国防省附属「星園・癒しの館」
 
第4章 非日常の中の日常 3
 

 夜7時になると、茉莉、由香、琴美の3人は一緒に正門を出た。
 星園高校はもともと小さな城跡に建っており、正門を出ると幅の狭い空堀がある。「癒しの館」になった時、そこに水を
引き込んで、緑の水をたたえた堀を渡って敷地に入るようにしたため、そこを訪れる者にとっては、まさに別世界に入
る橋を渡る趣になっている。
 橋を渡ると一転して、商店と住宅が混在するどこにでもあるような町並みに出る。町並みをまっすぐ100メートル程行
った所に、建ったばかりのマンションのような建物が見えていた。これが、茉莉たち女生徒、すなわち「癒しの館」の慰
安嬢たちが住む寮なのである。
 当初、敷地内に寮を作る計画だったのだが、できるだけ普通の学校生活を残すことにこだわった諸藤館長が、女生
徒たちの「通学路」を作りたいと主張して、わざわざ敷地の外の、少し離れた所に寮を作ったのである。そのために、十
数軒の民家が立ち退くことになったが、有事法制が発動している今、国防省が使用するとなれば、有無を言わせること
なく、ただちに強制的に収用することが可能であった。
一方で「お客」や教師たちの利便のため、校舎内から寮に直接行ける地下通路も作られていたが、女生徒たちは、普
通は「通学路」を通って登下校する規則になっている。
「今晩は。今下校かね?」
 会社帰りのサラリーマンらしい中年男が声をかけてきた。やせ形で穏和そうな表情の男は、「通学路」に面するどこに
でもありそうな木造二階建ての家に、最近引っ越してきた住人だ。
「はい。」
「今晩は。」
 しつけの良い茉莉と、気丈な由香は返事を返したが、琴美はそんな気になれないのか、哀しげな顔をして黙ったまま
だ。父親を思い出させる男の顔を見ながら、この人はこの「学校」で行われていることを知っているのだろうかと、茉莉
はふと考えた。
 少し行くと、コンビニがある。
「あっ…、買い物しなきゃ…。」
 由香はそう言うと、複雑な表情を浮かべて2人に言った。
「ねえ…、つきあってくれる…」
「ごめん、7時半には来ちゃうから…、シャワー浴びとかないと…」
 そう言う琴美の声は震えて、今にも涙声になりそうだ。
「私、8時までに戻ればいいから、一緒にいくわ…」
 茉莉がそう答えると、2人は琴美と別れてコンビニに入って行った。
「いらっしゃい。」
 自動ドアが開き、入ってきたのが星園の女生徒だと見ると、店にいたアルバイト学生風の2人の店員はニヤニヤと意
味ありげな笑みを浮かべて、声をかけてきた。ジロジロと全身を舐めるように見つめる視線を感じながら、由香と茉莉
は必要な物を手早く選んでカゴに入れてレジに運ぶ。
「はい、2950円ですね。」
店員は期待を込めた笑みを浮かべてこっちを見ている。茉莉と由香はお互いの顔を見てうなづき合い、二人同時に身
分証明書を差し出した。途端に、店員たちは顔をつきあわせて証明写真をのぞき込む。
「うひょーっ、見ろよ、ホントにこの娘の裸だぜ。」
「身分証の写真ってひどいのが多いけど、結構、グラビア並みの写りだよな。」
「ダウンロードしとこうぜ、ダウンロード!」
 由香と茉莉は2人でレジから視線を外し、できるだけ知らん顔をしていた。しかし、男たちに自分の裸の写真を見られ
ていると思うと、どうしても顔が熱くなっていく。
「おおっ!モロだぜ、モロ!」
「すげぇ、この娘のオ××コ、こんな形してんのか!」
「ダウンロードだあっ!」
「オ××コ写真のコレクション、これでちょうど15人目だよ。」
 目の前で恥辱に唇を震わせている美少女と、あられもない秘部の写真を見比べながら、男たちは大はしゃぎしてい
る。
やっとのことで、ひったくるように身分証を返してもらうと、茉莉と由香は大急ぎで店から飛び出した。
「恥ずかしかったね…。」
「うん…。」
 それだけ言うと、2人は黙り込んだ。現金を一切持っていない彼女たちは、買い物をする度にこうした辱めに遭う。せ
めて、買い物はこのコンビニだけにして、できるだけまとめ買いをし、1人では行かないというのが、彼女たちなりにでき
る自衛策だったが、恥ずかしいことに変わりはない。
そうこうしているうちに、寮に着いた。地上5階建てに地下1階がある建物の外観は、洒落たレディスマンションといった
感じだ。中に入ると、広めのロビーがあって、郵便受けとともに靴箱があるのが寮らしい。
「次はブラだろ、早く脱げよ!」
 乱暴に命令している男の横で、ブラジャーとパンティだけを身につけた琴美が泣きじゃくっていた。
「全部脱いで靴箱の中に入れろよ。素っ裸で寮の中を案内してもらうんだからな。」
 2人は琴美を心配そうに見つめた。星園では、常に恥ずかしい責めから逃れることはできない。女生徒たちにできる
ことは、お互い励まし合うことぐらいだ。琴美も2人の視線に気がつき、キュッと唇を噛むとブラを外した。女の子が見て
もうっとりするぐらい、大きく、そして形の良い乳房がこぼれ出る。
「茉莉、急がないと…」
 由香に言われて時計を見ると、もうすぐ8時になろうとしている。コンビニの買い物で思わぬ時間をくってしまったよう
だ。茉莉は急いで3階にある自分の部屋に駆けていく。
 ドアノブに手をかけると、ガチャリと音を立てて開いた。出かける時にはきちんとかけていったはずの鍵が開いてい
る。茉莉は表情を曇らせ、深いため息をついて部屋に入った。
寮の部屋には、茉莉が家で使っていた家具や持ち物がそっくりそのまま持ち込まれており、レイアウトも茉莉の自宅そ
のままに置かれている。小学校に入学した時に買ってもらい、大切に使ってきた机に、30台半ばぐらいの男が腰をか
けていた。少し早めに部屋に着いたらしく、暇つぶしに引き出しを勝手に開け、茉莉の持ち物を覗き見していた様子
だ。一瞬、ムッとして男を睨み付けたが、口に出して抗議することはできない。「女子高生の部屋」を覗き見させることも
「癒しの館」が提供するサービスの一つなのだから。
「遅くなりました。安藤茉莉です。私の所に来てくださってありがとうございます。」
 茉莉が床に正座して声をかける。
「おっ、やっと帰ってきたな。」
 男はニヤニヤ笑いを浮かべて、茉莉に近づいて来た。ポロシャツにジャケット、コットンパンツ姿の男は、ハンサムと
言えなくない顔立ちではあるが、見るからに軽薄で、そのくせに自惚れの強そうな、茉莉のもっとも嫌いなタイプの男で
ある。
「いやあ、写真でも可愛かったけど、実物はその何倍も可愛いね。」
(…いやだな、こんな人…)
 目の前のにいる、下卑た笑いを浮かべる男に肌を触られ、抱かれることを想像するだけで、茉莉は泣きたくなってき
た。男の方はグラビア仕立てのカタログを見て、好みの女生徒を選べる。来てみて気に入らなければ、いくらでもチェン
ジ可能だ。一方、女生徒の方が相手を選ぶ術は、当然のことながら、全くない。部屋を訪れたのがどんな男であろうと
も身体を開いて受け入れ、精一杯奉仕しなければならないのだ。
「ホント、女子高生の部屋だよな、ここ。いやあ、最高だよ。」
 男が部屋のあちこちを見回す。茉莉は哀しげな視線を天井の一画に投げた。この部屋の様子は監視カメラで撮影さ
れており、24時間プライバシーがない。撮影したビデオを客たちに鑑賞させる目的もあるが、最大の目的は、部屋に
客を迎えた時に、慰安嬢たちがきちんとサービスしているかどうかをチェックするためである。恥じらいを見せたり、す
すり泣くぐらいならむしろ喜ばれるが、あまり嫌がって抵抗し、客が不満を持つようであれば、後できつい折檻が待って
いるのだ。
「よ…、よろしくお願いします…。」
 立ち上がった茉莉は、逃げ出したくなる気持ちを抑えて、うつむいたまま言った。
「キス…、してください…」
 パッと顔を上げると、つぶらな瞳で男を見つめ、震える声で言う。寮の部屋で「癒し」のサービスをするために「館」が
決めたシナリオは、キスをねだるところから始まるのだ。美少女の潤んだ瞳で欲情をかき立てられた男は、茉莉の肩に
手をかけ、彼女が目を閉じると、プックリした唇に自分の唇を重ねた。
「むぅ…」
 茉莉が眉根を寄せた。男の唇が彼女の唇を開かせ、舌が入ってきたのだ。反射的に身を引こうとしたが、肩と腰に回
された腕が華奢な身体をしっかりと抱き締めていて、身動きすることもできない。
 舌を絡ませ、ねっとりしたディープキスを楽しんだ後、男は茉莉の身体を少し離し、制服姿の彼女をしげしげと見た。
「ホントに女子高生だ。可愛い制服だね。」
「…、ありがとうございます…。」
 濃厚なキスのせいで、頭の芯がしびれたようになっている茉莉が、小さな声で答える。女の子が清楚で愛らしく見える
よう、一流デザイナーが計算し尽くした制服は、誰もが美少女だと認める彼女に、このうえなくよく似合っている。
「そうだ、スカートを捲くって、どんなパンティ穿いてるか、見せてくれよ。」
 男が粘りつくようないやらしい口調で命令する。茉莉はためらいながらも、スカートをゆっくり捲り上げた。
「そうそう、やっぱり、女子高生は白だよな。」
 男はねっとりとした視線を、少女の秘部を包み込んでいる純白のパンティに這わせて、次の命令をする。
「じゃあ、スカートとパンティを脱いでもらおう。」
 茉莉は震える指でスカートのホックをはずす。そして、ゆっくりとパンティをおろしていく。下腹部の繊毛が露わになる。
「おっ、オ××コの毛が見えちゃったぞ。」
 男がはしゃいだ声で言う。茉莉は頬が熱くなってくるのを感じながら、パンティを細い足首から抜き取った。上半身は
制服、下半身は裸というエロチックな格好となった茉莉をじろじろ眺めながら、男は命令を続ける。
「それじゃ、床に座って、脚をMの字に開いて、茉莉のオ××コを見せてくれよ」
設定されているシナリオでは、女生徒が裸になった後、お客をバスルームに連れていくか、その場でフェラチオの奉仕
をする。その後、ベッドの上でセックスすることになるのだが、お客の希望はシナリオよりも優先する。もちろん、女生徒
たちの気持ちや感情は全く考慮されることはない。
 茉莉は腰を落として目を閉じ、ゆっくり太腿を開いていく。
「きれいなオ××コだ…」
 今にも顔を埋めそうな様子で、男は感想を漏らした。既に少なくない男に踏みにじられたはずの秘苑だが、初々しい
ピンク色に輝いて、処女の頃の清らかさを少しも失っていない。
「あっ、イヤッ!」
 男は指先をクレヴァスにあてがう。あわてて茉莉は両腿をよじり、手を添えて中心部を隠そうとした。しかし、その手を
軽くはねのけられた。
「あ…い、いやあ…」
 茉莉の腰がブルッと震えた。折り重なった肉門がこじ開けられ、艶めかしいピンクの果肉が顔を出す。男はその部分
を指でまさぐった。たたみこまれた肉襞が抉り出され、花芯を嬲られる。
「…ひいい、ダメぇ…」
 茉莉が喘いだ。男の唇が女陰をとらえ、舌先が肉層を抉ってきたのだ。そうしながら指先ではクリトリスに微妙な刺激
を送り続ける。
 たまらなかった。見ず知らずの男の愛撫を受けて感じたくないという思いとは裏腹に、早熟な官能はひとりでに反応し
てしまう。
 とうとう我慢しきれなくなったらしく、男はズボンを脱いで茉莉を床に押し倒し、制服の上から執拗に胸を揉み躙った。
「あぁ…」
 茉莉は固く目を閉じて男の愛撫を甘受していたが、ふと目を開いた時、一枚の写真が床に落ちているのが見えた。男
が机を漁っていた時に落ちたのだろう。それは、那須信彦と一緒にテーマパークに遊びに行った時の写真だった。パー
クのキャラクターの横でおどけてみせる信彦と、幸せそうな笑顔を浮かべている茉莉…、つきあい始めたばかりで、キ
スさえ交わしたことのないボーイフレンドとの最初で、おそらく最後のデート…。茉莉の胸がキュンと痛む。
(那須クン…、あたし…、汚れちゃったぁ…)
 茉莉は心の中でそう呟くと、思い切り手を伸ばす。指先が写真に触れると、そっとそれを裏返した。涙があふれ出して
床にポタポタ落ちていく。
「あうっ!」
 欲情に猛り立った男の肉棒が、待ちきれないとばかりに茉莉の体の中に押し入ってきた。

「篠原先生、よく来てくれましたね。」
 部屋に入ると、岩田耕一がにっこり微笑んで近づいてきた。部屋の奥では、ソファに腰掛けた渡部嗣道がゆっくりと頷
いた。
「校長先生!」
「いえいえ、私はもう校長ではありませんよ。」
 美咲に向かって、渡部は穏やかに言う。
「そう、私たちの仲間です。」
 岩田が力強くそう言い、美咲は特別な感慨を持って、それを聞いた。
 渡部は校長として、卒業式で「国旗掲揚、国家斉唱」の時に起立しなかったことを理由に、岩田たちを処分した。岩田
を尊敬し、行動をともにした美咲も処分者に含まれている。
 こうした動きは、有事法制の整備が進むのに歩調をあわせて全国のあちこちで起きたが、横木高校では、処分され
た教師達を父兄が全面的に支持したことで、少し違う展開をたどった。父兄の多くは思想信条の問題というよりは、教
育熱心な岩田たちの人柄を支持したのだが、ともかくも、横木高校では、校長が教師、生徒、父兄に突き上げられ、と
うとう市長宛に処分撤回の上申をしていたのだ。それは、横木高校が「癒し館」になる直前のことであり、横木高校が国
防省に目をつけられた理由の一つはここにあったことが、その後の岩田たちの調査でわかっている。
「私たちは誇りを持って、自らの信条を貫きました。しかし、こうなってみると、もう少し、柔軟さが必要だったかもしれま
せん。」
「いや、私こそ、君たちの意見も十分に聞いて、学校を運営していればよかったと思っているんだ。」
「過去のことは過去のこととして、今は横木高校復活のために、みんなで一緒にがんばりましょう。」
 元教師たちは、国家による破廉恥な行為を社会に明らかにし、自分たちの学校と生徒を取り戻す決意を固め合う。
「そうそう、他にも私たちと一緒に立ち上がってくれる者がいるのだよ。」
 渡部がそう言い、隣の部屋に声をかけた。
 部屋に入ってきたのは、2年B組の担任だった前川晋吾だ。
「前川先生…?!」
怪訝な声をあげる岩田たちが前川に投げつけた視線は、歓迎からはほど遠いものだ。もともと、前川はしきりに校長に
取り入ろうとし、他の教師たちから腰巾着と陰口をたたかれていた男である。
「そんな顔をして見ないでやってくれ。前川先生も、いっしょに闘おうと決意してくれたんだ。そして、防衛隊から逃げてき
た男子生徒を助け出して、ここに連れてきてくれたんだよ。」
 そう言って、渡部は前川が部屋に連れてきた少年を指さした。
「那須っ!」
「那須君!」
 元教師達が口々に声をあげた。フサイン共和国に送られたはずの男子生徒、正義感が強い優等生、2年B組の那須
信彦がそこに立っていた。

 


 
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