逃亡
 
第2章−2

「まったく、対策本部の連中はいったい何をしてるんだ!」
 張り込み中のカーラジオで現場中継を聞きながら、野上のイライラはピークに達しようとしていた。
「おい、テレビはないのか。」
「あのねえ、野上さん、ここは車の中ですよ。」
 一緒に張り込みをしている警察官が諭すように言った。彼と野上が初めて会ったのは数日前だが、その口調には古く
からの友達のような様子が感じられる。警視庁の刑事でありながら、まったく偉そうなところがなく、オモテ・ウラのない
野上を地元の警察官たちは、すでに仲間として受け入れているようだ。
「最近は、携帯テレビとかなんとかあるだろう。」
「こんな田舎の警察がそんなもの持ってませんよ。」
 ちょうどその時、交代要員が来た。野上は一人でずっと張り込んでいるのだが、地元警察はローテーションを組んで
いるらしい。
 交代したのは学校を出たばかりの年齢の若い警察官だった。野上に目礼し、車の中に乗り込んでくると、持っていた
リュックの中からスナック菓子を取り出す。「おいおい、いきなり遠足気分か?」
 普段は、むしろ脱線して上司に叱られる野上だったが、イライラのせいで若い警官に軽くやつあたりをする。そのく
せ、菓子の袋にはちゃっかり手を伸ばしているから説得力がない。
 嫌味を言われても知らん顔で、若い警官はさらにリュックから銀色の四角い機械を取り出した。
「おい、それは?」
「携帯テレビですよ。僕の私物です。」
 当然のことのように、若い警官が答えた。
「いいぞ、早くつけろ、早く!」
 スイッチを入れると、小さな液晶画面に、まさにサービスエリアに入ろうとする白いセダンが映った。

   *

「こちらは埼玉県の高坂サービスエリアです。突き抜けるような秋晴れのもと、スカッとした青空とは裏腹に、サービスエ
リアの駐車場は異様な緊張感に包まれておりますっ!」
 FNCの中継車の前で、ひときわ大きな声が響いた。
「FNCニュース速報、ここからは、新山慎吾の中継でお送りします。」
 新山はもともとFNCの局アナだったが、スポーツ中継などを主に担当し、オーバーな表現と絶叫型のアナウンスで人
気を集めて数年前にフリーになり、現在は各局のバラエティ番組の司会を数本持っている。
 新山が見ている画面に、サービスエリアに入ろうとする白いセダンが映った。
「ただ今、冷酷非情なテロリスト緋村一輝と、その美しき虜囚早瀬瑞紀警部補を乗せた車が、ゆっくりと、ゆっくりと、サ
ービスエリアに入って来ました。」
「よし、着いたぞ。降りろ。」
 緋村は先にATVのカメラマンを降ろし、彼を盾にしながら自分も後部ドアから降りて、瑞紀に命令した。
 報道陣が駆け寄ってくる前で、瑞紀は下着姿のまま引きずられるように車を降りた。
 緋村は瑞紀の腕をつかんだまま、何台か先に駐車してあるワゴン車に向かって歩いていき、ドアに手をかけた。ドア
に鍵はかかっていない。
 緋村は運転席においてあった大き目のカバンを降ろした。どうやら、事前に仲間がここに置いていったもののようであ
る。
「発信器なんかつけてないと言ってたのに、嘘をついたな。嘘つきは泥棒のはじまりだぞ。泥棒を捕まえるお巡りさんが
嘘をついちゃあ困るじゃないか。」
 そう言いながら、緋村はカバンから拳銃を取り出して腰に装着し、次に電波探知機を取り出した。カバンの中にはい
ろいろな物が詰まっているようだ。
「しっかりと調べさせてもらうぞ。さあ、ここに立つんだ。」
 瑞紀は下着姿で駐車場に立った。おしゃれではあるが、上品でいかにも清純そうな白のブラジャーとパンティが、しな
やかな肢体を包んでいる。その周りを何台ものテレビカメラが取り囲む。
(これも任務のうちだわ、なんとかこの試練を耐え抜かなきゃ…)
 テレビカメラの前で下着姿を晒す、耐えきれない恥辱に、瑞紀はそれでも必死の思いで耐えていた。
 緋村は電波探知機を瑞紀の身体に近づけて動かした。
「やっぱり、この下着のようなだな。それじゃあ、仕方ない。これも脱いでもらわないとダメだなぁ。」
 緋村の口調はむしろ喜んでいるようだ。
「なんと、テロリストは早瀬警部補に下着を取るように命令したようであります。清楚な妙齢の女性が、屋外で、しかもテ
レビカメラの前で一枚一枚下着を剥がされるのです。これは、信じられないくらいの羞恥、屈辱でありましょう!」
 新山のオーバーな中継が一段とヒートアップする。その声に気づいて、緋村が視線を向けた。
「おや、『エキサイティング・スポーツ』の新山アナじゃないか?」
「…え、えっ?」
 名指しで声をかけられて、新山は眼鏡の奥の細い目をいっぱいに開いてパチパチさせた。片頬がピクピクとひきつっ
ている。
「ちょうどいい、これから早瀬警部補の身体検査をやるから、君、ここに来て実況中継してくれ?」
「…え、えっ?」
 言葉のマシンガンと言われる新山が、言葉を忘れてしまったかのように返事にならない声をあげ、固まってしまったか
のように立ちつくす。その時、彼のイヤホンにディレクターの声が響いた。
「新山、行って中継しろ。」
「はっ?」
「ここまではATVが独占中継していたが、今度はウチにチャンスが回ってきたんだ。これを生かさない手はないだろう。
カメラマンも忘れずに連れて行けよ。」
 ディレクターの指示を受けた新山は、「カメラマンも一緒にいいでしょうか?」と、おそるおそる緋村にお伺いを立てる。
「いいとも、しっかり撮影してくれよ。」
 上機嫌で答えると、FNCのカメラマンがセッティングするのを待って、緋村は瑞紀に命令した。
「さあ、ブラジャーを取るんだ。」
 瑞紀の肩がピクッと動いた。怒りと屈辱に震える眼差しで緋村を見たが、すぐにその目を弱々しげに伏せた。
 そして、命令されるままにブラジャーを外していく。
「いま、早瀬警部補の手が純白のブラにかかりました。白魚のような手が背中をすべり、そして今、ホックを外しました
っ!」
 新山はすっかり調子を取り戻して、まくしたてた。例によって、瑞紀自身にも見えるように置いたモニターのチャンネル
をFNCに合わせ、緋村はニヤニヤ笑いながら、モニターと瑞紀を見比べている。
(我慢するのよ、原発爆破の大惨事を防ぐためよ…)
 そう自分に言い聞かせて、瑞紀は崩れそうになる気持ちをけなげに奮い立たせる。
 肩紐がハラリとすべり落ちると、あわてて両手で胸を押さえながら、ブラジャーを抜き取った。
「お…、惜しい…、もうちょっとで見えるところだったのに…」
 思わずもらした言葉をマイクが拾うと、新山は慌てて言葉を続けた。
「いや、失礼いたしました…。しかし、あまりにも過酷。清楚で可憐な美女が、駐車場で、テレビカメラがずらりと並ぶ前
で、ストリップまがいのことを強制させられているのです。」
 失言を取り繕うとする新山の中継は、むしろ、瑞紀の羞恥心を激しくあおる。瑞紀は唇を噛みしめて、それに耐えた。
 そこへ、容赦ない緋村の言葉が襲ってくる。
「おい、まだパンティが残っているぞ。」
 瑞紀は泣き出しそうになるのを必死でこらえながら、最後の一枚に手をかけた。
「おおっ、とうとう、とうとう最後の一枚に手が掛かりましたっ!」
 新山のボルテージが一段と上がる。
 瑞紀は思い切ってパンティを腰から一気に引き下ろし、足首から抜くと、急いで片手で胸を抱くようにし、もう片方の手
を下腹部に当てて隠した。ぐずぐずしているとかえって恥ずかしい部分を晒すことになってしまうと考えたからだ。一瞬、
豊かな胸の膨らみと下腹部の黒い茂みをカメラがとらえたものの、瑞紀の思いきりは、効を奏したかに見えた。
「見えたっ!乳房とヘアーが今ちらっと見えましたっ!」
 新山は、もはや完全に興奮してしまっていた。そして、反射的にマイクを通してスタッフに口走っていた。
「今の映像、再生できますか?!」
 それに応えるように、瑞紀がパンティを脱ぐ姿がスローモーションで再生される。白い布地が腰から少しずつおろされ
ていき、目に滲みるような美しい雪肌の下腹部と対照的な漆黒の恥毛が顔を出す。前屈みになっているため、乳房の
豊かさがいっそう強調されている。
 FNCの放送は、この時、とうとう一線を越えてしまった。
(イヤっ!どうして、そんなところを何度も映すの!)
 瑞紀は叫び出しそうになるのを、やっとの思いで抑えた。取り乱してはならないという警察官としての意地が、なんとか
踏みとどまらせているのだ。
 大事な部分は手で隠しているとはいえ、テレビカメラが集まる中、全裸で立っているのは、死にたいくらいに恥ずかし
かった。
 ちょうど風が出てきて、初秋のさわやかな風が瑞紀の剥きだしになった肌を撫でていく。そうすると、屋外で全裸にな
っていることを、いっそう強く意識してしまう。
「ほうら、これで素っ裸だ。どんな気分かな?」
 緋村が瑞紀をいたぶるように言う。
 カメラは、隠すことができずに丸出しになった白桃のようなヒップをなめるように映していく。
 ふいに緋村が瑞紀の手からパンティを奪い取り、手にとって調べ始めた。今まで穿いていたパンティを男に隅々まで
チェックされる恥辱に耐える瑞紀に、追い打ちをかけるように緋村が声をあげた。
「おい、この濡れてるのはなんだ。」
 緋村はセミビキニの股間を、興味深げにのぞきこむ。
「い、いやぁ、見ないでっ!」
 瑞紀が狼狽して声をあげた。しかし、全裸の身体をかばっているため、パンティを取り返すこともできない。
「すごいな。オシッコをもらしたみたいにぐっしょりだ。」
 緋村はカメラの前にパンティの股間の部分を突き出した。アップになったその部分は楕円形に湿って色が変わってい
る。車の中でさんざん身体をいじられた当然の結果だった。
「あそこの形が濡れてくっきりとパンティに浮かびあがっているじゃないか。警視庁きっての才媛が、こんなに淫乱だっ
たとはねえ。」
 さすがの新山も黙ってそのやりとりを聞いていたため、二人の会話はそのまま全国に放送されている。
「まだ何か隠しているかもしれないな。」
「もう、ありません!」
 瑞紀が緋村を睨みつける。しかし、緋村はニヤニヤ笑って言葉を続けた。
「さしずめ、胸と股を隠しているのが怪しい。両手を頭の後ろで組んでもらおうか。」
「えっ!」
 瑞紀は緋村の意図に気づいた。全裸にしただけでは飽きたらないのだ。
 身体を隠している両手がブルブル震える。これを離したら、乳房も下腹部の茂みも全てをカメラの前でさらけ出すこと
になるのだ。
「警察官は辛いねぇ。」
 そう言いながら、緋村は無線機を手で弄び、瑞紀にプレッシャーをかけてくる。
 とうとう瑞紀は、胸を抱いていた手を離した。
 綺麗な双乳がこぼれた。豊かに膨らんだ隆起は、青い果実というよりは、もう少し成熟した感じだった。ただし、その
おわん型はあくまで美しく、瑞々しい。頂上を彩る乳輪は小さ目で、乳首はサクランボのようだ。色も綺麗な桜色で、黒
ずみはまったくない。
「そっちもだ、早くしないか!」
 緋村に厳しく叱責され、真っ赤になりながら、瑞紀はとうとう下腹部にあてがっていた手を離した。
 縦長の臍から下方へつづく、優しく丸みを帯びた、真っ白い下腹部のラインの下に、小判型のふんわりした恥毛が
黒々と咲いていた。
 カメラが、視線が、いっせいにその部分に集中する。瑞紀は全身を真っ赤にしながら目を閉じ、両手を頭の後ろに組
んだ格好で立ちつくす。
「フフフ。これが警視庁一の美人警察官のオ××コの毛か…。」
 緋村の目がランランと妖しく光り輝いた。
 閉ざした睫毛が羞恥にわななく。目を開かなくとも、緋村の粘っこい目が自分の身体を舐めるように見つめ、カメラが
一斉に向けられているのがわかる。
(ああ、こんなところで…)
「なんということでしょう、ご覧くださいっ! ついに、ついに今、美人警察官が女の急所を、恥ずかしいその部分を、日
本中の国民が固唾をのんで見守る中、丸出しにさせられてしまいました!」
 日本中のテレビが、乳房も下腹部も露わにしてサービスエリアの駐車場に立つ瑞紀の姿と、絶叫する新山の声を放
送した。


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