第4話 恋人たちの試練(オーディション)

 休日の繁華街,待ち合わせのメッカとして有名な巨大液晶ビジョンに風見清香が映し出され、ビートの効いた彼女の
歌声が街に響いた。

 Kiss Kiss KIss me more!
 Kiss Kiss KIss me more!
 濡れた唇で、誘ってあげる

 待ち合わせの人たちの視線が、行き交う通行人の視線が、一斉にビジョンに集まる。清香の顔がアップになり、人々
の視線を釘付けにする。いつの間にこんなにきれいになったのだろうと、見る者をハッとさせる表情だ。もとから可愛い
美少女で、華のある天性のアイドルだったが、今や大人に変わっていこうとする年頃の,この時期にしか見られない、
眩しいほどの輝きを見せている。

 Kiss Kiss KIss me more!
 Kiss Kiss KIss me more!
 そして、強く抱き締めて…



 ピンクに塗られた唇が艶やかにきらめき、手にしたリップスティックがアップになった。商品のロゴが浮かび上がる。
 デビューして1年、清香は春の口紅のキャンペーンガールに選ばれたのだ。16歳という年齢は、口紅の宣伝には若
すぎるのではないかとの声が、当初スポンサーから聞かれたが、ポスターとCM映像が完成すると、そんな声はかき消
すようになくなった。
 春の華やいだ空気に乗って、タイアップ曲「KIss me more!」はヒットチャートを駆け登り、口紅も飛ぶような勢い
で売れている。屋外に貼られた販促用のポスターは、貼られると同時に盗まれると言われて話題を集めた。

「もう時間だわ…」
 時計を見た清香は、残念そうな表情でそう言った。分刻みのスケジュールの合間を縫い、スタッフの目をかいくぐっ
て、彼女は白坂陽介の部屋を訪れていた。白坂のバンド「BLOW」が清香のバックバンドを勤めたのは年末のカウント
ダウン・コンサート限定だったので、それ以後、仕事で一緒になることはなかった。
「こんなふうにコソコソ会うんじゃなくて、きちんとしたいな…。交際宣言しちゃおうかな…」
 さりげない風を装いながら、清香は心の中で何度も繰り返した言葉を口にした。
「もう少し、待った方がいいよ。」
 清香の気持ちが痛いほどわかっている陽介は、優しい口調で、噛んで含めるようにそう言った。思い切って口にした
言葉を否定されて、清香は今にも泣き出しそうな顔になる。
「どうして?」
「清香はアイドルとして、ブレイクしたばかりだろ?」
「うん…」
「しかも、まだ16歳だ。」
「でも…」
「確かに昔に比べると、アイドルの恋愛や結婚がタブー扱いされなくなってきてる。でもね、これから売り出していこうと
いう時に、男と交際してるって言うのは、残念だけど、イメージダウンになっちゃうと思うんだ。」
 陽介が諄々と説得するのを、清香は少し唇を尖らせた表情で聞いている
「もう少し待とうよ。その間に、俺もメジャーになるから…」
「………」
「今宣言したら、『白坂?それ、誰?』なんて言われちゃうよ。」
 冗談めかして言ったが、それも引っ掛かりの一つである。公表した時には、清香と釣り合うステイタスを勝ち取ってい
たい。男として、そんな思いは否定しがたいものであった。
「うん…、わかった…」
 陽介の気持ちを察した清香は素直に頷いた。交際宣言ぐらいで揺らぐことのない人気を勝ち取ろう。そして、陽介の
ことも応援しよう。ビッグカップルとしてファンに祝福される日を楽しみにがんばろう…、そう思う清香だった。

 文字どおりトップアイドルになっても、土本創児がプロデュースする「羞恥アイドル、清香プロジェクト」に路線変更はな
い。今日もΣラボのミーティング・ルームで、清香にいかに刺激的でエロティックな活動を展開させるかという企画会議
が、本人も交えて開かれていた。
「さすがに、テレビや大ホールでは、これ以上過激な実験は難しくなってきたからな。ライブハウスを1つプロデュースし
ようと思う。」
 土本がそう言って、集まったスタッフを見渡した。
「そこにいけば、毎日、一流のパフォーマンスが楽しめる、そんなライブハウス作りは、以前からずっとやってみたかっ
たんだ。清香の刺激的なパフォーマンスを、そこでの看板の一つにしたい。」
 若者が集まる街にある老舗のライブハウスが経営難から売りに出ており、それを買い取ってリニューアルするつもり
だと土本は説明した。
(ライブハウスを作れば、陽介さんの活動拠点になるかもしれない。)
 土本の話を聞きながら、清香は目を輝かせて、そう考えていた。
「バックバンドは…?」
「BLOWでいいんじゃないか。カウントダウン・コンサートの演奏もしっかりしてたし…」
 音楽担当のスタッフが言うのを聞いて、清香の表情が輝く。
「どうだな、清香?」
「ライブハウス、いいですね。ぜひやりましょう!」
 土本が尋ねると、清香は二つ返事で答えた。
「珍しく乗り気だなぁ…」
 土本が驚いたような表情を見せる。清香プロジェクトの企画会議は、言ってみれば、彼女にいかに恥ずかしい思いを
させるかを相談する場である。いつもは、会議中は顔を真っ赤にして黙っていて、戸惑いと羞恥に顔を歪めながら、最
後にしぶしぶ同意するというのが、パターンなのだが…。
(ふっきれたのかな…?)
 土本はそう思って首を捻った。時折視線を向けると、清香の表情に楽しげな色が浮かんでいる。
 打ち合わせが終わった後、清香は土本に声をかけた。
「土本さん!」
「何だい?」
 清香は真剣な表情を浮かべている。土本は少し怪訝な顔をした。
「これ、聞いてみてもらえませんか?」
 清香が差し出したのは、真っ白なラベルのCDーRだった。
「BLOWのベーシストの白坂さんが作曲したんです。」
「へぇー?」
 CDーRを受け取ったものの、土本は気のない返事を返す。
(ダメだわ、もっとプッシュしないと…)
 そう思うと清香は、一生懸命に曲の良さをアピールした。
「私、とても素敵な曲だと思うんです。私もこんな曲、歌ってみたいなって思って…」
「…ふーん、じゃあ、時間がある時に聞いておくよ。」
 少しは興味を引かれた様子で、土本はCDーRをためつすがめつしている。
「お願いします。ゼッタイ、絶対、聞いてくださいね。」
 そう言って、清香は何度も頭を下げた。

 数日後、テレビの収録を終え、放送局の廊下を歩いていると、土本はある男に声をかけられた。
「おや、大村さん、何ですか?」
 エネルギッシュな印象を与える小太りの中年男、大村豊成は、医学博士の資格を持つ芸能評論家という変わり種
だ。特に親しいわけではないが、ATプロと関係の深い男で、お互いにそれなりの面識はある。
「土本創児ともあろう者が、偽装はいただけないなぁ…」
 皮肉な笑いを浮かべながら、大村は何かを探ろうとするかのような視線を向けてくる。
「は?どういうことでしょうか?」
「『ロスト・ヴァージン・コンサート』と銘打ちながら、あの時、既に清香は処女ではなかった、ということだよ。」
「ま…、まさか…」
「おや、その様子ではプロデューサーはご存じなかったか…、これは余計なことを言ったかな。」
 大村の様子から、自分をからかっているわけではなさそうだと感じた土本は、真剣な顔で大村に向き直った。
「大村さん、もっと詳しく聞かせてください。」

「あれだけのどアップで見たからね。処女でないことは、はっきりとわかったよ。」
 土本のオフィスに移動すると、大村はカウントダウンライブの映像をDVDで再現させて、医学的見地から解説を施し
た。
 次に大村は、プロモーション用に撮影されたポスターを見る。
「おや?この時は処女のようだな。処女膜の状態が違っている…」
 大村は食い入るように大判のポスターを見つめ、実物に触れるかのように、そこに写った性器を指先でなぞる。
(その間の出来事と言えば…)
 記憶をたどっていた土本は、ハッとした表情で机の上を見た。そこには、清香から渡されたCDーRが置かれている。
それは、時間がなくて、受け取った時のまま、そこに置いてあった。
 それを持って来た時の清香の表情を思い出した土本は、ピンとくるものを感じた。そう言えば、オンサリゾートでのリ
ハーサルには、バックバンドも参加していた。
「…そういうことか!」
 土本は呟いた。清香がコンサート前に白坂に処女を捧げていたことを悟ったのだ。土本は怒りに満ちた表情を浮か
べ、CDーRを床に投げつけると、憎しみを込めて、それを踏みつけた。

「BLOWとの練習は、いつになるのかなぁ?」
 部屋にやって来た清香の質問に、陽介の表情が陰った。
「どうしたの?」
「…プロダクションから連絡が来たんだ。清香のバックバンドはオーディションで決めることに、なったって…」
 陽介の言葉に、清香の表情が凍りついた。
「そんな…、打ち合わせでは、バックバンドはBLOWだって言ってたのに…」
「俺たちも最初はマネージャーからそう聞いてたんだけどね。まあ、芸能界って奴は、いろいろあるんだろう…」
「酷い…」
 今にも泣き出しそうな清香の肩を抱いて、陽介は力強く言った。
「俺はあきらめていないよ。要は、オーディションで選ばれればいいんだ。」

 改装を終えたばかりのライブハウスに、最終予選に残ったミュージシャンたちが集まった。楽器を手に三々五々、客
席に座ってオーディションが始まるのを待っている。
 演奏の腕前を競うとばかり思っていた彼らは、あいさつに立った土本の言葉に度肝を抜かれた。
「バックバンドのメンバーには、ステージ上で清香と絡んでもらうこともある。観客が見つめる中ですぐに勃起し、何度も
女とセックスできることが合格の条件だ。そこで、最終審査は、そうした面でのポテンシャルを見せてもらう。辞退する
者は、帰ってもいいぞ。」
 数人のミュージシャンがその場で帰り、ドラムスとキーボードはオーディションなしで決まった。
「そんなことでひるんでちゃあ、メジャーになるチャンスなんて掴めないよな!」
 陽介の隣でそう言ったのはBLOWのギタリスト、ユウキだ。陽介の高校時代からのバンド仲間で、一緒にプロを目指
してきた。今日も一緒にオーディションを受けに来たのだ。
「それに、清香とセックスできるなんて、夢みたいな話じゃないか。なぁ、陽介?」
 ユウキが卑猥な笑いを浮かべた。その視線は一番前の席で土本と並んでいる清香に向けられている。
「あ…、ああ…」
 思わずムッとしてしまうのを隠して、陽介は相槌を打った。清香との関係は、BLOWのメンバーにも知られていない。
「コンサートのリハの時から、あの過激な衣装で、いつもムラムラしてたんだ。コンサートの当日なんて、俺も混ざって乱
交したかったよ…」
 女好きのユウキが興奮した様子で言う。遠慮のない猥談に耐え切れなくなって、白坂は黙って席を立った。

 頭を冷やした陽介が客席に戻ると、ギタリストのオーディションが始まるところだった。最終選考に残った5人のギタリ
ストがステージに上がってくる。真ん中がユウキだ。
 続いて4人の全裸の女が登場する。女たちは無名のAV女優らしい。
「ギタリストは2人。早く勃起して、早く相手をイカせた者から順に合格だ。」
 スタッフが説明すると、女が客席の方を向いて、裸になったギタリストたちの前に立った。しかし、ユウキの前には誰も
いない。
「ユウキの相手は、清香にやってもらおう。」
 正面最前列の席から土本の声がして、隣にいた清香を立ち上がらせる。
 拍手と口笛に送られてステージに引っぱり上げられた清香は、躊躇いを見せながら、着ているものを全て脱いだ。手
で胸と下腹部を隠してユウキの前に立つ。その可憐な仕草と瑞々しい裸身に、客席で見ていたミュージシャンやスタッ
フから歓声が上がった。
「ヨーイ、スタート!」
 スタッフの声とともに、ギタリストたちの愛撫が始まった。
 ユウキは清香の体を後ろからがっちりと抱きしめた。一方の手で乳房を揉みしだき、もう一方の手ですらりとした太腿
から股間にかけてを、卑猥な手つきで愛撫する。それを見ていた陽介が、苦しそうに呻いた。
 ユウキは、清香の首筋にチュッ、チュッとキスをしながら、陽介に向かってイタズラっぽくウインクして見せる。その指
先は清香の乳首をひねり、もう片方の手でクリトリスをいじっていた。愛液が溢れて太腿を伝っている。その腕に抱か
れた清香は、哀しそうな目を陽介に向け、喘ぎ声をあげながら、無言の謝罪を繰り返していた。
 血の気が失せて真っ青だった陽介の顔が、怒りにカーッと紅潮していく。しかし、ユウキは陽介と清香とのことは知ら
ず、憧れのアイドルとの痴態を、無邪気に親友に自慢しているだけなのだ。陽介はもって行き場のない怒りに胸をたぎ
らせた。
 清香とユウキは唇を合わせ、互いに顔をくねくねと揺すりながら舌を絡め合い、本格的なキスをしている。
 陽介は血が逆流するような感じがした。
「きゃっ!」
 短い悲鳴とともに清香の裸体がステージの床に押し倒される。肉棒をそそり立たせたユウキが、その上に荒々しくの
しかかる。
「い、いや…、や、めて…」
 恋人のすぐ眼前で犯される屈辱に、反射的に抵抗する清香。しかし、興奮したユウキの動きは止まらない。すらりとし
た太腿を抱え込み、陰部にあてがった怒張を押し出した。柔らかな媚肉の温かくヌメった感触が陰茎を包み込む。
「ああっ…」
 ひときわ甲高い清香の悲鳴が上がった。ユウキが彼女の腹の上で往復運動を始める。
「清香…」
 陽介はかすれた声で、恋人の名前を呟いた。
 清香を組み敷いたユウキは、夢中でピストン運動に励んでいる。
「ああ、清香ちゃん、いいよ…、たまんないよぉ…」
 言いながらユウキは、清香の胸の肉丘を掴みたてては、ズンズン腰を送り出す。
 全裸で絡み合うユウキと清香の姿。それは、彼女が見ず知らずの男とセックスする姿を見せられる以上に、陽介にと
っては辛かった。知らず知らずのうちに目が三白眼になり、口元が痙攣したように歪む。
 それは清香の方も同じらしい。今にも泣き出しそうな顔でチラッと陽介を見ると、その後は視線を合わせようとしない。
閉じた双眸からぽろぽろ涙が流れ出すのが、陽介の位置からもわかり、彼はステージから視線を逸らせた。
「なんだ、白坂?見ないのか、同じバンドのメンバーががんばってるのに?」
 背後で声がして振り返ると、土本が立っていた。
「見て見ろよ。ユウキはギターだけじゃなく、こっちの方もなかなかのテクニシャンのようだな。清香があんなに乱れてい
る…」
「はあン…、あン…あンっ…」



 清香はよがり声をあげ、ユウキの動きに合わせて自らも腰を振っていた。二人の結合部からヌチャヌチャという卑猥
な音が響いている。清香の体に赤黒いユウキの屹立が出入りしているのが見える。清香が夢中で男の首を抱えて引き
寄せ、唇を貪るように重ねていく。
「よっぽど気持ちいいんだな。あんなによがる清香の姿は、なかなか見れないよ。」
 そう言いながら土本は陽介の表情を窺った。平気なフリをしているが、焦燥に耐えるような表情は隠せない。
(やはり、こいつか…)

 ベーシストのオーディションは最後になった。
 陽介ともう一人がステージに上がる。土本は何とか陽介を外そうとしたものの、ミュージシャンとしての彼の力量はず
ば抜けていた。これまでの審査では、他の審査員が文句なしに彼を推薦したため、土本と言えども陽介を外す理由が
つかず、最終審査まで残ってしまったのだ。大村から聞いた話は、土本とマネージャーの伊吹だけの秘密になってい
る。
 もう一人のベーシストは土本が押したのだが、明らかにテクニックに開きがあった。しかし、最終審査は音楽とは関係
がない。
「フェラチオに、より長く耐えた方が勝ちだ。」
 ルールが説明され、全裸のAV女優が陽介の前にひざまづいた。
「よーい、スタート!」
 スタッフの合図でAV女優は陽介のジーンズを引き下ろし、半ば勃起している肉棒を咥えた。
「あっ…」
 服を着て、土本の隣の席に戻ってきた清香の口から、思わず声が漏れる。全裸の女が陽介の股間に身を入れ、乳
房を震わせながら淫らな愛撫を始めていた。ルージュにぬめった唇から逞しい肉竿が出たり入ったりしている。たっぷ
り唾液をまぶされた砲身は、テラテラと淫な光を放つ。
 二人の男が背中合わせで、横向きで立っている。それぞれの前に一糸まとわぬ姿の女がひざまづき、両手と口を使
って男をイカせようとしている。チュパチュパという音がホールに響いた。
 客席最前列に座った清香の位置からは、女の舌や唇に反応して、勃起したペニスがピクピクする様子までが目の前
に見える。
「ああ…」
 とても正視できず、清香はステージから目を逸らした。
「おいおい、清香。お前のバックバンドを選ぶんだ。ちゃんと見ておかないとダメだろう。」
 すかさず土本がそう言った。
「は、はい…」
 清香が視線を戻すと、AV女優はいったん口から肉棒を抜いて、キュッキュッと根元を揉みさすり、舌先でカリ首を責
めていた。陽介は喉をいっぱいに突き出し、腰を震わせて陶然とした表情を浮かべている。
「白坂とか言ったな、気持ち良さそうな顔してるなぁ…」
 土本はそう言って、清香の表情を盗み見た。何か言いたげな表情を浮かべ、目にはうっすらと涙が滲んでいる。
(どうやら間違いないな…)
 土本は清香が処女を捧げた相手が、陽介であることを確信した。
「うっ…、あっ、あぁ…」
 その時、ホールに情けない声が響く。先に射精したのは、もう一人の男だった。陽介はなんとか踏ん張ったのだ。
 スタッフが陽介の勝利を宣言しようとした時、土本が立ち上がってそれを遮った。
「ちょっと待った。ベーシストの2人には、もう一つ、やってもらいたいプレイがある。」
 そう言うと、土本は清香の手を握って、ステージに上がってきた。
 土本は、再び清香に着ている物を全て脱がせると、スタッフに命じて、その両手をロープでしっかりと縛り合わせ、そ
こから伸びたロープで、彼女の体を照明を固定する天井の金具に吊り下げた。
 吊り下げられたその体は、しかし完全に吊られているわけではなく、かろうじて素足の爪先だけがステージの床につ
いていた。 そうすることによって、吊られている手首と床についた爪先の両方にダメージが加わる。清香の顔が苦しげ
に歪む。
 何が始まるのかと息を飲んで見守るスタッフたちに向かって、土本が言った。
「SMプレイの基本、鞭打ちだ。ライブではSMを取り入れた演出もやる予定で、これはベーシストにやってもらうから
な。」
 そう言うと、土本が2人に向かって長い一本鞭を差し出した。
「さあ、これで、清香の背中を打つんだ。」
「はい。」
 そう言うと、もう一人のベーシストが鞭を受け取った
 素っ裸の清香が両手を吊り上げられた格好で、白い肌を晒している。男が鞭を振りかぶった。
 ヒュンッ!
 革で編まれた鞭が一閃し、風を切る音と共に飛んできて、清香の背中の肌を叩いた。
「あぁっ!!」
 絞り出されるような清香の悲鳴が、緊張した空気を切り裂いた。
「もう一度っ!」
 土本の声が響く。鞭がうなりをあげて清香の背を叩いた。
 バシィッ!!
 清香の背中に命中して、乾いた音をたてる。
「ああぁっー!」
 清香はのけぞって悲鳴をあげた。
(俺を騙したお仕置きだ…)
 土本が心の中でそう呟く。残酷な気分に浸ることで、わずかに溜飲が下がる思いがした。
「よし、連続して打ってみろ。」
「はぁっ!ひぐぅ…、あっ、うああぁー!」
 次々と振り下ろされる鞭に、清香は絶叫しながら、狂ったようにのけ反り、かぶりを振った。
 男はサディストの気があるらしく、身悶えする清香を見る目が、異様な光を帯びている。
 鞭の音が響くたびに、陽介は自分が打たれたかのようにビクッと肩をすくめる。「やめてくれ!」と叫びたくなるのを必
死で堪えていた。
「よし、交替だ。」
 土本は陽介に鞭を渡した。その顔に意地の悪い笑みが浮かんでいる。
 スポットライトを浴びた清香の白い背中が震えている。そこに幾筋もの鞭の痕が赤く走っているのを見て、陽介は思
わず目を逸らす。
 そして陽介は、手にした鞭を静かに床に置いた。
「…すみません、俺、棄権します…」



 
 目次へ
 
 「星たちの時間」トップページへ
 
 「ぷろとこーる・ラボ」トップぺージへ
 
動画 アダルト動画 ライブチャット