第10章 大反響!美乳CM
 
「だいぶ緊張がほぐれたようね。」
 美津子が冷たいドリンクを汐理に差し出して言った。
「車の中では、悲愴な顔してたわよ。」
「だって…」
 からかうような口調で言われて、汐理は頬を染め、拗ねるような表情を見せた。リハーサルが終わり、休憩中の彼女
は、バスローブのようなガウンを羽織ってパイプ椅子に腰掛けている。
 温泉ロケで失敗をした穴埋めに、今回の下着のCMを受けることを決めてからも、このスタジオに入るまで、汐理は
悩み続けた。実際、何度断ろうと思ったかわからなかったが、美津子の顔を見るたびに言い出しそびれて、とうとうここ
まで来たのだ。
「大丈夫よ。誰もあなただって気がつかないから。」
 美津子は何度もそう言って汐理を励ましたが、彼女の気持ちはそう単純なものではない。
 今回のCMでは乳房をあますところなく露わにしなければならないが、顔はまったく出ない。彼女はアイドル水沢汐理
としてではなく、バストのパーツモデルとしてCM出演するのだ。乳房をカメラの前に晒すことは恥ずかしかったが、顔が
出ないということで一応の安心感はある。しかし、反面、パーツモデルとして扱われることに、タレントとしての寂しさもあ
った。複雑な感情がモザイクのように浮かんで汐理の気持ちをかき乱した。
 実際にスタジオ入りしてからは、約束どおり撮影スタッフは全員女性で、和気あいあいとしたムードの中でリハーサル
が進んでいき、汐理の気持ちもずいぶん落ち着いていた。
「もうすぐ本番の準備ができるから、リラックスして待っててね。」
 ショートボブの髪型、Tシャツにジーンズというスタイルで、ディレクターの藍本百合子が優しく声をかけてきた。その間
にも、スタッフと冗談を言い合いながら、仕事をテキパキとこなしていく。キャリアウーマンというイメージは美津子と同じ
だったが、自分にも他人にも厳しく、一本気で真面目な美津子とは好対照の、明るく茶目っ気がある百合子に対して、
汐理は親しみと好感を持った。
「それじゃあ、本番いくわよ。」
 百合子の声がスタジオに響いた。
「はい。」
 汐理は素直に返事をし、スタジオの中央に進んだ。何台ものライトが照らし出す光の真ん中に立って、ゆっくりとガウ
ンを脱ぐ。清楚な白いパンティ一枚だけを身につけた裸身が乳白色に輝き、透き通るような美しさと優美な線を見せて
いた。
 
 いきなり形の良い双乳が正面から大きく映し出される。乳輪と乳首はきれいなピンク色で、乳房全体との大きさのバ
ランスが絶妙だ。
 続いて、乳房をなめるようにカメラアングルが90度動き、横からのラインをとらえる。少女のものにしては隆起が目立
ちすぎるが、かといって成熟した女のものでもない。大人になる直前の娘の清らかでいて、エロチックな膨らみだ。
 背後から女性の手が伸びてきて、胸の膨らみをすくい上げるようにして、プルンプルンと二、三度揺らす。そして、指
先が乳首をゆっくりと転がしていく。刺激を与えられた乳首がだんだん硬く勃起していく様子がはっきりと映し出される。
 手が乳房を包み込み、再び正面にカメラが切り替わる。
 両方の乳房を手で包まれたモデルの姿が、顎の先から腰のあたりまでのショットで映る。モデルの腕は下におろされ
ているため、胸を覆っているのは他の者の手であることがわかる。バストを寄せて持ち上げることでできる胸の谷間
が、いやがおうでも目を引きつける。
 乳房を包む手が優しく愛撫するように膨らみを揉みはじめ、それが徐々に、精緻なレース刺繍をほどこした純白のカ
ップに変わっていく。
「優しい感触、感じたい…。」
 甘い女性のナレーションに合わせて、下着メーカー・フローラのトレードマークとジェンヌという商品名がフェードインす
る。
 
 その日、早朝から流れ出したエロチックなCMに日本中が騒然となった。
「おい、あのCM見たか?」
「見た見た、あの乳首が立ってくるやつだろう。」
「いきなり、ナマ乳がどアップで写るんだからな。」
「俺、興奮しちゃったぜ。」
「あんなの流して大丈夫なのかね。」
 あちこちで男性達の好色な会話が交わされる。エッチではあるが、映像全体がきれいに仕上がっているために、女性
達も「きれいね」など話題にし、その評判も悪くない。
 テレビCMと同時に、街の巨大な広告塔にも、駅ホームや電車の吊り広告にも、あちこちにフローラのポスターが張り
出された。こちらは乳房を手ですくい上げている写真で、正面からのものと横からのものの2パターンあるが、いずれも
ツンと尖った乳頭が写っている。同じデザインの広告が、新聞や雑誌にも掲載された。
「フローラのCM、大評判よ。駅や電車のポスターが張っても張っても、盗まれてたいへんだって。」
「恥ずかしいわ…、私、あんなことするなんて聞いていなかったから…」
 汐理は、上機嫌の美津子に非難を込めた視線を投げた。胸を出すことは聞いていたが、乳首を転がしたり、乳房を
揉みしだくというのは台本にはなく、リハーサルでもなかったことだった。
 リハーサルではADの女の子が胸の膨らみを軽く手で押さえる程度だったものに、本番ではディレクターの藍本百合
子が自分で汐理の乳房に触れ、愛撫するような手の動きを撮影させたのだ。しかも、CMでは編集されているが、乳頭
が完全に勃起するまで、実際には結構長い時間百合子の愛撫を受けていた。
「百合子のアドリブよ。彼女は名前どおりレズっ気があるから、可愛い女の子を見ると、つい手を出しちゃうのよ。」
 眉をひそめながらも、あまり怒った様子もなく、むしろ楽しげに美津子がそう言う。彼女にしてはめずらしく軽い口調
だ。何はともあれ、汐理のCMが話題を集めているのがうれしいのだろう。
「でも、汐理も気持ち良かったんじゃない?胸の先っぽを撫でられた時、あなた、うっとりした顔してたわよ。」
「うそです、そんなっ!」
 汐理がムキになって否定する。百合子の巧みな愛撫は、汐理の身体にゾクゾクするような快感をもたらし、それが乳
首の変化になって現れたのは誰の目にも明らかだったが、汐理自身はけっして感じたことは認めたくなかった。
「冗談、冗談。百合子には、きつく抗議しておいたから。」
 しかし、そう言う美津子の口調に、いつものような真剣さが見られないことに、汐理は強い不満を感じた。
 
 当然と言えば当然のことながら、フローラのCMは「良識ある大人たち」やフェミニスト団体から厳しく追及され、1週間
ほどで放送禁止になってしまった。
 しかし、巷の大騒ぎはいっこうに収まらなず、フローラのポスターやCMを録画したビデオはネットオークションで思い
もつかない高値がついたりした。話題は自然、あのモデルは誰かという話に収斂していき、有名なモデルやタレントの
名前があれこれ取り沙汰された。
 そんな最中、「とっておきセレクション」の収録を終えて、ATVの社屋から出てきた汐理は、いきなり十数名の芸能レ
ポーターたちにとり囲まれた。
「フローラのCM、汐理ちゃんじゃないかという情報があるんだけど、本当かなぁ?」
 スーツを着た中年男がマイクを突き出す。砂山悟というベテランの芸能レポーターだ。「突撃レポート」と称して、幾多
の芸能人のプライバシーを遠慮なく暴き、芸能レポーターと言えば「砂山」と言われる地位を築いている。特に、若い女
性タレントには容赦がなく、インタビューで泣かした娘の数は数えきれない。
「えっ…、わ、私…」
 いきなり突っ込まれた汐理は真っ赤になって、しどろもどろになる。
「否定しないということは、まさか、本当なのかな?ホントに、CMでオッパイ見せちゃったの?」
 砂山が意地悪く追及してくる。機関銃のような質問に加えて、言われていることが事実だけに、汐理は何と言えば良
いのかわからず、パニックになった。顔から火が出るような思いで、唇は震え、何も答えられないまま、じわりと涙が浮
かんでくる。そんな彼女の様子をテレビカメラが克明にとらえていった。
 その時、レポーターの群から連れ出そうと、美津子が汐理の手を引いた。
「今は何も言えません。後で、正式にコメントさせていただきます。」
 美津子は毅然とした調子でそう言うと、汐理を背中にかばうようにして、レポーターたちをかき分け、待っていた車に
乗り込んだ。
「美津子さん、どうしよう…、私だってわかっちゃった。」
 発進した車の中で、汐理は今にも泣き出しそうな顔を美津子に向ける。
「大丈夫、当てずっぽうに決まってるわ。フローラ側にも、代理店にもモデルがあなただということは伏せてあるし、CM
ディレクターの百合子をはじめ関係者には口外禁止にしてるのよ。百合子と私は古いつきあいだし、絶対に秘密は守
る人よ。」
「なら、いいんだけど…」
 汐理は不安そうに車の後ろを振り返った。レポーター達の姿は遠くなっていたが、まだ震えが止まらなかった。
 それが最初だった。話題のCMに出演しているのが汐理だという噂が急激に広がり始めたのだ。噂の最初の出所
が、インターネット上だという話があったり、テレビ局でどこかのプロデューサーが漏らしたのだという話があったり、汐
理自身が告白したという話があったりで、「噂の出所はどこか」ということもネタになって、週刊誌やワイドショーが面白
がって取りあげ、汐理の知名度は一気に上がった。知的で清楚なイメージで売り出した彼女だけに、エロチックなCMと
のギャップが、この上ない話題を提供したのだ。ATVは、温泉中継で汐理が転んだ姿を何度も放送した。乳首は見え
ていないものの、胸の膨らみがのぞくその映像と、フローラのCMを続けて流し、無責任なお笑いタレントが「同じだ」と
か「違う」とか好き勝手な議論をする番組もあった。
 さらに、悪いことに、芸能レポーターに囲まれた時の汐理の狼狽ぶりが、あちこちの局で何度も放送され、噂を根拠
づけるものだとして取りあげられたのだ。
「大丈夫よ、放っておけば噂は収まるわ。今、あわてて下手に反論のコメントを出したりすると火に油を注いで、泥沼化
するだけよ。」
 美津子は平然とそう言い、ATプロモーションは、一向にコメントを出そうとしなかった。しかし、後で正式にコメントする
と言った事務所側が、まったく動こうとしないことが、かえって憶測を呼び、騒ぎを大きくしているような気がする。汐理
が、事務所の対応に対してそんな疑いを持ち始めた時、やっと、ATプロモーションは否定のコメントを出した。
 「フローラのCMのモデルが当事務所所属の水沢汐理だとの噂がありますが、それは事実ではありません。」という、
ごくあっさりしたコメントだったが、それをきっかけにCMの話題は峠を越していき、結局、モデルは不明のままというこ
とで落ち着いた。
 この一件は、汐理のマスコミへの露出を飛躍的に増やした。もともと「時代の寵児」土本創児の目にとまった彼女は、
露出の機会さえ与えられれば、急速に人気を獲得していく魅力を持っていた。特に、砂山に攻められた時の泣き出しそ
うな顔が、「守ってあげたい」「いじめてみたい」という両方のファン心理をかき立てた、「もしかしたら、やっぱりモデルは
汐理かもしれない」という空気もプラスに働いて、汐理の人気は急激に高まっていった。
 
 そんなある夜のこと、美津子は事務所に一人残って、架かってきた電話の相手と話をしていた。
「さすがね。CMもバッチリだったけど、情報をリークするのもずばりのタイミングだったわね。」
「美津子に言われるとおり、ATVの山本ちゃんに協力してもらったからよ。砂山も今回は、良い働きをしてくれたしね。」
「汐理がブレイクしたら、あなたにもたっぷりお礼をしなくちゃね。」
「ふふふ…、それなら一度、あの子を抱かせてくれない。あれ以来、あのオッパイの揉み心地が忘れられないのよ。な
めらかでしっとりした肌、私の手にスッポリ入ってしまう大きさなのに柔らかくて…」
「ホント、百合子ったらビョーキね。でも、いいわ。一晩だけならね。」
「やったぁ!」
 電話の相手、藍本百合子は心からうれしそうな歓声をあげ、美津子も楽しそうに笑った。
「でも、その前に、汐理をビッグにするためには、もう一人味方につけなきゃならない人がいるのよ。」
 美津子はニヤリと笑って、汐理のスケジュール帳を開いた。
 


 
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