逃亡
 
第1章−2
 
「そろそろだな。」
 野上はコンクリートの殺風景な壁を睨みながら、車の後部座席で一人呟いた。そろそろ、緋村が釈放される時間なの
だ。
 しかし、今、野上が睨んでいる壁の向こうは拘置所ではなく、原子力発電所である。
「畜生っ!」
 怒りをぶつけるような声に驚いて、運転席にいた地元警察の刑事が振り返った。
「どうかしたんですか?」
 しかし、野上は答えもせずに、ただ壁を睨んでいた。
 二日前の捜査会議で、野上はPFFTの要求に応じるという上層部の決定に反対し、激しく抗議した。
「テロリストに甘い顔を見せてはいけません。つけあがるだけです! 断じて認めるわけにはいきません!」
「し…、しかし、これは、警視総監が首相とも相談のうえ、すでに決定されたことですから。」
 PFFT対策本部長の細井警視は、凄まじい形相で迫る野上に、ひきつった顔を青くして、そう答えるのがやっとだっ
た。これだけの大事件にあたるのに信じられないことだが、もともと順送り人事で本部長になっている典型的な「お役
人」である。上層部の言うままに事を決めてきたのは明らかだ。野上はこれまでもことごとく細井警視とぶつかってきた
が、ここにきて、積もり積もった不満が、一気に爆発した。
「馬鹿野郎! 誰が決めようが、納得できないものは納得できるか。原子力発電所をきちんと張り込んでりゃあ、捕まえ
られるんだ!」
 勢いで、そう叫んでしまったことが仇になった。野上は、希望していた緋村追跡班ではなく、原子力発電所の張り込み
に回されてしまった。しかも、PFFTは爆破予告の対象を特定していないため、ここが彼らの狙いの原発なのかどうかさ
え、はっきりしないのである。
 有り体に言えば、野上は「外された」のであった。

   *

 東京小菅にある東京拘置所には、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど多数の報道陣がびっしりと詰めかけていた。
 報道陣の間を縫って、正午きっかりに、構内にシルバーグレイの車が到着した。 車から降りてきたのはコバルトブル
ーのスーツを来た美しい女性。早瀬瑞紀だった。テレビカメラが一斉に彼女の姿をとらえ、カメラのシャッターが切られ
た。
 警察官は瑞紀一人だけにしろというPFFTの要求を受けて、敷地に入ってきたのは彼女が乗る車だけだったが、もち
ろん、拘置所周辺には何台もの覆面パトカーが待機している。また、報道陣の中にも警察官が紛れ込んでいた。
 ほどなく、拘置所の入り口が開くと、緋村が両手を上にあげ、気取ったポーズをとりながら出てきた。
 緋村は周りを取り囲んだ報道陣のマイクを奪い取ると、独自の政治思想をちりばめた身勝手なコメントを二、三述べ
た後、少し離れた所に立っていた瑞紀に目を向けた。
「やあ、これはこれは、早瀬警部補。お役目ごくろう。」
 緋村は、瑞紀を頭の先からつま先まで値踏みをするようにジロジロ見た。瑞紀は全身を撫で回されているような不快
感に耐えながら、黙って立っている。
 やがて満足したような笑みを浮かべると、緋村は瑞紀に近づいてきた。
「10億円は持ってきているだろうな。」
「あの車の中よ。」
 緋村の質問に、努めて素っ気なく答えようとする瑞紀の声は、緊張のため、わずかだが上擦っていた。
「確認させてもらおう。」
 そう言うと、緋村は馴れ馴れしく瑞紀の肩に手をかけ、迷惑そうな顔の瑞紀を連れて車の方へ歩いていく。
 瑞紀がトランクを開け、中に入っていたジェラルミンのケースを開くと、そこには一万円札がびっしり詰まっていた。
「あっ!」
 瑞紀が思わず叫び声をあげた。緋村がいきなり瑞紀の腕を後ろ手に掴み、少し離れたところにびっしりと並んでいる
報道陣の方を向いた。
「私はこれから、この美人婦警と一緒にドライブを楽しむことにする。テレビ局各社の諸君には、私がもういいと言うまで
同行してもらって、全ての局でノーカットでドライブの様子を生中継し、全国放送してもらう。視聴率はバッチリだから安
心して放送したまえ。」
 緋村はそこまで言うと一呼吸置き、今度は少しドスをきかせた声で言葉を続けた。
「報道陣の中に混じっているポリ公ども、それから建物の周りでコソコソ隠れているイヌども、良く聞け! 妙な動きをし
たら、取り引きはおじゃんだぞ。その時は、ただちに私の同志が原子力発電所を爆破する。すでに爆弾はしかけてある
ぞ。」
 そして、瑞紀の腕を掴んでいた手に力を込めた。瑞紀の顔が痛みに歪む。
「そして、この女も殺す。それは、この女が俺の言うことに逆らった場合も同じだ。原子力発電所を爆破し、女を殺す。」
 緋村の脅迫はテレビカメラを通して全国に中継された。それは、警察の行動に重い足かせをかけた。そして、瑞紀の
行動にも。
「さあ、行くぞ。」
 緋村の声に促されて、瑞紀は車に乗り込んだ。瑞紀が運転席に、緋村が助手席に座る。
「ちょっと携帯電話を貸してもらおう。」
 そう言って瑞紀から携帯電話を受け取ると、緋村は見られないようボタンを押し、耳に当てた。
「緋村だ。どういう段取りでやるんだ。ああ、そうか、わかった。」
 そして、携帯電話をそのまま自分のポケットにしまい込むと、運転席の瑞紀に命令する。
「まず、私の言うとおりに運転してもらおう。」
 そう言いながら、緋村はカーテレビのスイッチを入れた。エンジン音とともに、画面の中のシルバーグレイの車が発進
した。
「瑞紀、お前とドライブできてうれしいよ。」
 緋村は上機嫌で言った。瑞紀は聞こえないふりをする。
「そうつれなくするなよ。私は、ファッション雑誌でモデルやってた頃からのお前のファンなんだ。」
 緋村が言ったちょうどその時、カーテレビに映ったアナウンサーが瑞紀のプロフィールを紹介し始めた。
「中継をご覧の視聴者のみなさんから、緋村被告人が乗った車を運転している女性警察官についての質問が殺到して
おります。FNCテレビが独自に調査したところ、この女性警察官は警視庁の早瀬瑞紀警部補です。警部補は高校生時
代にはモデルクラブに所属し、彼女が載った号は発売日に完売するという人気モデルだったとの情報が入ってきており
ます。高校卒業後は東京大学に進学し、二回生の時には大手芸能プロダクションやテレビ局各社の協賛で行われた
『全国一斉キャンパスアイドルコンテスト』で優勝しましたが、結局、芸能界入りせず、国家T種試験に合格して警視庁
に採用されたという、まさに才色兼備の美女であります。」
 バラエティ番組が得意なFNCらしく、瑞紀が載っている雑誌やコンテストの時の映像などを交えながらの紹介である。
(事件には何の関係もないのに、そんなことまで放送しなくていいじゃない。)
 瑞紀は怒りと恥ずかしさで耳まで真っ赤になっている。
「質問が殺到か。そうだろうな。」
 緋村がニヤリと笑いながら言った。

 一五分ほど走ったところで、緋村は大通りを外れて脇道に入るよう命じた。そこは文京区の閑静な住宅街である。
「よし、そこで止まれ。」
 緋村は小さな駐車場を指さした。
 駐車場で車から降り、止まっている白いセダンのところに行くと、緋村がドアを開ける。鍵はかかっていなかった。
 運転席に無線機が置いてあった。緋村はそれを手に取り、スイッチを入れた。それを待ちかねたように無線機から声
がする。
「緋村同志、今乗っている車は発信機が着いていると思われますので、この車に乗り換えていただきます。まず、10億
円をこの車のトランクにあるケースに移し替えてください。」
 緋村は瑞紀に命令して、札束を詰め替えさせた。その間に各テレビ局の中継車が次々に到着し、駐車場の周りをテ
レビカメラが取り囲む。
 10億円をほぼ移し終えた時、無線機が次の指示を伝えてきた。
「服にも発信機が着いている可能性がありますので、着替えてください。もちろん、女もです。」
 瑞紀はハッとした顔で緋村を見た。不吉な予感がする。緋村が無線機に向かって尋ねた。
「着替えはどこにあるんだ。」
「後部座席に置いてあります。」
 緋村は後部座席に置いてある着替えを取り出した。おしゃれな彼が好んで着ているイタリア製のブランド物のスーツ
だ。そして、後部座席に置いてあるのはそれだけだった。
「早瀬警部補の着替えがないようだが?」
 緋村はとぼけた声を作って言った。瑞紀は顔から血の気が引くのを覚えた。
「ありません。」
 無線機の答えは予想どおりだった。さらに駄目押しするように言う。
「女は下着のままでいいでしょう。」

 瑞紀の周りを十数台のテレビカメラが取り囲んだ。
 緋村は中継スタッフに命令して、モニターを持って来させると、瑞紀が中継映像を見られるように、彼女の前に置い
た。
 清楚なコバルトブルーのスーツ姿がモニターに映し出される。今まさに全国に生放送されている映像だ。
 瑞紀は言葉を失っていた。色白の顔の、頬骨のあたりや目元がみるみる紅く染まっていく。
「さあ、脱いでもらおう。」
 そう言う緋村は、すでに着替えをすませている。
「ちょっと…、ちょっと、待ってください…」
 さすがの瑞紀も泣き出しそうな顔になっている。屋外で、しかもテレビカメラがずらりと並ぶ前で服を脱ぎ、下着姿にな
るなど、正気でできることとは思えなかった。
 周囲の家の窓から付近の住民が、駐車場の様子を覗いているのに気がついた。巻き込まれるのを恐れて、さすがに
表に出てくることはなかったが、あちこちの窓に人影が見える。
「任務はきちんと遂行しなきゃあいけないなぁ。ぐずぐずしてると、原発が爆発することになるぞ。」
 緋村の言葉に、追い詰められた瑞紀がようやく顔をあげた。
 瑞紀は重い吐息をひとつ吐き出すと、キッとした顔で緋村を睨み、静かにコバルトブルーのジャケットを脱いだ。
「おおっ…」
 期せずして、カメラマン達が一斉に声をあげた。



 瑞紀の白く繊細な指が、ゆっくりと、ためらいがちにボタンをはずしていく。
「もっとよく見えるように、アップで撮るんだ!」
 モニターをのぞき込みながら、緋村が叫んだ。
 それに応えるように、瑞紀の正面に据えられたカメラがズームアップする。はだけたブラウスの胸元が大きく映し出さ
れた。ブラジャーのレース刺繍の縁取りまでがチラチラを見える。
「あっ!」
 モニターの映像を見て、思わず瑞紀は胸元をかき合わせた。
「何してるんだ。早くしろ!」
 途端に緋村に怒鳴られ、瑞紀はモニターから視線をそらして、震える指でボタンをはずした。前が徐々にはだけ、ま
ばゆい純白のブラジャーも、柔らかな胸の谷間もはっきりと眺められる。
 一番下のボタンをはずし、瑞紀はブラウスの裾をスカートから引っぱり出した。
「ああ…」
 しかし、なかなかふんぎりをつけられず、目を閉じ、ピンクの唇からため息を洩らす。ブラウスを取れば、ブラジャーだ
けの上半身を全国中継されてしまうのだ。
 モデル時代やコンテストの時に水着になった経験はある。しかし、衆人環視の中、普通に身につけている下着姿をさ
らす恥ずかしさは、もともと見せるために作られた水着を見せるのとはわけが違った。
「おい、こっちを見てみろ。」
 声をかけられ、瑞紀は緋村を見た。
 同時に、テレビカメラも無線を手にした緋村を映し出す。
「おまえが言うことを聞かないとどうなるか、さっき言っただろう。私がこの無線から合図を送ると、仲間が原発を爆破す
るんだぞ。」
 抵抗することはできないのだ。瑞紀は目をきつく閉じて、長い睫毛を屈辱に震わせながら、ブラウスの前を開いた。少
女のような顔立ちが、羞恥で紅潮する。
「そうだ、いいぞ。」
 緋村は満足そうにうなずいた。再び、テレビは駐車場で衣服を脱ぐ瑞紀の姿を放送する。
 とうとう瑞紀はブラウスを脱いだ。なだらかなカーブを描く美しい肩先があらわになり、そこへぴっちり食い込む下着の
細いストラップが目にしみる。
 ブラウスを脱ぐなり、瑞紀はなんとか視線をさえぎろうと、両手で自分の身体をきつく抱きしめた。優美な肩から背中
にかけての曲線が男心をそそる。
「うーん、少し映像に変化が欲しいなあ。」
 瑞紀とモニターを見比べながら、緋村がわざと聞こえるように言った。そして、二人を遠巻きにしている報道陣に向か
って、手招きした。
「そこのJBCとATVのカメラマン、こっちへ来い。」
 社名入りのステッカーを貼った移動式のテレビカメラを担いで、二人のカメラマンが近寄って来た。
 「国営放送」とあだ名される特殊法人のJBCと、民放の中でもニュース番組に定評のあるATV、ともにどちらかと言え
ば硬派と見られ、広い放送網を持っている放送局だ。
「おまえたち、女の至近距離からアップを狙え。」
 まるでディレクターか何かのように、カメラマンを指示する。
 いつの間にか緋村がこの場の全てを取り仕切っているような雰囲気になっているせいか、二人のカメラマン達は特に
逆らう様子もなく、瑞紀の周りでカメラを構えた。一人は鼻ひげを生やした40歳台ぐらいのベテランカメラマン、もう一
人は若手だ。
 今までとは違ったアングルで瑞紀の顔がアップで映し出される。その顔は今にも泣き出しそうだ。口もとはこわばり、
眉間がピクピク痙攣して、澄んだ黒目が潤んでいる。
「よし、次はスカートだ。」
 スカートを脱ぐためには両腕を降ろさなければならない。当然、ブラジャーが丸見えになってしまうし、身をかがめた時
にバストものぞかれてしまう。しかも、スカートをとれば、本当に下着姿を全国中継されてしまうのだ。
「どうした? ここで全てをおじゃんにしたいのか?」
「わかりました。」
 緋村の脅しに、瑞紀は観念した表情で、胸の前で交差させていた両腕をすべりおろした。真横についたスカートのファ
スナーがさげられ、ホックがはずされる。
 そこまで一気にやってのけて、しかし瑞紀はまた躊躇する。呼吸が乱れ、華奢な肩が波打つ。
 どうやら自分たちに直接の被害はなさそうだと思ったのか、周囲の民家の窓から、住民たちが身を乗り出して駐車場
の様子を覗いている。報道陣の後ろには、野次馬も集まってきているようだ。瑞紀は無数の視線が自分に集まってい
るのを感じた。
「ほらほら、さっさとしろよ。」
 そう言いながら緋村は、瑞紀が恥じらい、ためらう様子を楽しんでいるようであった。
 瑞紀はスカートをおろしていった。
 冷静な報道よりも彼女の姿を克明に映すことが目的になってしまったのか、カメラマンがチャンスとばかりに、ブラジャ
ーに包まれた豊かなバストをアップで撮影した。
 上半身をかがめ、片足ずつあげて足首からスカートを脱ぐ姿が、柔らかな膨らみを見せる胸が、純白のパンティが、
二台のテレビカメラによって、前から後ろから撮影される。
「おっ、ATVいいぞ。さすが、核心に迫る報道のATVだ。」
 後ろに突き出された丸いお尻がモニターに大きく映し出されるのを見て、緋村がはやし立てる。瑞紀は消え入りたいく
らいの恥辱に耐えていた。
 スカートを脱ぎ終えた瑞紀は、純白のブラジャーとパンティをなんとか両腕で隠そうと、はかない試みをつづけている。
「隠すな。きちんと下着姿を見せるんだ。」
 緋村が手に持った無線機をチラつかせながら命令した。瑞紀は、しかたなく、両腕を身体の横におろす。
「さすが、想像以上にいい身体をしてるな。」
 緋村は瑞紀の魅力的な肢体を無遠慮に、舐めるような視線で眺めた。そして、その視線とシンクロするかのように、
魅力的な姿態があますところなくテレビ放映される。
 身につけているのは、4分の3カップのブラジャーと、お揃いのセミビキニのパンティ。清楚な白い布製で、上品なレー
ス刺繍がほどこされている。
 ツンと突きだした胸、ピョコンとヒップアップした尻、弾力のある白い太腿、すらりとした長い脚、背は高くないが、さす
が元モデルだけあって、抜群のプロポーションだった。年齢より幼く見えるルックスのために、服を着ていると華奢に見
えるが、こうやってみると、なかなかグラマーだ。
「さあ、全国のテレビをご覧の視聴者のみなさんに、ただいまご覧いただいている早瀬瑞紀警部補のスリーサイズを公
表していただこうかな。」
 緋村がおどけて言う。
 瑞紀は、色白の肌理細かな肌を真っ赤に染めて立ちつくし、うつむいて血が出そうなほど強く唇を噛んでいる。
「バストはどのくらいあるんだ。」
「どうして、そんなこと言わなきゃならないんですっ!」
 たまりかねて声をあげる瑞紀の目の前に、緋村は無線機を突きつけた。
「東大卒の才媛のわりに物覚えが悪いようだな。自分がどういう立場か忘れたのかな?」
 この脅迫に逆らうことはできない。
「は…、85…」
 うつむいたまま瑞紀が答える。
「きちんとカメラ目線で、丁寧に答えろ。それにバストを聞いたら、気を利かせてカップも答えないといけないな。」
 緋村が正面のカメラを指差し、いたぶるように言う。
「バストは85センチ、Cカップです。」
 瑞紀は、耳まで真っ赤になり、今にも泣き出しそうな顔をカメラに向けて答えた。その様子は男の嗜虐性をかき立て
る。
「ウエストは?」
「56センチです。」
「ヒップは?」
「86センチです。」
 答える度にモニターに、アップになったバスト、ウエスト、ヒップが映し出された。
「最後に訊くが、発信器なんかは隠していないだろうな?」
「隠していません。」
 そこまで質問すると、緋村は瑞紀が今まで身につけていた服を掴み、テレビ局のスタッフの方に放り投げた
「お前らにやるよ。持っていけ。」
「あっ!」
 思わず瑞紀が叫んだ。これで本当に、下着のまま緋村との逃亡を続けなければならないのだ。
「それと、お前。」
 緋村はATVの若手カメラマンに言った。
「は…、はい。」
「一緒に車に乗ってもらおう、車内の様子を撮影して報道するんだ。」
 返事を聞くまでもなく緋村は、カメラマンを白いセダンの助手席に押し込むと、瑞紀を運転席に座らせ、自分は後部座
席に乗り込んだ。
 すぐに車は発車し、住宅街の駐車場を後にした。

   *

「緋村は新たにATVのカメラマンを人質に取り、目白通りを東に逃走中。」
 追跡中の覆面パトカーからの無線の声で、警視庁のPFFT対策本部に詰めている細井警視以下5名の捜査官は、ハ
ッと我に返った。
 全員、思わずテレビ中継の画面に見入っていたのだ。お互いにそれとわかって気まずい空気が流れる。
「発信器は無事のようです。」
 一番年長の内藤警部補が、その場の雰囲気を変えようと、わざと大きな声で報告した。
 デスクの中央に設置されたカーナビのような画面に目白台付近の地図が映し出され、赤い点が目白通りを移動して
いく。
「ほら、早瀬警部補の下着に取りつけるという案は名案だっただろう。」
 細井警視が得意満面の顔で、自ら考えた計画を自慢する。その時、警視は野上の顔を思い浮かべていた。野上は
瑞紀の下着に発信器を取りつけることにも強く反対したのだ。
(それ見ろ、うまくいったじゃないか。)
 細井は脳裏に浮かんだ野上の顔に、心の中で自慢げに言った。
 

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