ヒミツの伝説
 
序章

 ワンアウト、ランナー二塁三塁。萬町高校が先制点を取る絶好のチャンスで、4番の向阪弘志に打順が回ってきた。
「いつもみたいに、かっ飛ばせ!」
 チームメイトが声援を送る。しかし、弘志はそれに応えず、無言で素振りをしてバッターボックスに立った。
 ピッチャーが投げる。外角へ外れる明らかなボール球だ。ところが、弘志は思いっきり踏み込んでバットを振ってしま
う。
 ボールはかろうじてバットに当たり、一塁方向へ転がったが、ファースト真っ正面でアウト。ランナーも走れない。
「くそっ!」
 悔しそうに言いながら、弘志がベンチへ下がった。

「おい、弘志。どうしたんだ、スランプみたいだな。」
 練習試合が終わって帰る途中、二人だけになったのを見計らって、監督の宮内が声をかけてきた。30歳前の若い監
督は、萬校野球部のOBである。
「ちょっと、タイミングが合わなくて…」
「ここ一月ほど、ずっとだな。」
「はい…、なんとかしようと思ってるんですけど…」
 そう言って口ごもる弘志。二人の間に沈黙が流れる。
「お前、好きな子はいるか?」
 宮内は、唐突にそう質問した。
「えっ?ええ、まあ…」
 いきなりの質問に驚きながらも、弘志は頷いた。笹野奈月の愛らしい笑顔が脳裏に浮かぶ。
 奈月と交際するようになったのは、ちょうど先月からだ。入学当初から、ミス萬校の呼び声も高い美少女で、2年生で
同じクラスになってからは、ずっと憧れの目で見ていた。そんな彼女からバレンタインデーのチョコレートをもらった時、
弘志は天にも上る気持ちだった。それがほぼ一月前のことである。
 宮内はしばらく躊躇った後、周囲に誰もいないことを確認して、弘志にこう尋ねた。
「お前、萬校野球部に伝わる伝説、聞いたことがあるか?」



 
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