「芸能人スポーツ大会」の第１日目が始まった。
前の日から泊まっている新人達は、ＡＴプロモーションが所有するホテルのような宿泊施設で着替えて、水着姿でメイ
ン会場となっているビーチに向かった。
朱美は真っ赤なビキニを着ていた。胸のカップが少し小さめなので、豊かなバストがより強調されている。ボトムもハ
イレグでとにかくセクシーだ。明るい日差しのもと、自慢のボディがこのうえなくまぶしく見える。
汐理が着ているのは、ネイビーブルーのワンピースである。他のアイドルたちに比べると地味な水着だが、目に痛い
ほど色白の汐理が着ていると、瑞々しく、清楚な色気を感じさせる。背中が大きく開いているのもポイントだ。
清香は黄色の花柄の可愛いビキニを着ていた。水着姿自体はそう目立つわけでもないが、何しろ赤丸急上昇中の新
人アイドルということで、みんなの注目を集めている。
「夏だ！！ 芸能人スポーツ大会っ！」
カメラが回り始めると同時に、砂浜にセットされた舞台の上で、番組名でもあるこのイベントのタイトルを絶叫したの
は、今やバラエティ番組の司会として欠かせない存在になっている草柳しげるだ。
アシスタントは「とっておきセレクション」のメインパーソナリティを汐理に譲った、モデルでエッセイストの神崎亜弓がつ
とめる。小麦色に日焼けした肌に白いワンピースが健康的なお色気を感じさせる。
「そして、スポーツ中継と言えば、何と言ってもこの人ですよね。」
しげるがそう言って、一呼吸置き、もう一人の司会者の名前を呼んだ。
「新山慎吾さーん！」
「さあさあ、青い珊瑚礁のもと、芸能人たちがほとばしる情熱をぶつける、大、大スポーツ大会だぁ！」
マイク片手にオーバーな表現で実況中継をしながら現れた新山慎吾は、スポーツ中継やバラエティ番組に幅広く活躍
しているフリーのアナウンサーである。
スポーツ大会は順調に進んでいく。
男性たちの見せ場は競泳と、島の施設をフルに使ったトライアスロンだ。アイドルグループの一員で、小中学生から
おばさんまで幅広い人気を誇る木戸雅也が自由形レースで優勝した。ラスト５メートルのところで、それまでトップを泳
いでいた元野球選手がいきなり失速してしまったところが、「いかにも」ではあるが、表彰台でガッツポーズを決める雅
也は誰より絵になるのだから仕方がない。
女性たちは、水着姿でいろんなゲームにチャレンジして、視聴者の目を楽しませる。「大会のクイーン」といった扱いを
受けているのは、トップアイドルの高杉愛だ。そして、人気絶頂の４人組アイドルユニット、トルテ・ギャルズのメンバー
が花を添える。清香、朱美、汐理の３人も負けず劣らず、可愛く、魅力的なところを見せたのだが、今のところ格からい
って、オンエアでは高杉たちを中心に編集されるだろう。
また、所々でお笑いタレントたちが活躍して、ウケを狙う。
その間、応援合戦を繰り広げたり、ゲームのＢＧＭがわりに使われる歌を収録するために、歌手たちが交代でステー
ジに上がった。
「清香ちゃん！」
休憩時間、清香は天野優姫に声をかけられた。
（あっ、いやだな…）
優姫と最初に会ったのはデビュー曲の録音の時だ。その後、何度か仕事で一緒になったが、その度に彼女にはチク
チクと嫌みを言われている。そんな優姫に声をかけられ、とっさにそう思った清香だったが、意外なことに、今日の優姫
は上機嫌で清香に微笑みかける。
「明日は頑張ってね。」
「えっ？」
そう言えば、同じように意味不明のことを何人かに言われたのだが、清香には理解できなかった。
「は…、はい…」
曖昧に返事をすると、優姫はまたもやニッコリ笑って、去っていった。
（まあ、気にすることはないわよね。）
そう思って、強いてそれ以上、気にしないように心がける清香だった。
クライマックスはビーチで行う騎馬戦だ。男性３人が馬を作り、女性アイドルが乗る。騎手が頭にかぶっている帽子を
取られたり、馬から落ちたら負けだ。
ホイッスルの音とともに、横一列に向かい合って並んだ騎馬の列が崩れていく。
積極的に攻めに行くもの、時間いっぱい逃げ回ろうとするもの、それぞれの思惑で騎馬が入り乱れる。
揉み合っている女性のビキニが外れ、乳房がプルンとこぼれ出た。胸を押さえて騎馬から滑り落ちるのは、椎葉菜摘
というＡＶ女優である。アイドルばりの可愛いルックスの持ち主なのだが、一般の映画に出演した時に演技力のなさを
露呈し、からみ以外は学芸会並みと酷評されている。これは、ハプニングというよりは、シナリオどおりの「お約束」であ
る。
朱美を乗せた騎馬がカメラの影に回った時、左の馬をやっていた俳優の大久保潤二の手が朱美のお尻を撫でた。
「キャッ！」
担ぎ上げられて逃げられない状態なのを良いことに、右のベテラン歌手吉田宗典と一緒に、朱美のヒップを撫で回
す。
「ちょっと、やめてくださいっ！」
朱美が怒った声で言うと、２人はニヤニヤ笑いながら、手を引っ込めた。
「今日はこれぐらいにしておこうかな。」
宗典が言うと、潤二が朱美に向かって、言った。
「明日は楽しみだね。」
閉会式に合わせて、トライアスロンに参加していた男性タレントたちがゴールしてきた。先頭は、海外のマラソンにもた
びたび参加している、若手シンガーソングライターの坂本俊平だ。これは、スポーツ選手から転身したタレントたちと実
力で競い合った結果であり、息を切らしてビーチへ駆け込んでくるところは、なかなか感動的なシーンであった。出場者
がみんな拍手で彼を迎え、こういうシーンに弱い朱美などは、思わずもらい泣きしてしまっている。
このように初日は、多少のハプニングやセクハラまがいの行為もあったが、基本的には、健康的で楽しいスポーツ大
会となった。
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