国防省附属「星園・癒しの館」第2部
 
第5章 明日へ…  6

 坂巻の乱射事件によって、体育科編入試験は中断され、急遽、館の教師たちが館長室に集められた。
「ここまでの種目で、編入試験の結果は出せると思います。ただ、イベントとして中途半端になってしまうのが残念です
…」
 石堂が悔しそうな声を出した。
「犯人が逃走中であることを考えると、中止もやむを得ないでしょう」
 そう言った事務長の南原は、ライバル視する石堂がアピールの機会を失ったことを内心喜んでいるように見える。
「せっかくの、館のアピールの機会でしたのに…」
 あくまで「館のアピール」であることを強調して、南原を牽制する石堂を尻目に、南原が検討すべき事項を伝える。
「現場検証のため、構内の施設から速やかに人を退出させるよう、警察と憲兵隊から指示がありました」
 事務方としての有能さを示すことが自らのポイントだとわきまえた男は、最大の懸案事項を会議に提起する。
「集まった観客たちをどうするか、ですが…」
「帰ってもらうしかなかろう」
「それでは、収まりがつかないかもしれませんよ」
「地域住民などはそれでも構わんが、防衛隊関係者はそうもいくまい」
「みんな、期待と股間を目いっぱい膨らませてますからなぁ、帰れと言っても納得せんでしょう」
 下品な言葉遣いながら、問題の本質をズバリ指摘するのは平沼だ。
「これで、かえって館の評判を落とすことになっては、まずいですな」
「客たちの欲求を満足させることが肝心でしょう」
 幹部たちが口々に意見を述べるのを静かに聴いていた諸藤が、にわかに口を開いた。
「女生徒たちを寮に帰らせる」
 今やカリスマと言ってよい権威を身につけた館長が話し始めると、一同は水を打ったように静まり返る。
「そのかわり、今日は終日、寮を解放し、構内に残った訪問客を無条件で迎え入れる」
 諸藤は、特に慌てる様子もなく、部下たちに淡々と告げた。

 由香をさらった坂巻が逃げ込んだのは、館のすぐ近くにある貴乙女神社の社殿の中だった。こうした宗教施設には警
察や憲兵隊の捜索が及びにくいことを、坂巻は熟知していたのだ。
 この神社はもともと、ごく普通の八幡神社だったのだが、館が設置されてから、祭神が「貴乙女姫尊」という他では聞
いたことのない神様に変わった。
 やがて「貴乙女神社にお詣りすれば、どんなに身体を汚されても、心は処女のままでいられる」という噂が慰安嬢たち
の中に誰言うとなく広がり、自由時間にみんながよくお詣りするようになった。
「宗教の利用は、やりたくないことをやらせる時に、為政者が使う常套手段だわ」
 亜弓と仲の良い由香は、彼女が腹立たしそうに言うのをよく聞かされた。「噂」はどうやら館の管理者が流したものら
しい。それでも、亜弓は、神社に切ない願いをかける女の子たちに対しては、一言も批判めいたことは言わなかった。
 社殿に入るなり、坂巻はその場に由香を押し倒し、もがいているユニフォームの胸を捲り上げた。むき出しになった
胸に覆い被さり、左右の乳首をかわるがわるしゃぶりながら、両手で荒々しく揉みにじる。
「やめて、やめてっ!」
 由香が必死で抵抗した。暴発して事件を引き起こした坂巻とは、もはや慰安嬢と客の関係ではない。従う義務はない
のだ。しかし、兵役を終えた男の腕力に、少女の力はとても敵わなかった。
「あぁぁ…いやぁ…」
 由香は喘ぎながら激しく首を振る。真っ白な隆起がたちまち指の跡で赤くなり、桜色した乳暈は唾液でベトベトに汚さ
れていく。由香は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「へへっ…、感じるだろ?」
 坂巻が独りよがりに囁き、ランニングショーツが脱がされた。当然、下着はつけていない。
「や、やめ…」
 坂巻は由香の両脚を全開にし、なおももがく太腿を肘で押さえつけた。薄桃色の割れ目に伸ばした坂巻の指が、由
香の体液でぬらりと滑る。
「…んッ」
 ピクッと体を震わせ、由香の顔が切なそうにゆがんだ。
「こんなに濡れてるじゃないか。待ってたんだろ?俺のチ×ポを……」
 坂巻が半ばうれしそうに、半ば侮蔑を含んだ口調でそう言った。館での生活は、由香の身体をすっかり淫らなものに
変えてしまった。自分の意思とは関係なく、性的な刺激に敏感に反応し、すぐに男を迎え入れる準備を整える。
 坂巻が股間に顔を埋め、肉の合わせ目を舐め上げた。
「いやあっ」
 由香はグイッと腰を引いて逃げようとした。坂巻の舌がそれを追いかけ、追いついたかと思うと、ナメクジのように陰
部を這い回る。
「うっ…あ、ううう」
 由香は思わず声を漏らし、頭を仰け反らせた。肉襞がヒクヒクし、包皮の中でクリトリスがビンビンに勃起してくる。汚
らわしい愛撫で感じる自分の身体が、由香は悔しくてならなかった。
 坂巻が、そそり立つ肉棒を秘孔に押し当てた。
「…うっ…」
 ぐっと腰を押し出し、濡れた花園を貫いた。十分に濡れた柔肉が、肉茎を熱く包み込んでくる。坂巻はその身体を強く
抱きしめ、肌と肌をこれ以上なく密着させて、奥へ奥へと進んでいった。
「うっ…くぅっ…たまらん」
 由香の濡れた肉襞が、坂巻のモノを柔らかく、温かく包み込む。久しぶりの由香との性交は鳥肌が立つほどの新鮮
で、これ以上ない程の高揚感をもたらした。坂巻は大声で笑い出したい気分だった。
「うっ…くっ…」
 由香は、押し寄せてくる刺激に耐えていた。神殿の中はひんやりしていたが、由香の体は汗ばみ、ほんのりと桜色に
染まっている。
「あぁっ!」
 坂巻がずんっと子宮底を突き上げると、由香はひときわ甲高い悲鳴をあげ、ビクンビクンと身体を震わせた。
「お前も気持ちよさそうだな、由香…」
 満足げに言いながら坂巻は貪るように腰をしゃくった。
「ああ、あうっ、あ、あぁん……」
 眉間に皺を寄せ、唇を真一文字に固く閉じようとしても、直ぐに息が苦しくなって開いてしまい、男を興奮させる嬌声を
あげてしまう。
(こんなヤツに抱かれて、感じたくなんてない…!)
 由香は心の中で叫び、ポロポロと涙をこぼした。それでも、身体の反応は止められない。股間をぶつけ合い、粘膜と
粘膜を擦り合わせる度に、喘ぎ声が一足飛びに高まり、思わず坂巻にしがみつく。
「いいぞっ、由香…気持いいぞ…」
「あっ…あっ、あぁぁ…」
 お互いが快感を求めて夢中で腰を振り、やがてその動きが一体化していった。
「ああーん、ああーんっ…」
 坂巻はむさぼるように由香と唇を重ね、激しく腰を揺する。
「い、いくぅ…、ああぁ…」
 由香がよがり泣いて昇りつめた。同時に坂巻も、快楽の頂上に達した。
「ああ、出してやる、ほらっ、いっぱい出してやるよ」
 由香の中で坂巻のものがビクンビクンと脈打った。その都度、男が噴射する粘液で膣内がドロドロに汚されていく。
(神様は、この汚れも、きれいにしてくれるのかな…)
 蝋燭が灯る祭壇を見つめ、由香はふとそう思った。

「えっ?」
「これって…」
 真澄とミキは、思わず顔を見合わせた。
 寮の前にずらりと人が並んでいる。
 寮のロビーも人であふれかえり、まるで通勤ラッシュの駅のようだ。ムッとする人いきれで、なんとなく息苦しい。
「まさか…この人たちが…」
「みんな…」
「私たちの部屋に来るの…」
 一晩でどのぐらいの男の相手をさせられるのかを考えると、二人は気が遠くなりそうだった。
「おおっ!」
 二人を見つけた男たちが感動の声をあげる。寮に帰ってくる娘は、どの子もどの子もレベルが高く、そのままテレビに
出ても人気アイドルで通用しそうだ。
「この子たちも可愛いなぁ…」
「ヤバイ、ホントに興奮してきた!」
 真澄とミキを舐めるように見ながら、男たちが声をあげる。見ているだけで幸せを感じる程の少女たちと、思いのまま
にセックスできるのだと思うと、誰もが驚きと期待を感じずにはいられなかった。
「310号室です。どうぞ…」
 受付に座った亜弓が、整理券を示す男たちに、割り当てられた部屋の番号を告げる。ひっきりなしに訪れる男たちに
鍵を渡しながら、亜弓の胸が痛んだ。この男たちがみんな、女子の部屋を訪れ、その身体を凌辱するのだ。
(ごめんね、みんな…)
 心の中で謝りながら、亜弓は次々に男たちを案内していく。
 いかにも学生寮といった雰囲気の廊下、階段を登り、目指す部屋にたどりついた男は、高鳴る胸を抑えて鍵を開け
た。チャイムもノックも必要はない。そこにいる少女たちは、いつでも男を部屋に迎え入れる。
 ガチャリというドアの音に、中にいた少女が振り返る。
 男は思わず息を飲んだ。今日はランダムに慰安相手が割り振られているらしいが、自分は「大当り」だったと悟った。
(これは…、天使と言うしかない…)
 サラサラの黒髪、白い肌。整った顔立ちは、端正というよりは甘い感じで、幼さの残る表情が切ないほどに愛らしい。
上品で、繊細で、汚れを知らぬ清楚な美しさだ。そんな美少女がセーラーカラーのブラウスにミニスカートという制服の
ままで、彼が来るのを待っていた。
(この子、知ってるぞ!)
 知っているどころではない。この館を代表すると言っても良い美少女、安藤茉莉だ。
「こんばんは、お待ちしていました」
 はにかんだような笑顔を浮かべて、茉莉が挨拶をし、男を部屋の中に招き入れた。甘い香りがする、明るい色彩に満
ちた、十代の女の子の部屋そのものだ。
「来てくださって、ありがとうございます…」
 茉莉が男の方を向いて、にっこり微笑んだ。
 可愛い顔が近づいてきて、男の唇に唇を重ねる。男は夢中で彼女の唇を吸った。
 『訪問客が躊躇いを見せている時には、自分の方から積極的に奉仕すること』…、慰安のマニュアルに従って、茉莉
は花びらのような唇を開き、舌と舌をからませた。館の授業で、濃厚なキスは、男の欲望を解き放つとともに、自らの感
情に蓋をして肉人形になる儀式だと教えられる。しかし、茉莉自身は成功したと思うことはなかった。好きでもない男と
のセックスは、自分にどう言い聞かせても、常に不快な拷問でしかない。
 それでも茉莉は従順に従う。館で起きるあらゆる出来事の生証人になることが、今の彼女にできることだから…。
「むぐっ、むうぅ…」
 男が狂おしくキスを求めてきた。唇を吸い、口腔の中をなめ回し、唾液をためて流し込んでくる。男の指がブラウスの
胸を揉みしだく。男の躊躇を溶かす効果は、十二分にあったらしい。茉莉は甘い鼻声を漏らして、男の唾液をゴクリと
飲み込んだ。
 やっと唇を離した時、男の表情が完全に変わっていた。
(せっかくだ、たっぷりサービスしてもらおう)
 躊躇を捨て去った男の顔がそう言っていた。

「ねえ、あなたたちは、こっちを手伝って」
 ロビーの奥の方から真澄とミキを呼ぶ声が聞こえた。三年生の樫村美里だ。
 見ると、数人の女生徒がロビーで待つ男たちの間に混じり、ソファに腰掛ける男たちのペニスを一心にしゃぶってい
た。
「これって…」
 初めて見る光景にミキが戸惑いの声をあげた。
「ウェルカム・サービスよ。団体客があったときは、他のサービスを待っているお客さんに、こうしてロビーでフェラチオし
て差し上げるの…」
 今夜は自室での慰安だけでなく、大浴室でソープ・プレイをする者、食堂で飲食物を提供してセクシャルなサービスを
する者など、女生徒たちはフル出動で手分けして、訪問客たちの性欲を様々な形で満たしていくことになった。それは、
まるでエロチックなテーマパークである。
「はい、これ…」
 美里が二人にうがい薬を渡す。真澄が一瞬、嫌そうな表情を浮かべた。フェラチオは彼女が最も苦手とする性戯だ。
男のペニスを口に入れるのは不潔だし、屈辱的である。
「ダメよ、そんな顔しちゃ…」
 美里が真澄をたしなめる
「私たちががんばれば、みんなの負担を少しでも減らせられるかもしれないでしょ…」
 穏やかで優しい美里は、1年生たちにとっては「お母さん」のような存在である。彼女に諭された二人は頷いて、「準
備」のために洗面所に向かった。
「うぐっ…、うぐっ…」
 男子トイレの横を通った時、中から苦しげな呻き声が聞こえてきた。二人が恐る恐る覗くと、宮本比奈が全裸で小便
器の隣に拘束されていた。男がまるで小便をするかのように陰茎を取り出し、勃起したそれを比奈の喉の奥深くまで突
っ込んでいた。しかも、数人の男が順番待ちしている。
「ぐぐっ…」
 嘔吐しそうになった比奈が目に涙をいっぱいため、全身を震わせる。
「あら、あなたたち、こっちを手伝ってくれるの?」
 自らは凌辱を受けず、男たちの整列などのあたっているのは、言わずと知れた浜本明日菜であった。
「同じ三年生でも、樫村さんとは大違いね…」
 明日菜を睨みつけて洗面所に向かう真澄に、ミキが憤慨した様子で呟いた。
「よろしくお願いします、失礼します…」
 うがいを終えて、男たちの間に入った真澄は、その場に跪き、男のファスナーを静かに引き下した。弾かれたように、
肉棒がズボンから飛び出して、顔面に迫る。
 洗っていない陰茎から汗と尿の匂いが立ち上る。思わず顔をしかめそうになったが、ぐっとこらえることができたの
は、館での訓練の成果だった。
 血管を浮きあがらせた赤黒い怒張は、先端からすでに先走りの液を垂らしていた。こみ上げる不潔感は抑えようがな
く、思わず唇が震える。
(「消毒だと思って、我慢しましょう!」)
 以前、亜弓が言っていた言葉を思い出しながら、真澄は肉棒の先端を口に含んで、舌先で亀頭を上手に舐め回す。
 さっき美里から渡されたのは、殺菌効果のあるうがい薬である。感染症対策として、慰安嬢たちは、こうして陰茎の
隅々に舌を這わせながら、男性器を消毒することにしたのだ。自分たちの身体を守るために実際的であるとともに、こ
う考えることで、汚れた陰茎を口にくわえる屈辱感が、ずいぶんマシになった。
「ふふふ、見かけによらずエッチな娘だね…」
 熱心に肉棒をしゃぶる真澄の仕草を見て、男が卑猥な笑みを浮かべた。

 天使のごとく夢幻的に美しい白い裸身。そこに男の浅黒い肉体が絡みつく。茉莉はギュッと目をつぶった。その瞬
間、いつも彼女は予防注射を思い出す。
 男がゆっくり腰を送り出す。亀頭が茉莉の中に潜り込み、ついには肉棒全てが、彼女の中に埋まっていく。
「ううっ…、ううう…」
 押し開かれる感触に、茉莉が呻き声を漏らした。『慰安嬢の性器は重要な国有財産であり、たとえ本人であっても、
自由にすることはできない』…、館の「教師」たちがしょっ中、口にするその言葉を、彼女たちは毎日、自らの身体で確
認させられる。
「ううっ…」
 男の方も呻き声をあげる。深く刺し貫くにつれ、幾重にも折り畳まれた肉襞が複雑に蠢いて、えもいわれぬ快感をも
たらすのだ。それはまぎれもなく名器だった。
(ああ、これが安藤茉莉のオ××コか、すごい、最高に気持ちいい!)
 熱い秘肉がペニスに絡みつく感触を楽しみながら、男は夢中で腰を振った。
 グチュッ、グチュッ、グチュッ…、濡れた肉壷をかき回す音が響く。
「あ、あっ、あぁぁ…」
 茉莉の腰がガクガクと震えた。男に犯される嫌悪感を、徐々に快感が上回り、やがて頭の中が真っ白になっていく。
 『ハズさないこと』が娼婦の心得だと言われる、何人ものお客を相手に、本当に感じていては身が持たないからだ。し
かし、星園の慰安嬢はそういう教育はされない。たとえ何十人とセックスしても、常に性感にむせび泣き、男とともに絶
頂に達する。彼女たちは身体を売っているのではなく、愛国者に捧げた身体に嘘は許されないからだ。館での生活を
通して、彼女たちの身体は、それにふさわしく、全身の性感帯を鋭敏に磨きあげられ、わずかな愛撫で官能がとろける
よう仕込まれる。
「あっ…あっ、あン…ああン」
 茉莉が部屋中に響き渡る喘ぎ声を上げ始めた。肉棒でひと突きされるごとに、腰全体が快美に痺れてしまうのだっ
た。
「うっ、ううっ…」
「ああン、あっ、ああん、あん」
 男の呻き声と、茉莉の喘ぎ声が絡み合う。埋め込まれた肉根を締め付けるように、膣が蠕動する。さらなる快感を得
ようと、男の腰が茉莉の股間を突き上げる。
 男の顔面が真っ赤になり、腰のピッチを上げる。甘美な膣肉でキリキリ絞りあげられているうえに、腰の動きで肉茎を
濃厚にしごかれ、男の我慢がとうとう限界に達した。
「ああ、茉莉っ…」
 そう叫ぶと、次の瞬間、男は茉莉の胎内に精液をまき散らし、これでもかとばかりに長い発作を繰り返した。
「また、来てくださいね…」
 そう言うと、茉莉は男にキスをした。
 男が上機嫌で部屋を出て行く。ドアが閉まった瞬間、その場にへたり込みそうになるのをこらえて、茉莉はシャワー室
に向かった。夜はまだまだ長い。すぐに次の男がやってくる。
 どんなに辛くても、茉莉は明日を信じていた。この施設が消滅したことを、恩師の墓前で報告することができる「明日」
を…。

 日が暮れてから、坂巻は由香を連れて神社を後にした。
 横木特別区内警察と憲兵隊は坂巻の捜索に全力をあげていた。しかし、彼の悪運の強さだろうか、坂巻は逮捕され
ることなく、夜が更けていく。
「ここを突破すれば、特別区から出られるぞ」
 坂巻がそう呟いた。横木が基地特区に指定されるのにあわせて、壁やフェンスが作られ、特別区に出入りすることが
できるのは、数カ所の道路に限定されていた。
 警備所が作られ、ゲートが設置されているこの道路は、そうした出入り口の一つだった。
「いいか、ここで待ってろ、動くんじゃないぞ」
 由香にそう言い残すと、坂巻は警備所に突入した。警備兵の怒号と銃を乱射する音が聞こえる。
(今だわ…)
 この機会を逃すまいと、由香が駆け出した。しかし、すぐに坂巻が気づいて、追いかけてくる。
「こら、逃げるなっ!」
 逃げ回っているうちに、さっき坂巻が襲撃した警備所に入ってしまい、由香は息を飲んだ。メチャクチャに破壊された
設備の中で、数人の警備兵が血にまみれて倒れている。
「キャーッ!」
 由香が力いっぱい叫んだ。思わず足がすくんで、立ち止まる。
「捕まえたぞ」
 いつの間にかすぐ近くにいた坂巻が、由香の腕を掴んだ。由香は腰がぬけたように、ペタンと尻もちをついた。
「裏切り者には懲罰を与えないとな…」
 坂巻は仮面のような無表情でそう言うと、手にした銃を置いて由香の両膝を掴み、いきなり裂くように脚を開かせた。
ポキッと股関節が鳴る音が聞こえた。
 由香のランニングショーツを剥ぎ取り、自らも勃起を取り出すと、坂巻は濡れていない花弁に亀肉を押しつけ、グイっ
と送り込んだ。
「ぐうっ」
 由香の喉奥から苦痛の呻き声が漏れる。坂巻は肉棒を容赦なく突き立て、クイックイッとこねまわす。
「痛いっ、やめて…、やめてぇ…」
 由香の声が泣き声になっている。そんなことにはおかまいなしで、坂巻は乳房を鷲掴みにしながら、激しくピストン運
動する。
「二度と、逃げられないようにしてやるよ…」
 乳房を弄んでいた坂巻の手が、ゆっくりと上にあがり、由香の首にかかる。
「うぐっ…」
 じわじわと由香の首が絞まっていく。彼女の手が坂巻の手首を掴んで、必死ではがそうとする。
「ゴホッ…、ゴホッ!」



 手の力が緩んで、急に気管に空気が流れ込んだ。思い切り咳き込んだ由香の耳元で坂巻が囁く。
「フサインでは、たまにこうやって、女を犯りながら首を締めてやったんだ」
 乳房が両手で、千切れんばかりに激しく揉みしだかれる。
「それでさ…、最後までいっちまったこともあるんだよ…」
 ニタリと笑った坂巻の目は、狂気に輝いていた。
「やめてっ!助けて!だれかっ!」
 由香が恐怖の叫びをあげると同時に、坂巻がピストン運動を再開した。
 グチュッ、グチュッ、グチュッ…。
 防衛本能か、慰安嬢としての調教の成果か、膣内が愛液で潤み始めた。
「なんだ?こんな状況でも、気持ちよくなってやがるのか?」
 坂巻がニヤッと笑い、首にかかった手に再び力がこもる。男はいまや、完全に常軌を逸していた。
「ぐっ、ぐうぅ…、ぐぐぐ…」
 必死でもがいているうちに気が遠くなり、全身がブルブル痙攣してくる。その感触を楽しむかのように坂巻の表情が緩
み、手にいっそう力がこもる。
(…もうダメ…)
 遠ざかる意識の中でそう思った瞬間、近くで銃声が轟いた。同時に坂巻の身体が大きくのけぞる。続けてもう一発。
 坂巻の手が緩んだ。激しく咳き込んだあと、由香の呼吸がスッと楽になる。
 まるでスローモーションのように、坂巻が崩れ落ち、坂巻の顔があった空間に、別の顔が見えた。
「那須君…」
 信彦がふらふらと近づいて来た。その手には、坂巻の銃が握られていた。
「…柴崎さん、大丈夫か?」
「うん…」
 そう答えると、由香は坂巻の身体を押し退けるようにして、立ち上がった。
「殺しちゃったよ…」
 喘ぐように呟いた信彦は、さすがに青い顔をしていた。しかし、倒れた坂巻を見る目に同情の色はなかった。
「ハデにやったもんだな…」
 少し落ち着きを取り戻した信彦は、周りを見渡した。坂巻は警備兵を全員殺害し、監視カメラも通信機械も破壊し尽く
していた。
 一緒に周囲を見渡していた由香の脳裏に、パッと閃くものがあった。
「那須君、私…、逃げるわ」
「えっ?」
「星園から脱走するの」
「そんな…ムリだよ」
「見て、ここには、私とあなたしかいない。あなたが手伝ってくれれば、逃げられるかもしれない」
「それは、そうだけど…」
 警察や憲兵隊を信用していない諸藤は、襲撃事件への対応を滝川に依頼した。信彦も含めて、滝川は手持ちの部
下全員を投入している。信彦がここに現れたのもそのためだが、やはり手勢が少ないせいか、滝川がつけた那須の監
視役も今は姿を消していた。
 由香が、躊躇う信彦の目を見つめて言った。
「ミキちゃんから聞いてるわ。あなたが捜していた岩田先生の協力者は、私。それでいいわね」
「柴崎さん…」
「…だから、残ったみんなをお願いね」
「ああ…わかった」
 覚悟を決めた信彦が頷いた。
「さあ、もう行くわ」
「逃げきれるのか?」
「わからない…、でも、がんばってみるわ」
 そう答えて少し笑った由香は、これまでに信彦が見た中で、もっとも魅力的な表情をしていた。

「おいおい、マジかよ…」
 柳原は、悪夢のような報告を受けて、思わず天を仰いだ。坂巻が「星園癒しの館」で銃を乱射し、慰安嬢の一人を連
れて逃走し、未だに捕まっていないと言う。
「貴殿のかつての上官だったそうだな。今後、いろいろと事情を聞かせてもらいたい」
 捜査にあたっている憲兵の言葉に、柳原はため息をついた。そして、憲兵の事情聴取が始まった。
「まず、奴が立ち寄りそうな所を教えてもらおう」

「間違いありません、柴崎由香が『協力者』でした」
 幾度目かの同じ質問に、信彦はきっぱりと答えた。その報告には、一点の揺るぎもない。
「そうか…」
 滝川は頷いた。
 信彦から報告を受けたとおり、音楽室の隠し部屋からは、由香が協力者だったことを示す証拠がいくつも見つかっ
た。
 やや腑に落ちないところがないわけではない。しかし、物証がある以上、とりあえず、それを結論とするしかなさそう
だ。
(それに、もう一人の娘は須崎がご執心だからな、…このままの方が面白いかもしれんな…)
 結論を出した滝川は、信彦の目を覗き込んだ。
「ご苦労だった、これからも頼むぞ」
 ねぎらいの言葉を口にする滝川の目は、けっして笑ってはいなかった。

 日が暮れた。
 隠れていたネットカフェを後にし、由香は夜の街に駆け出していく。
 信彦と二人で坂巻の死体を隠したために、まだ、彼が自分を連れて逃走していることになっているはずだ。追っ手の
捜索も、当面は的外れなものになるだろう。しかし、自分たちの稚拙な工作が、いつまでもバレずにいるとは思えない。
 すでに横木市を出ているが、今のうちに、できるだけ距離を稼いでおきたい。陸上部での日頃の練習が、ここで生き
てくる。
「さあ、行こう!」
 自分に向かってそう言うと、由香は走り始めた、明日へ…。

(第2部 完)



 
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