第13章 九の一拷問
 
 旅籠についたお蘭は、湯殿で汗を流していた。
 ザバッ!
「!」
 怪しい水音にハッと振り返ったお蘭の目に、いきなり湯船の中から現れる黒ずくめの忍者の姿が飛び込んで来た。忍
者はお蘭を羽交い締めにし、その口を押さえる。
「ウッ!」
 とっさのことに呻き声をあげたお蘭だったが、そこは手練れの九の一。むざむざ押さえ込まれたりはしない。
「グッ!」
 次に声をあげたのは、黒ずくめの男だった。強烈な肘鉄が男の脇腹を遅い、スルリと身を翻したお蘭によって腕をね
じ上げられてしまう。
「さすがだな、胡蝶のお蘭。」
 お蘭の正面に別の人影が現れた。仙人のような格好をした男だが、その目は仙人にはほど遠く、現世の欲得にギラ
ギラ輝いている。
「おのれ、蟇魔石聚斉。」
 石聚斉の手がサッと空を切った。途端に、強烈な眠気がお蘭に襲いかかった。
「ううぅ、しまった…」
 お蘭はガクッと膝をつき、その場に崩れ落ちた。
 
「カット!」
 演出を担当する岡崎謙二の声がスタジオに響いた。
 とたんに、今まで冷酷非情で怪しげな表情を浮かべていた石聚斉の顔が崩れ、スケベな中年男のニヤついた笑いが
浮かぶ。
「いやあ、朱美ちゃん、噂どおりのナイスバディだね。いい目の保養をさせてもらったよ。」
 軽薄なその声は、演技中の声より1オクターブ高い。お蘭役の朱美は慌てて胸と下腹部を手で庇い、時代劇の悪役
で有名なその俳優、山名伸男の顔を睨んだ。
 朱美はこの湯殿でのシーンを全裸で演じていたのだ。もちろん放映する時は編集されて乳房やお尻、股間がテレビ
に映ることはない。
「二週続けて、売り出し中のアイドルの全裸撮影をOKするなんて、さすがATプロだな。仕事に賭ける熱意が違う。」
「恐れ入ります。」
 西郷がすっかりご満悦の表情で言うと、側にいた炭谷が大きな体を曲げて、ていねいに頭を下げた。
 「楽翁漫遊伝」が収録されるATV緑が丘スタジオの楽屋に入った朱美は、いつものように、着ている物を全部脱ぐよ
う、炭谷から指示された。これも、いつものとおり、しぶしぶ全裸になり、楽屋で本番の収録時間を待っていると、いきな
り数人の撮影スタッフが、どやどやと楽屋に入ってきた。そして、嫌がる彼女を一糸まとわぬ姿のまま、スタジオに引っ
張って来たのだ。
 目に涙をためて怒り、抵抗する朱美を、プロデューサーの原島、演出の岡崎、炭谷が3人がかりで、脅したり、すかし
たりして、やっと全裸撮影にこぎ着けるまで、たっぷり1時間はかかったのだが、その間、「楽翁」の専制君主といってい
い西郷はドリンク片手に、ディレクターチェアーに腰掛けてその様子を楽しんでいた。
「さあ、次のシーンの撮影、いこうか。」
 短い休憩の後、岡崎がそう言った。
 湯殿のセットの隣には、薄暗く恐ろしげな牢獄のセットが組まれている。次のシーンは、殿様がお蘭に託した秘密を
白状させるため、石聚斉が彼女に激しい拷問をくわえるシーンなのだ。
 ADが朱美の両手首を縄で縛り、天井から垂れ下がっている鎖を引き下ろして、先端についていた金属製のフックに
縄をかけた。他のスタッフによって鎖が引っ張られると、朱美の手が徐々に頭上に上がっていき、体が宙づりになる寸
前で止まった。
「あっ、朱美ちゃんの衣装まだですよ。」
 全裸のうえにローブを羽織っただけの朱美の姿を見て、1人のADが江戸時代の女囚の服を持って駆け寄った。朱美
に着替えさせるため、頭上に高く上がった手首の縄を苦心して解こうとするADに西郷が言った。
「縄を解く必要はない。そんな安物のローブ、ハサミで切って、裸で撮影すればいいだろう。」
「えっ!」
 驚くADの声と不安げな朱美の声が重なる。西郷はニヤニヤ笑いながら言葉を続ける。
「湯殿のシーンだって全裸で撮影したんだ。拷問シーンも全裸で構わんだろう。」
「なるほど、そうですね。その方が拷問の厳しさもよく表現できますしね。」
 岡崎が西郷に媚びるように言い、続いて炭谷の方を向いた。
「いいだろう?炭谷ちゃん。」
「もちろん、結構です。」
「ちょ、ちょっと!勝手に決めないでよ!」
 朱美は怒りに震える声で抗議する。しかし、そんな声など全く無視して、ADの手でローブにハサミが入れられた。布き
れがハラリと床に落ち、朱美は全裸でスタッフの前でさらし者にされてしまった。
「いやあ、たまらないねぇ。あれだけ大きいのに、形もきれいで、プリプリしたオッパイ。」
 西郷の横に並んだプロデューサーの原島が、今にも朱美の乳房にむしゃぶりつきそうな様子で言った。
「俺、今度の新番組で、歌番組をやることになったんだが、彼女を司会に起用することを決めたよ。」
「バッチリあんたの好みだからなぁ。俺はもう少し楚々とした娘の方が好きだがね。」
 そう言う西郷の脳裏に、水沢汐理の姿が浮かぶ。
「さあ、鞭打ちのシーンだ。」
 リアリズムを追求する岡崎の演出で、石聚斉役の山名が朱美の背中を本当に鞭で打とうとする。
「ちょっと待ってください。本当に鞭で打つのは勘弁してくださいよ。」
 そう口を挟んだのは、炭谷だった。
「どうしてだね?」
 岡崎と山名が声をそろえてそう言い、険しい表情で炭谷を睨む。しかし、炭谷は一向に動じなかった。
「朱美は絶対に肌に傷をつけちゃあいけないってのが、社長の指示なんですよ。」
「ATプロの社長が言うんじゃあ、しかたないだろう。」
 なおも不満そうな顔を見せる岡崎と山名に向かって西郷が言った。いくら芸能界では大物と言っても、政財界にまで
影響力を持つAlfred Tylerに逆らうつもりは毛頭ない。
「でも、リアリティがないとなぁ…」
「それじゃあ、これならどうだ?」
 なおも不満そうな岡崎に、西郷が提案する。
「浣腸するんだよ。朱美に浣腸して、耐える様子を撮影すれば、肌に傷をつける心配はないし、苦しそうな表情になるか
ら、リアリティが出てくるだろう。」
「イヤっ!絶対イヤ!」
 「浣腸」と聞いて、朱美は縛り付けられた体を使って全身でイヤイヤをした。浣腸されるぐらいなら、本当に鞭で打たれ
た方がマシだった。しかし、そんな朱美の意向などまったく無視して、岡崎も炭谷も浣腸を了解した。
「俺にやらせてくれないか。」
 そう言って前に進み出たのは原島だ。浣腸器を手にしていたADは、憧れのグラビアアイドルに浣腸するという、滅多
にないチャンスを取りあげられてしまい、少し不満そうだったが、相手がプロデューサーではしかたない。
 原島は、ADから浣腸器を受け取ると、洗面器に入った薬液を吸い上げる。浣腸器にたっぷり200ccの薬液が入っ

「お願いですっ!そんな事しないでぇっ!」
 原島は朱美の哀願など聞こえぬように、これから浣腸されて狂乱する彼女の姿を想像して、淫猥な笑みを浮かべて
いる。
「覚悟はいいか?」
「イヤっ!イヤよぉ…、ああ、お願い…」
 朱美は肛門に冷たい物が当たるのを感じた。
「キャアッ!」
 肛門に異物が入ってくるのを感じた朱美は恥辱と恐怖に貫かれ、大きな声で悲鳴をあげた。
「大人しくしていないと、浣腸器がお尻の中で割れてしまうぞ。」
 そう言って脅しながら、原島は浣腸器のピストンをグッと押し込む。
「ううっ…」
 腸の中が逆流してくるような感覚に、朱美は声をなくした。
「どうだ、ほら、どんどん腹が膨らんでいくぞ。」
 原島はゆっくりと浣腸液を送り込みながら、朱美を嬲るように言った。
「もうダメ…、もうヤメてぇ…」
 半分ほど入ったところで、朱美が苦しそうな声をあげる。これ以上入れられると腸が破裂してしまいそうだ。しかし、原
島はためらいなく浣腸液を注入しつづける。
「あともう少しだ、ガマンしろ。」
 原島は冷酷にそう言って、薬液を最後の一滴まですべて朱美の中に送り込んだ。
「うう…く、苦しい…」
 朱美がもじもじと腰を動かして、苦しげに呻く。
「撮影中に漏らさないようにしないといけないな。」
 そう言うと、今度は岡崎がゴム製のベルトのような物を持って、天井から吊り下げられるように縛られている朱美に近
づいて来た。
「これをしておけば大丈夫だ。」
 岡崎が手にしていたのは、アナルストッパーだった。岡崎はアナルストッパーを朱美の股間に持っていき、ベルトにつ
いている突起をきっちり肛門に差し込むと、外れないようにベルトを腰の部分で固定した。こうすると、排泄の自由が奪
われるのだ。
「これでガマンしやすくなっただろう。これを外さない限り、出したくても出せないからな」
 早くも浣腸が効いてきたらしく、グルグルッと朱美の腸が暴れる音が響く。朱美は苦悶の表情を浮かべて身をよじり出
した。
「よし、撮影スタート!」
 岡崎の声が響き、山名が朱美の後ろに立って鞭をふるう。鞭は空を切り、朱美の体には届かず床をたたくのだが、
激しい便意に耐えて身悶えし、呻き声をあげる彼女にカメラのピントを合わせると、拷問シーンができあがった。
「うっ…、ううう…」
 朱美は苦しげな声を洩らして身悶えする。その額には脂汗がにじんでいる。
「まだ、何か足りないなぁ。」
 岡崎が首を捻ると、西郷がそれに答えた。
「鞭の動きと朱美の体の動きが噛み合っていないからじゃないか?」
「よし、石聚斉の鞭の動きに合わせて、朱美の体を揺らしてやれ。」
 再びカメラが回り始め、岡崎の指示を受けたADが、山名の鞭に合わせて、朱美のお腹を押して体を揺らす。
「ああぁーっ!」
 ただでさえ激しい腹痛と便意に耐えているのに、お腹を押されてはたまらない。朱美は叫び声を上げ、苦悶の表情を
浮かべて身をよじった。
 ビシイッ!
 再び鞭が床を叩き、ADがお腹を押して朱美の体を揺らす。
「あうっ!うぐぅ…」
 朱美が涙をポロポロこぼし、苦しげな声を上げる。猛烈な便意が彼女に襲いかかり、全身から脂汗が滲み出してい
る。
「これだ、これだ。」
「おおっ、いいな。」
「拷問シーンらしくなってきたじゃないか。」
 岡崎、原島、西郷が満足そうにうなづき合う。
 
 文字通り拷問のような撮影がようやく終わった。
「お願い…、もう駄目…、トイレに…、行かせて…」
 そう言う朱美は、もはや息も絶え絶えになっている。
「そろそろ限界だな。」
 暴虐ショーを楽しんでいた西郷が、ポツリと言った。
「お願い、お腹、痛い…、早くぅ!お願い…」
 キリキリと切り込むような腹痛が波のように押し寄せてくる。早く排泄しないと死んでしまいそうだ。朱美はうわごとのよ
うに哀願を繰り返している。
「よし、それじゃあ、準備してやろう。」
 そう言って岡崎がADを呼び寄せ、耳打ちすると、ADはビニールシートを持ってきて、スタジオの床に敷き始めた。
「イヤッ!トイレ、トイレに行かせてっ!」
 ビニールの意味を悟った朱美は、半狂乱になって哀願する。しかし、その場にしゃがむことができるよう、天井から下
がる鎖は緩められたものの、両手を縛る縄が解かれることはなかった。
「よし、じゃあ、外すぞ!」
 岡崎の合図で、ADが朱美の腰のベルトをスルリと外す。アナルストッパーが菊蕾から抜けて床に落ちた。
「あっ、駄目ッ!ああぁーっ!」
 朱美がスタジオ中に響く声をあげた。
 大勢のスタッフが見守る中で、グラビアアイドルの排泄が始まった。
 


 
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