強ばっていく。
 寄ってきたシェパードは汐理の後ろに回ると、クンクンいわせながら鼻を寄せ、しきりに彼女のお尻の匂いを嗅ぐ。汐
理は知らなかったが、彼女の着けている尻尾には発情したメス犬の臭いがつけられているのだ。
「あっ!」
 シェパードがざらついた舌で、いきなり汐理の肉唇の合わせ目を舐めあげた。
「い…、いやっ!」
 お尻の割れ目をペロペロと舐められた汐理が、双臀を左右に振り立て、四つん這いで逃げようとする。メス犬の臭い
に引きつけられたシェパードは、そのお尻をおいかけ、汐理とイヌは二頭の犬のように、その場でくるくると輪を描く。
 シェパードは実際に西郷が飼っている犬だが、動物プロダクションに所属するタレント犬でもある。汐理が演じる、犬
にされた少女に恋をする近所の犬の役で、アフレコの際に「へへっ、イイ女じゃん」との声が吹き込まれるところだ。
「こら、クロ!いかんぞっ!」
 興奮した様子で汐理にのしかかろうとするシェパードを、リードを引っ張って引き離すところなのだが、西郷はわざと力
を緩めていた。
 シェパードのクロがハアハアという荒々しい息遣いで跳ね回り、汐理のお尻に前脚をかけた。
(おおっ、スゲェ…)
 犬の股間に突き出たものを見て、紀之は心の中で呟いた。人間のモノとは少し形が違うが、ピンク色をした長い突起
が大きく膨れ上がって、そそり立っている。クロは一声吠えると、前脚を汐理の肩甲骨あたりまで進めて、背中におお
いかぶさった。
「あっ、だめっ…」
 太腿のあたりに長い棹のような物が当たるのを感じた汐理が、演技を忘れて必死で逃げようとする。犬のペニスなど
入れられてはたまらない。
(よし行け、ワン公!)
 紀之は心の中で、オス犬に鬼畜な声援を送る。美少女が犬に犯されるところを見てみたいと思ったのだ。見ると、興
奮したクロに爪を立てられたのか、汐理の白く滑らかな背中に一筋血が滲んでいる。
「ああっ、いやっ!」
 生暖かく湿ったモノが膣口を突つくのを感じて、汐理が身を捩った。首輪で繋がれているせいで、自由に体を動かす
ことができない。あわやペニスが挿入されようとしたその瞬間、グイッと西郷がクロのリードを引いた。
「こんな、サカリのついたメス犬に構うんじゃない!」
 西郷は憎々しげに汐理を見てそう言うと、クロを引っ張っていく。クロが名残惜しそうに汐理を振り返りながら、西郷に
引きずられるようにして、離れていった。
「悪いオスに引っ掛かるんじゃないぞ。」
 紀之が西郷の後姿に向かってあかんべぇをした後、汐理の頭を撫でながらそう言った。

「ちょっと、買い物をしてくるから、ここで大人しく待ってるんだよ。」
 紀之はそう言って電柱に汐理を繋ぎ、コンビニの中に入っていく。
 買い物客が出入りする横で、汐理がクンクンと電柱の臭いを嗅ぐ。パントマイムを習っていただけに、その姿はまるで
本当の犬のようだ。
 しかし、彼女の演技もここまでだった。電柱にお尻を向けて四つん這いになっていた汐理は、その場でしゃがみ込み、
哀願するような視線をディレクターに向けた。
「すみません、やっぱりできません…、ごめんなさい…」
「何言ってんだ!真面目にやれ!」
 ディレクターの怒声が飛ぶ中、汐理は泣きべそをかきながら謝った。それは、電柱にオシッコをするシーンだったの
だ。
 コンビニの周りには、ロケ隊を囲むように、見物人の輪が出来上がっていた。野外で衆人環視のもと、排泄行為を見
せるなど、とてもではないができるものではない。
「仕方ない、とりあえず昼休みにしよう。」
 ディレクターの声に、スタッフたちがその場を解散して、思い思いに休憩に入る。
 しょんぼりしたままガウンを着ようとした汐理の所に、学生くささの残る若いADがやって来た。久保というこのADは、
撮影現場では一番の下っ端で、いろいろと使い走りをさせられている。
「汐理ちゃん、ガウンを渡して…」
「えっ、でも、今は休憩中…」
「さっきの演技、犬になりきってなかったから、休憩中もガウンを脱いで、ずっと犬の格好をしているようにって、西郷先
生が…。」
 気の毒そうな表情で久保が言ったちょうどその時、当の西郷がニヤニヤ笑いながらやって来た。
「さあ、メシだぞ。」
 西郷がその手に持っているのは、犬の餌用の容器であった。
「中身は、ドッグフードじゃなくて、俺達と同じ弁当だから安心して食っていいぞ。」
「そ、そんな…」
 汐理は絶句した。カメラが回っている時は、まだ「仕事だから」と割り切れる。しかし、休憩時間に犬のマネをさせられ
るのは、人格を踏みにじられた屈辱的な行為でしかなかった。
「そうだ。メシの前に、ちょっと演技指導をしてやろう。まず、地面に座るんだ。」
 そう言って西郷は汐理を正座させた。何が始まるのだろうと、スタッフや共演者たちが集まってきて、汐理の周囲を二
重三重に取り巻いていく。
「お手」
 西郷は中腰になって、汐理の目の前に手を差し出した。
「えっ…?」
 どう反応して良いかわからず、戸惑いの表情で西郷を見上げる汐理の頭が、軽く叩かれた。
「犬になりきったつもりで、やらないといかんだろう。お手!」
 再び西郷が命じる。激しい羞恥と屈辱に身を焦がしながら、汐理は胸を隠すのに使っていた右手を前に出して、西郷
の掌に重ねた。周囲にいる男たちの視線が、露わになった胸の膨らみと、その頂点で微かに色づいている小さな乳首
に集中する。
「よし、おかわり!」
 右手に替えて、下腹部を隠していた左手を差し出した。太股の間の繊毛で飾られたデルタが見える。
「ちんちん!」
 西郷が指示するが、汐理は首を横に振り、体を小刻みに震わせているだけで、応じようとしなかった。
「どうしたんだ?」
「お願いです…、もう許してください…」
 ちんちんのポーズを取るということは、屈辱的な姿勢で自ら陰部を晒すことになる。それは、耐えがたい辱めだった。
「何を甘えたことを言ってる。」
「早くしろ!」
 周りにいたスタッフに一斉に怒鳴りつけられた汐理は、やがて、あきらめたように膝を曲げてしゃがみ、両手を前に垂
らして、ちんちんのポーズをとった。陰毛に覆われた恥丘が、隠しようもなく晒される。
「もっと脚を開いて…」
 西郷が膝頭を掴んで、思い切り開かせる。
「おおっ…」
 見物していたスタッフが思わず声を上げた。閉じていた割れ目がパックリと割れ、ピンク色の中身を覗かせていた。
「よーし、そのまま、待て!」
 西郷の命令が飛ぶ。スタッフたちは羞恥に染まった汐理の顔と、露わになった乳房や陰部を交互に見ながら、彼女
の恥ずかしがる様子を楽しんでいる。
「ああ…、恥ずかしい…」
 好色な視線を痛いほど感じて、汐理は消え入りそうな声で呟いた。
「よし、エサを食え!」
 汐理はやっと恥ずかしいポーズから解放されて、四つん這いになると、西郷やスタッフが見つめる中、容器に顔を突
っ込んで、犬のようにご飯を食べ始めた。
「うまいか?」
 西郷が意地悪く尋ねながら、汐理の滑らかな背中を撫で回す。しかし、恥辱のあまり、味を感じるどころか、何を食べ
ているのかすらわからなかった。汐理の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
 
 その日の撮影も終了に近づいていた。
 今、撮影されているのは、自治会長宅に忍び込んだこそ泥が、クロに追い払われるシーンである。太った体を揺すっ
てじたばたと逃げているのは、こそ泥を演じるレインドロップスのポンだった。美津子が西郷に口添えし、レインドロップ
スの面々もチョイ役ながら、「ドッグ・ライフ」に出演することになったのだ。
 クロが鋭く尖った歯を剥き出しにして唸る。ポンの顔が恐怖に引きつった。
「ギャアッ、助けて、助けてくれっ!」
 悲鳴を上げて逃げるポンに、クロが激しく吠えて襲いかかった。ポンのシャツが裂け、もうどこまでが演技かわからな
くなってきている。
「痛い、痛い、痛い!」
 クロが容赦なくポンの足に噛みつく。西郷が本気でけしかけたのだ。
「カット!」
 撮影が終了した。
「誰か、ちょっと、助けてくださいよぉ…」
 ポンが情けない声をあげて逃げ回っている。撮影が終わっても、誰もクロを押さえようとしないのだ。
「おい、犬、捕まえて来い。」
 そう指示されたADの久保が、おっかなびっくり、クロに近づいていく。
「ワン、ワン、ワン!」
 クロが激しく吠え、驚いた久保はその場に倒れる。間の悪いことに、倒れた勢いでクロの頭を叩いてしまい、怒ったク
ロの攻撃対象がポンから久保に移った。久保が悲鳴をあげて逃げ回る。
「ハハハハハ!」
 その様子が滑稽だったのか、西郷が笑い声をあげた。ディレクターたちも追従の笑いを浮かべ、誰もクロを止めに行
こうとしない。
「クロは最近運動不足なんだ。ちょっと遊んでやってくれ。」
 西郷が笑いながら、そう言った。
 しかし、笑い事ではなかった。犬は久保の上にのしかかり、顔のあたりに噛み付こうとしている。噛まれれば、大ケガ
は免れない。
「クロ、やめなさいっ!」
 そう叫んで駆け寄ってきたのは、汐理だった。
 久保があやうく首筋を噛まれそうになった瞬間、汐理がクロのリードを握り、力いっぱい引っ張った。
「ウウウ…」
 呻り声をあげながらもクロの動きが止まり、やがて大人しくなった。汐理の方を見て、ときおり「クーン…」と甘えた声ま
であげている。
 その場にへたり込んだ久保とポンは、感謝の視線で汐理を見上げた。
 大きくはないが、丸々として張りのある、とろけるような白さの乳房。乳首は小粒できれいな桜色をしている。見上げ
た視線の先には、ふっくらと盛り上がった陰阜に、楚々とした柔毛が生えている。
 すっくと立って、大型犬のリードを握っているその裸体は、大理石でできた女神像のようだ。二人は思わず、その姿に
ボーッと見とれている。



「キャッ!」
 二人の視線に気づいた汐理は悲鳴をあげ、両腕を胸にクロスさせて、その場にしゃがみ込んだ。



 
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