松赤村の慣習

第1章
 
 奈津美が「松赤村」という地名を聞いたのは、教育委員会からの電話があった時が初めてだった。
「村立松赤高校への採用が内定しました。全国どこの地域であっても、少年たちに教育の機会を保障するのは、重要
なことでありますから…」
 くどくどと説明する担当者の様子を怪しみながら、帰宅後にインターネットで調べると、どうやらとんでもない僻地だと
いうことがわかった。最寄りの鉄道の駅からでも、車で3時間は裕にかかる山の中だ。なんでも、戦国時代の落ち武者
集落が起源らしい。
 それでも、奈津美は、二つ返事で辞令を受けることにした。
 公務員削減が声高に叫ばれ、教員資格を持っていても非常勤しか働き口がない昨今、公立学校に教員として正規に
採用してもらえるというのは、非常な幸運だと言わなければならない。
 任期は当面、3年だと言う。大都会での一人暮らしに少し疲れていた奈津美は、「少し、田舎暮らしをしてみるのも悪く
ないな」と思った。
 そして、最後に…、ずっとつきあっていた彼と別れたことが、彼女の気持ちを後押しした。

「おはようございます、先生」
 農作業中の一家が手を止め、揃ってお辞儀をした。松赤村に着任して、まだ一週間も経っていないが、既に村のみん
なが奈津美のことを知っていた。なにしろ人口五百人余りの、全員が顔見知りという典型的なムラ社会だ。
「おはようございます」
 奈津美も丁寧に頭を下げて挨拶する。
 村の人たちは、親切に奈津美を迎え入れた。閉鎖的な山村での暮らしを懸念していたところもあったので、奈津美は
ホッとして、これなら任期の3年間、楽しく過ごせそうだと安心した。
「………」
 一家の長男で、27歳になる竜一は、思わず奈津美に見とれていた。
 抜けるような色の白さ、長い睫毛にキラキラと澄んだ大きな瞳、薄く形の良い唇はキリッと結ばれている。柔らかな膨
らみをつけたショートカットの髪が、いかにも清潔感を感じさせた。
「朝早くから、たいへんですね」
 時折、少女のように見える表情が、優しげな微笑を含む。少し高めの声だが、響きは甘く、聞いているだけで耳に心
地良い。
 今日は暖かくなったせいか、奈津美は薄手のブラウスにセミタイト姿だ。風に揺れる白い生地越しに、胸の膨らみが
予想外の大きさを見せている。
「失礼します」
 優雅な仕草で両親に挨拶をする奈津美。農作業の手を止めたまま、竜一は立ち去る彼女の後ろ姿をじっと見てい
た。
 紺のセミタイトを通して、臀部の肉づきの良さがわかった。後ろから眺めていると、スカートを盛り上げた膨らみが、も
こり、もこりと動くのが見える。竜一は、股間が堅くなっていくのを感じた。
「可愛らしい娘さんじゃな」
 母親がそう言う横で、竜一は心の中で呟いた。
(青年団の寄り合いは、土曜日…)

 村に来て二度目の土曜日、奈津美は少し寝坊をしてしまった。緊張が少し解けたせいだろう。
 その日は、授業はなかったが、校長から学校に来るように言われていた。
 遅刻するわけにはいかないと、慌てて身支度を整え、階下に降りると、下宿の小母さんが声をかけてきた。
 田舎の小さな村で教員官舎もなく、校長の個人的な伝手で、老夫婦が住む家に下宿する形になっているのだ。
「なっちゃんに、ちょっと話があるんだけども…」
 下宿の小母さんは、奈津美を娘のように大切にし、いつしか「なっちゃん」と呼ぶようになっていた。
「ごめんなさい、小母さん、帰ってからお聞きします」
 そう言うと、なおも何か言いたそうな表情の小母さんにお辞儀をして、奈津美は慌てて下宿を飛び出した。

 その日、校長に指示された事務的な仕事を終えた奈津美は、村の寄合所に赴いた。校長から、村の青年団の集まり
に顔を出すよう言われたのだ。
 青年団のメンバーは20人程で、団長の良太だけが30歳代半ばの既婚者だが、残りはみんな独身で30歳代と20歳
代、奈津美の教え子にあたる松赤高校の生徒も三年生男子の3人が入っていた。
「村の生活には、慣れたか?」
「不便なことがあったら、遠慮なく言ってくれよ」
 酒と料理が用意された席で、奈津美を取り囲んだ男たちが、争うように彼女に話しかける。
「はい、ありがとうございます」
 奈津美が丁寧に答えると、男たちはうっとりしたような視線を注ぐ。繊細で匂うように女っぽく、それでいて知性を感じ
させる挙措だ。
「あのな、先生、ちょっと聞かせてもらいたいんだが…」
 団長の良太が、遠慮がちに声をかけてきた。
「先生、先生のこと、その…なんだ…、俺たちの村の者と同じように…考えてもいいかな?」
 口ごもる様子を、僻地の生活を卑下してのことだと理解した奈津美が、良太の懸念を払拭しようと、にこやかな笑顔
で答えた。
「ええ、私、村の一員になるつもりで来ました」
「ホントか?」
「はい、もちろんです」
 ためらうことなく、奈津美はそう答えた。せっかくここに住む以上、できるだけ住民たちにとけ込みたいという思いは当
然のことだ。
「そうか」
「いやあ、うれしいな」
 聞き耳を立てていた青年団のメンバーが、一斉に心からうれしそうな表情を見せた。
 その時の奈津美は、男たちが品定めをするような視線で、自分の身体を眺めていることに気がつかなかった。

 夜10時に青年団の集まりが終わり、奈津美は下宿に戻った。
 老夫婦は既に就寝しているらしく、起こさないように気を使いながら、二階に上がる。四畳半が二間続きになっている
スペースが奈津美に与えられた部屋だ。
 奥の間を寝室として使い、手前の部屋に机やテレビを置いて、持ち帰った仕事をしたり、くつろぐための部屋に当てて
いる。
 慣れない人づきあいで、すっかり疲れてしまった奈津美は、ふーっとため息を吐いて、布団の上に身を投げた。緊張
がほどけ、疲労感がうっすらと湧いてくる。
 いつしか、奈津美はうとうとと眠りに落ちていった。
 真夜中、人が近づく気配で奈津美は目を覚ました。
「誰…?」
 尋ねる声が震えた。下宿の老夫婦ではない。がっしりした体格の若い男が仁王立ちになって、布団の上の奈津美を
見下ろしている。部屋の明かりが消えているために、顔ははっきり見えなかった。
「誰ですか?」
 身体を起こしながらもう一度尋ねると、男は無言のまま、奈津美を押し倒し、その上に多い被さった。
「いやっ、だめっ…、やめてっ!」
 奈津美は力一杯暴れたが、男と女の力の差は歴然だった。男は彼女の身体を抱きすくめ、うなじの匂いを嗅ぎ始め
た。
「助けてーっ、小父さん、小母さん!」
 奈津美は必死で叫び、階下で寝ている老夫婦に助けを求める。しかし、誰も答える者はなく、家の中は静まり返って
いた。
「うっ…」
 男の唇が口に押し当てられた。奈津美は手足をバタつかせて抵抗した。木造家屋の二階で大きな物音をさせている
にもかかわらず、相変わらず、誰もやって来ない。
 男はブラウスの胸元から片手を入れ、ブラジャーの胸を鷲掴みにした。
「い、いやっ…、やめて!」
 ブラウスのボタンが外され、すっかり前を開かれた。男がブラジャーをたくし上げると、仰向けになってもなお豊かさの
わかるバストが、たわわに波打った。
「いやあっ、やめてェ」
 男がむしゃぶりつくように、乳首を口に含む。もう片方の乳房は掌でこねくりまわされ、乳首を指で弄られる。
「いやっ、いやっ!」
 黒髪を振っていやいやする奈津美の仕草が、逆に男の欲情を刺激する。両の乳房がさらにいっそう激しく、無惨なほ
どに形を変えて揉みにじられた。
「あうっ、痛い!」
 乳首を軽く噛まれ、ビリリッとした痛みに、奈津美は思わず悲鳴をあげる。それでも男は執拗に、唾液にまみれた乳
首をこねくりまわしていた。
 男の手がスカートをたくしあげた。脹ら脛に続いて白い太腿が露わになった。
 太腿を撫でていた手が、パンティをふっくらと盛り上がらせているヴィーナスの丘を這う。恥骨の上にほどよくついた肉
の弾力、その表面に陰毛が醸し出すザラつき、それらの感触が薄い布地を通して指先に感じられ、男は息づかいを早
めた。
「い、いやっ…う、ううっ」
 奈津美が身悶えした。どこの誰ともわからない男に抱きすくめられ、荒い息を吐きかけられ、肌を撫でまわされる。あ
まりの恐怖と汚辱感に神経がおかしくなりそうだ。
 男の手がパンティにかかる。
「ああっ…」
 奈津美がうろたえ気味に腰をひねった。男が下着を一気に腰から引き下ろし、むしりとるようにして足もとから抜き取
る。
「だめっ!」
 男の指先がクレバスに触れてくる。奈津美は必死で腰を捻り、なんとか逃れようとする。
 ぴっちりと折り重なった肉門がこじ開けられた。たっぷり唾液をまぶした男のごつい指が、彼女の秘所に侵入する。
「い…、痛いっ…」
 奈津美が悲鳴をあげた。真面目な優等生できた彼女は、学生時代のボーイフレンドともプラトニックな関係で、これま
で男性経験がなかった。実を言えば、一線を越えたいとのアプローチを拒んだことこそが、彼との関係を気まずいもの
にし、別れを招いたきっかけだった。
「はあ、はあ、はあ…」
 男が荒い息を吐きながら、もぞもぞ腰を動かした。ズボンのベルトを外すと、パンツを下げて勃起した陰茎を取り出
す。
「入れるぞ…」
 男の体重がのしかかり、押し殺した声が耳元で聞こえた。亀頭が奈津美の割れ目に触れる。奈津美がビクンと肩を
震わせた。
「いやっ、いやぁーっ!」
 少しでも矛先をかわそうとする奈津美をがっちり押さえつけ、両足を抱え込むと、男が肉棒を突き立てた。
「ああっ、ダメ…、いやっ!やめて…」
 男はゆっくりと身体を沈めた。未通の秘孔を怒張が押し開いていく。ズブズブっとめり込む感触に、奈津美がもんどり
を打った。
「うぅ、痛っ…」
 男は、身悶えする奈津美の身体をねじ伏せ、荒い息を吐いてはズンッ、ズンッと肉棒を埋め込む。
「うぐうっ…、い、痛いっ!」
 股間に走る痛みで、奈津美の意識が一瞬遠のいた。引き伸ばされた処女の輪がプツンと切れる感触が男の肉棒に
伝わる。根元までずっぽりおさまると、満足げな吐息をついて、男は感動に酔いしれた。
 甘い黒髪の香りが、男の鼻孔をくすぐる。かすかな体臭と爽やかなコロンの香りは、村の娘にはない都会の空気を感
じさせた。
「動かないで、じっとしてて…」
 奈津美の哀願など無視して、男はピストン運動を開始する。濡れた粘膜の感触がたまらなく心地よく、じっとしてなど
いられなかった。快楽の唸りをもらし、男は腰を前後させ、ペニスに甘く絡みついてくる膣肉をグリグリと擦る。
「う…痛…、痛いっ、あああ…」
 腕の中で奈津美の身体がのけぞった。キリッとした眉が苦しげに折れ曲がる。白い喉が震えている。
「ひいぃぃ…」
 奈津美の身体が弾んだ。男は容赦なくストロークを叩き込んでくる。入り口で粘膜が擦れるたびに、痛みで呼吸が苦
しくなった。閉じた睫毛の間から、涙がポロポロこぼれる。
 男はハッ、ハッと息を吐き出しながら、抽送を続けている。奈津美はぐったりとなって虚ろな瞳を天井に這わせ、男の
なすがままになっていた。
「おう、うおう…」
 男の口から快楽の唸りが漏れてきた。ドスッドスッと下半身全体をぶつけるようにして女体を揺さぶる。
「う、ううっ、出る!」
 男は奈津美をきつく抱擁し、下半身を激しく痙攣させた。
「だ…、だめ、だめ…、お願い…」
 男の意図を察知した奈津美が、追い詰められた声で訴えた。男の胸を拳で叩き、必死で押し退けようとする。
「うっ…、ああっ…」
 奈津美の抵抗もむなしく、男は熱い体液を彼女の中に注ぎ込んできた。
「あああぁ…」
 絶望の声を漏らす奈津美の身体を抱き締め、最後の一滴まで絞り出すように放出した後も、男はすぐには結合を解
かなかった。名残を惜しむように、愛おしげに両手でヒップを撫で回し、丸い膨らみから太腿にかけて、何度も愛撫を繰
り返す。
「気持ち良かったぜ、先生…」
 男は奈津美の頬に手を当ててそう言った。
「うッ…、ううッ…」
 激しく頭を振りながら、奈津美は屈辱の嗚咽を漏らした。

 翌朝、老夫婦の視線から逃れるようにして、奈津美は朝早くに下宿を出た。
 とりあえず、学校に行くつもりだった。学校は日曜日で休みだったが、あんなことがあった部屋にいるのが耐えられな
くなったのだ。
 交際していた彼にさえ許さなかった身体を、どこの誰ともわからない男に抱かれ、汚された…、思い返す度に言いよう
のない哀しみがこみ上げてきて、目頭が熱くなる。
「おはよう、先生」
 宅配に行く途中の俊平が声をかけてきた。村に一つだけある商店、よろず屋「尾崎」の息子だ。
「おはようございます…」
 できるだけ普段と変わらないように挨拶をしたが、その表情がこわばるのが自分でわかった。
「先生、未通娘だったんだな」
 奈津美は最初、俊平が何を言っているのか理解ができなかった。
「えっ?」
 聞き返す奈津美に、俊平が意味ありげな笑みを浮かべる。
「処女だったんだろ?」
「な、なにを…」
 真っ赤になる奈津美の顔を、俊平がニヤニヤ笑いながらみている。どうやら昨夜の出来事を知られているらしい。何
故だろうという思いが頭の中を駆け巡り、奈津美は激しく狼狽した。
「信二さんが言うとったぞ。昨日、夜這いで行っただろが」
「夜這い…」
「信二さん、初物にあたって、拾いものだったと喜んでたぞ」
 信二は、バスの運転や機材の搬入などをしている青年で、昨夜の青年団の寄り合いにも参加していた。無口だが、
仕事ぶりは真面目で、とても女性をレイプするような男には見えなかった。
「あの…、失礼します…」
 顔から火が出るような思いで、奈津美はその場を逃げるように立ち去った。

「何っ、無理矢理やったようだと?」
 電話の相手が苦りきった声を出した。
「うーむ、最初の男が肝心だったのだが、信二じゃあ、こういう役回りは荷が重かったかな…」
 言われた良太は、必死に弁解する。
「あれだけの別嬪ですから、誰も譲るもんがおらんかったんですよ。そうなれば、くじ引きは青年団の掟ですから…」
 しどろもどろに答える良太に、受話器の向こうから思案する声が聞こえた。
「しかし、なんとかせんといかんな…」



 
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