国防省附属「星園・癒しの館」第2部
 
第3章 砂漠の国で 5

 防衛隊が到着した頃になって、ようやく、アルメイア軍も態勢を立て直した。報告を受けた司令部からも部隊が投入さ
れている。
 こうなると、アルメイア軍の戦力は圧倒的だ。しばらくすると、広場にゲリラたちの遺体が次々に積み上げられた。
"君たちは、この遺体を処理したまえ!"
 横木ボランティア部隊を指揮下に納めたアルメイアの将校が吉川に命じた。日ア同盟に基づく集団的自衛権のもと
で、防衛隊は今や完全にアルメイアの補完部隊になっている。
「おい、こいつら…」
 ゲリラの遺体を見て、ショックを受けた様子で立花が言うと、遠山が頷いた。
「うん。俺たちと同じぐらいの歳だ、きっと」
 星園の男子たちは、痛ましい思いで遺体を見つめた。中には少女も含まれている。
「おい、生きてるぞ!」
 よく見ると、負傷したり、気絶したりしているだけの者も多く含まれていた。遠山が、体を起こそうとしている少年の所
に駆け寄って、助け起こす。
「生存者はどこに連れていきましょうか?」
 いつしかボランティア隊のリーダーのようになった富田が、吉川に尋ねる。
「よし。確認して来よう」
 そう言うと、吉川はアルメイア軍の所に駆けていった。
"負傷者などいない。すべて遺体だ"
 アルメイアの将校は、素っ気なく言い放った。
"しかし、ざっと見たところ、半数は…"
 説明しようとする吉川の言葉を遮って、将校は言った。
"聞こえなかったのか、すべて遺体だ。遺体として焼却処理するんだ。"
"しかし…"
 吉川はなおも食い下がろうとしたが、将校はうるさそうに手を振って背を向ける。あきらめかけた吉川の目に、負傷者
を介抱するボランティア隊員たちの姿が映った。
"ちょっと、待ってください"
 将校の前に回り込んで、吉川が声をあげる。
"私の部下たちは、軍人ではなく、軍属です。捕虜の救護にあたらせてください"
"だから、遺体の処理をしてもらおうということだ"
 苛立たしげに吐き捨てる将校に、吉川が怒りの表情でぶつけた。
"これは捕虜の虐殺ではありませんか。国際法違反のはずです。私の部下に、そんな事はさせられません"
「おい、何だか揉めてるみたいだよ」
 遠山がそう言って、心配そうな視線を向ける。激しく口論する吉川と将校を、駆けつけたアルメイアのMPが取り囲
む。
 富田たちが行こうとすると、慌てて、近くにいた防衛隊員がやってきた。
「後のことは、正規部隊に任せて、君たちはもう帰りなさい」
 そう言われた男子たちは、釈然としない思いを抱えたまま、基地に帰還した。

(深追いしすぎたか…)
 サブリーンは心の中で舌打ちをした。周りの敵兵の姿が徐々に増えている。シモンズを倒し、捕らわれていた少女た
ちを解放した後、屋敷の外に逃げたウッドの姿を追うのに心を奪われ、仲間から孤立してしまったらしい。
"おい、こっちに一人いるぞ!"
 アルメイア兵の声がした。見張り部隊の兵士が彼女を指さし、五、六名の敵兵が駆けてくる。サブリーンは、とっさに
曲がり角を曲がって、路地の奥に逃げ込んだ。
 裏路地では、土地鑑のある彼女の方が圧倒的に有利だ。曲がりくねった道を通って、なんとかアルメイア兵の追跡を
躱したサブリーンは、ホッと一息ついて路地から顔を出した。しかし、それが失敗だった。
"よう、じゃじゃ馬娘、やっと会えたな!"
 そこには、さっきまで彼女が追いかけていたはずのウッドが、隊員たちとともに拳銃を構えて立っていた。
"俺をデートに誘ってくれるつもりだったんだろ?"
 ウッドが口の端だけを歪めて、にんまり笑いながらサブリーンを見た。いつの間にか、追う者と追われる者の立場が
逆になっていたのだ。
 武器を捨てさせると、ウッドはサブリーンに近づいてきた。その目は残忍で野卑で、何とも言えない好色な光をたたえ
ていた。サブリーンの背中に悪寒が走る。
 ウッドは彼女の服の胸元を掴み、民族衣装を左右に引き裂いた。
"キャアッ…"
 ビリッ、ビリビリビリ…と、布が引き裂かれる音と共にサブリーンの悲鳴が響いた。
 両手で胸を隠すように蹲るサブリーンの丸まった背中が、恥辱でピンクに染まっていく。周りにいた兵士たちが期待を
込めた視線を投げかけている。
"さて、楽しませてもらうとしよう…"
 ボロボロになった服をまとったサブリーンは仰向けに地面に押し倒された。その上に下半身裸になったウッドの体が
のしかかる。
"いやっ!離してっ!"
 手足をバタつかせて暴れるサブリーンの民族衣装の裾をまくり上げ、ウッドは慣れた手つきで女陰を剥き出しにさせ
た。
 ウッドの怒張が割れ目にあてがわれる。サブリーンは、腰を揺すって逃れようとするが、それが、かえって男の欲情を
刺激した。
"じたばたしても無駄だ!"
 ウッドが体重をかけ、腰を前に突き出した。サブリーンの背骨の中を、股間から頭に貫くような激痛が走る。
"………!"
 ペニスを挿入されたことを感じたサブリーンは、目を大きく見開いて首を左右に振った。自分の身に起きていることが
信じられないという表情だった。実際、レジスタンスに加わってから、殺されることは覚悟していたが、自分が凌辱され
ることは、想像すらしていなかったのだ。
"だめっ、だめっ…、だめえぇぇ…"
 サブリーンが激しく首を振り、狂ったように叫んだ。肉杭が処女膜を突き破り、誰も踏み入れたことのない窮屈な径を
押し広げ、ぐいぐい体中に入ってくる。
"いや、いやっ、い、入れないで……"
 サブリーンが腰を右に左にと振って逃れようとするが、そんなことはお構い無しにウッドは怒張を奥まで突っ込んだ。
"…ううっ、う…いっ、…"
 ウッドが欲望のおもむくまま腰を振り立てる。サブリーンは苦痛に眉を歪ませた。
"痛いか?…ソラッ、ソラッ…"
 ウッドの腰の動きに合わせ、サブリーンの口から呻き声がでる。処女膜を破られ傷ついた膣口が、怒張で擦り上げら
れる度に痛みが走る。
 しかし、それ以上に、精神的なショックの方が大きかった。フサインは貞操観念の強い国である。そうした社会で、い
ままで守り続けた汚れを知らない身体に、ケダモノのように、優しさのかけらも無い怒張を出し入れされているのだ。
 しかも、相手は母と妹の仇である。
"うっ、うっ、うっ…"
 サブリーンの黒く大きな瞳が潤み、嗚咽が込み上げてくる。その様子がウッドの嗜虐心を一層かりたてた。
"気持ちいいぜ!あばずれのオ××コは…、ハハハ…"
 ウッドは腰を振り、怒張を抜き差ししながら、少女を嬲るような笑い声をあげた。

 翌日になっても吉川は帰らず、横木ボランティア部隊は別の隊員の指示で出動することになった。出動先は首都郊外
の街である。昨夜のテロの首謀者たちが隠れており、そこに掃討作戦をかけるということだった。
「おい、あれがテロの首謀者か?」
 武器の運搬作業をしながら、立花が富田に尋ねた。街に入ったアルメイア軍が連行してきたのは、後ろ手に縛られ、
怯える老人や女性、子どもばかりである。
「どういうことだ。大人の男がほとんどいないぞ」
 義足に杖という痛々しい姿で従軍している西崎が言った。
「見ろよ、あれ!」
 立花が「信じられない」といった表情で指さした。数人だけいる成人男性の中に、服装こそフサインの民族衣装だが、
明らかに日本人が混じっている。
「吉川さんじゃないか?」
 遠山が驚きの声をあげた。吉川を含むフサイン人たちが一列に並び、アルメイア兵に連れて行かれた。近くの防衛
隊員に聞くと、彼らが今回のテロの首謀者だと言う。
「横木ボランティア隊、集合!」
 夕暮れになって、上官役の隊員の声が響いた。
「テロ首謀者たちの軍事裁判がさきほど終了し、全員、銃殺刑となった。」
 男子の顔に驚きの表情が浮かぶ。駐留地が襲撃された報復であることは、明らかだった。そして、続く隊員の言葉が
彼らに衝撃をもたらした。
「その執行は、君たちに命ぜられた」
 わが同盟国にも、応分のリスクを担ってもらおうではないか…、そんなアルメイア司令部の議論を受けて、処刑執行
が防衛隊に任された。事態が明るみに出た場合の、国際世論を考慮してのことだった。
 そして、正規隊員ではなく横木ボランティア部隊にその役割が回ってきたのは、万が一の場合に、言い逃れができる
と首脳部が考えたためであった。「愛国心教育」を試す教育的効果を狙うという「大義名分」も持ち出された。
「処刑は、明朝8時に執行される」
 そう言い放つと、隊員はさっさと、正規部隊の営舎に戻っていった。

「みなさーん、ホームルームの時間ですよー」
 その日の夜遅く、富田がおどけた調子で声をかけた。思い思いに就寝前の時間をつぶしていた男子たちが彼の周り
に集まってくる。
「みんな、状況はわかってるよな…」
 表情を改めた富田が男子たちの顔を見回した。
「吉川さんは、俺たちのこと部下だって、よく言ってたよな」
 立花が言うと、遠山が応えた。
「部下の面倒を見るのは当然だって…ね」
 坂巻のもとでは、正規隊員でない彼らは、使うだけ使って捨てられる存在だった。
 彼らに出された食料は、何が入っているのか、食べると腹を壊すのが日常茶飯事だった。それでも腹に詰め込まな
ければ空腹で動けず死ぬ。みんな死にたくない一心で、喉に押し込んだ。
 寝泊まりする場所も、正規隊員が宿舎を確保する中で、夜は氷点下、昼間は灼熱地獄のもと、砂嵐とゲリラの襲撃に
脅えながら野宿したことが度々あった。
 しかし、吉川は違った。ボランティア部隊の彼らをむしろ保護する対象と考え、食事も宿舎も正規隊員以上にきちんと
確保してくれた。
 そして、何より、怪我をしたまま戦場へ連れ出されることがなくなった。それまでは、多少の怪我では負傷扱いされ
ず、治療も無しで次の作戦に狩り出され、そのまま帰ってこない男子も多かったのだ。
 吉川の指揮下に入ってから、最前線に送られたにもかかわらず、男子は1人も欠けていない。
「一応、聞いておきますね」
 富田が学園祭の出し物でも決めるかのように、軽い口調で言った。
「まさか吉川さんを助けるのに、今更、理由を聞きたいって奴、いないよな?」
 富田の目は真剣だった。男子たちの目にも一様に決意の色が浮かんでいる。吉川を助けることは、男子の中ではす
でに議論以前の問題だった。
「吉川さんだけじゃないよ…」
 そう言ったのは遠山だった。
「あの捕まったフサイン人たち、テロ首謀者に見えたかい?」
「よし、決まりだ!」
 富田がそう言って、話をまとめた。
「しかし、こうしてホームルームやってると、森脇さんのことを思い出すなぁ…」
 2年B組で亜弓とクラスメートだった立花がポツリと言った。
「委員長と言えば、森脇さんだもんな。彼女…、それに他の女子も…どうしてるんだろう」
 そう言う立花の脳裏には琴美が浮かんでいた。DVDで見せられたチアリーダーのユニフォームを着てパイずりする
姿が浮かんでくるのを必死で打ち消し、野球部の応援に来てくれた時の姿を思い浮かべる。笑顔こそが彼女には似合
っている。
 男子たちはそれぞれに、女子たちのことを考えていた。
 ホームルームの雰囲気が生理的に苦手で、少し離れた所に座っていた西崎は、麻衣のことを思い出していた。
「コウ兄…」
 麻衣は彼のことをそう呼んだ。彼女とは家が隣同士で、小さい頃から兄妹のように一緒に育った。内気な麻衣がいじ
められた時は、西崎が必ず助けに行った。しかし今、最大の苦難の中にある彼女を助けに行けない。身を焦がされる
ような思いを感じながら、西崎は妹以上の気持ちを彼女に抱いている自分に気がついた。

 宿舎に戻ったウッド隊の面々は、仲間内でパーティを再開していた。
 全裸にされ、床の上でぐったりとしているのはサブリーンだ。気を失ってはいなかったが放心状態で、抵抗する気力な
ど残っていなかった。瑞々しい肌が男たちの激しい愛撫で紅潮し、汗で一面ぬめ光っている。凌辱の限りを尽くされ、も
う何度犯されたか記憶にないほどだ。男たちが放った精臭が体中から漂ってくる。
 男たちの方は、ひとまずは満足した様子で、酒を酌み交わしている。
 もともと薄情な連中ではあるが、とりわけ死んだのが、彼らでさえ持て余し気味だったシモンズと、ウッドたちとソリが
合わなかったカーターだったこともあり、誰一人として悲しんでいる者はいなかった。
"この娘、これからどうする?テロリストとして、占領部に引き渡すのか?"
 隊の実質的なドン、副隊長のディック・マイズナーがウッドに尋ねる。
"それは、惜しい気がするな。麻衣に逃げられちまったし、新しいペットにでもするかな"
 ウッドが答えると、皮肉屋のドナルド・ゲーリーがサブリーンに視線をやって、言った。
"こんな可愛い顔してるが、仲間から『女豹』なんて二つ名で呼ばれてる猛獣だぜ。さっきなんか、大事な所をかみ切ら
れそうになっちまった。躾けるのは、結構ホネなんじゃないか?"
 隊員たちから下卑た笑いが巻き起こる。
"それより、俺にいい考えがあるんだ"
 マイズナーの言葉に、他の面々の注目が集まる。
"今回の件で考えたんだが、俺たちもそろそろ本国に帰ってからの処遇ってやつを考えておいた方がいいんじゃない
か?"
"泣く子も黙るマイズナー軍曹が、退役後の心配かい?"
 ゲーリーが冷やかすように言うのを、マイズナーが軽くいなした。
"面白おかしく世の中を渡っていくには、必要なことさ"
"で?どういう考えだ?"
 ウッドが尋ねた。
"若くて、せっかくこれだけの別品だ。絶好の使い道がある"
"じらすなよ!"
 ゲーリーが急かすのを気にもせず、マイズナーは仲間の顔を一通り見渡し、もったいぶった口調で言った。
"我らが魔王、クレイジー・アンディへの貢ぎ物さ!"

 夜が明けて、銃殺刑執行の朝がやってきた。
 アルメイア軍からは、吉川と喧嘩をした例の将校が2人の護衛をつけてやってきた。すでにアルメイアの部隊は街か
ら撤退しており、彼が防衛隊員数名とともに、処刑の執行を見届ける役割だ。
「…全部で8人か…」
「うん、まあ…、いけるかな…」
 立花が小声で囁き、富田が頷く。
 モスクの鐘が鳴り、アルメイアと日本の国旗が掲げられた席に将校が腰掛けた。いよいよ執行の時間である。
「これより、テロ首謀者たちの処刑を執行する」
 吉川に代わってボランティア隊の上官になった隊員が、英語と日本語で宣言した。富田、立花を含む十数名が銃を持
って、壁際に並んだフサイン人たちに向かって立った。人々の間からすすり泣きと祈りの声が聞こえる。
「構え!」
 富田たちが並んで、銃を構える。
「撃て!」
 合図とともに、男子たちが一斉に銃口をアルメイア将校たちの席に向けた。同時に、警備に当たっていた遠山たちが
フサインの人々に駆け寄り、次々に拘束を解いていく。
 まさかの事態に、呆然とする正規隊員の所に走り、プロらしい手際で武装解除したのは、真っ先に拘束を解かれた吉
川だった。彼の目にも、もう迷いはなかった。吉川の後にフサインの人々が続き、アルメイア兵や防衛隊員を取り囲
む。
"何をしている。反逆だ!取り押さえろ!"
 そう叫んだアルメイア将校は、喉にヒヤリとした感触を覚えた。いつの間にか西崎が近づき、ナイフを首にあててい
た。
「ナイフを使わせたら、俺、ちょっとうるさいぜ…」
 その目に、喧嘩三昧の日々を送っていた不良少年のアブナイ光が戻っていた。
「オイオイ、更生したんじゃなかったのか?」
 兵士たちが全員武装解除されたのを確認した富田が、興奮を隠して軽口をたたく。
「お前こそ…、優等生のくせに、やっちまったな」
 西崎がそう言ってニヤリと笑う。
 アルメイア兵と防衛隊員の油断、それに乗じた素早い行動、男子たちの団結力、吉川とフサイン人たちの動き…、そ
の全ての条件が絶妙に組み合わさったからこそ成功した奇跡だった。
「本当にお前たちときたら…、こんなことやっちまいやがって…」
 ため息混じりにそう言った吉川の表情は、しかし、どこか晴れ晴れとしていた。
「やっちまったな」
「ああ、やっちまった!」
 男子たちのそんな声があちこちで飛び交い、「やっちまった、やっちまった」の大合唱となった。命が助かったことを悟
ったフサインの人々も、意味がわからないまま、うれしそうに「やっちまった」を合唱する。
 一人のフサイン少女が立花に近づき、その頬にキスをした。照れて頭を掻く立花の目に、並んで掲げられたアルメイ
アと日本の国旗が映る。
「そうだ!」
 立花はナップザックの奥を探って、濃紺の布を取り出すと、国旗を掲げたポールに近づいた。
 何をするのだろうと、みんなが見守る中で、立花はポールからアルメイア国旗を外し、濃紺の布を括り付けた。
「おう、これは!」
「うん、いいんじゃないか!」
 男子たちが、久しぶりに明るい笑顔を見せた。それは、横木市立星園高等学校の校旗だった。中には肩を組んで、
校歌を口ずさむ者もいる。
「本当は、甲子園に持って行きたかったんだけどな…」
 立花が笑いながら、まぶしそうに見つめる。
 青い空の下、熱く乾いた風に吹かれて、星園の旗が翩翻と翻る。遠く離れた砂漠の国で。



 
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