「開幕」
 
 この春、ここ鹿宋学園(ろくそうがくえん)に2つのニュースが舞い込んで来た。1つはこの学園の最も活発な部活動、
演劇部が2年連続で全国大会最優秀賞を獲得した事。そのすぐ後に、風見清香のスター・ハント21最優秀賞受賞。そ
してこの2つには似たような悩みが栄誉の裏についてきた。
 神長 燈歌(かみなが・とうか)は不機嫌だった。理由ははっきりしている。全国大会が終わった辺りから、急に見学者
が増えた。無論、それ自体は悪い事ではない。人が増えればスタッフの一人一人の分担が減り、その仕事がより完璧
に近づくし、キャストにしても選ぶ際に候補者が多いに越した事はない。問題は演劇を目的としないで、異性と仲良くな
ろうとしている男がいる事だ。
 そんな事を考えながら歩いていると目の前で見覚えのある2人の男が女子にからんでいた。確か、手塚と有島だった
はずだ。一応、演劇部員だが女の子を口説くだけに入ってきたのだろう。相手にされなくなった最近は顔も出さなくなっ
た。
 ロクな奴じゃない、燈歌自身も二人に何度と言わず口説かれた覚えがある。
「ちょ、やめて下さいっ……!」
 嫌がる少女――こっちも演劇部の後輩の風見清香だった――の腕を乱暴に有島が掴む。どう見ても友好的な雰囲
気ではない。
(なんだって、男ってこういうのかな……)
 溜め息混じりに髪を掻き上げると、一言注意するつもりで足を運ばせる。
「いいじゃねぇか。どーせ土本って奴とヤって最優秀賞獲ったんだろぉ?」
「なっ……そ、そんな事してないっ!」
 自分たちだけに収まらず清香に対する無遠慮な男の中傷。涙を浮かべながら必死に反論する清香。
 その2つが燈歌を行動に移させた。
 背を向けている手塚に駆け寄ると、その勢いを生かしたまま回転を加えた踏み切りを行う。狙いは頚部。踵から全体
重を使って、思いきり振り切る。
「いいからよぉ、ちっと俺達につきあ――あがっ……」
 馬鹿笑いを浮かべてた手塚は見事に首に命中した燈歌の蹴りでそのままゆっくりと倒れる。
「いい加減にしておきなさい、アンタ達」
 ふわりと舞うスカートを押さえる事もせず燈歌は表情を極上の笑みへと変化させ、続ける。
「それ以上清香を侮辱したら………殺すわよ?」
 それが本来の笑みとは違う意味を持ってる事は、有島も感じ取り顔を青くする。
 が、女に対して背を向ける事はプライドが許さないのかその目からは敵意が溢れ出している。
「……てめぇ、よくもやりやがったな!」
「はぁ……あのさ有島君だっけ。もうちょっとオリジナルティのある台詞言えない?じゃないとモテないわよ?まぁ言葉遣
い変えたくらいじゃ無理だろうけどね、その顔と性格じゃ」
「こ、この野郎ぉぉ!」
 有島は、目の前で見下した笑みを浮かべる燈歌のセーラー服の胸倉を掴んで、拳を振り上げ一気にそれを振り下ろ
す。
 例えようのない鈍い音の後、燈歌は口から鮮血を滴らせながらも崩れそうになる膝を押さえ踏みとどまる。
 目は相変わらず有島を射すくめるような視線で睨んでいる。
「燈歌先輩っ!」
 清香が心底心配した声で駆け寄ってくる。可愛らしい白のハンカチが汚れるのも構わず、燈歌の口からの出血を優し
くふき取る。後輩の、指を気持ちよく流れる髪を撫でる。
「(良い子ね、相変わらず)大丈夫よ、清香」
 この子を泣かせた。それだけでこの男たちを許す事は出来ない。燈歌は清香に向けていた優しい表情を消し、再び
有島に向き合う。
「やっぱりありきたりの台詞しか言えないのねぇ。それに私は野郎じゃないわ。小学生に国語教わったら?ま、小学生
も教えるのに手を焼くでしょうけどね」
 更に男を兆発させるような言葉をつむぎだす燈歌。
「こらっ、お前ら何をやってるっ?!」
 ここになってようやくこの騒ぎを聞きつけた体育教師たちが姿を見せた。有島は小さく舌打ちをすると手塚を抱え急い
で逃げ出した。燈歌と清香の側を通りすぎるとき、小声で「覚えてろよ」と捨て台詞を残して。
「全く、悪役ってのはどうして同じ台詞しか言えないのかしら……」
 そう呟くと燈歌の意識は急速に闇に向かってフェードアウトして行った……。
 
 


 
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