国防省附属「星園・癒しの館」
 
第7章 遥かなる思い 4
 
 講堂の舞台でも、各学年とクラブの出し物が繰り広げられていた。1年生は制服で、ノーパンになってラインダンスを
踊り、ダンス部はスケスケのレオタードで、セックスを描写したとしか思えない前衛的な舞踏を踊った。演劇部の演じた
ラブシーンは、男役のつけた張り型を女役の少女が受け入れる、レズビアンショー以外のなにものでもなかった。
「次は、吹奏楽部の演奏です。」
 客席から大きな拍手が響いた。もともと星園高校吹奏楽部は、なかなかの実力だと評判が高く、例年の文化祭でも、
舞台のハイライトをつとめるクラブであった。
 ステージに制服姿の女生徒が十数人現れた。男子や慰安嬢にならなかった女生徒がいなくなり、人数が減ってしまっ
たため、他の音楽系クラブの部員で補充しているようだ。見慣れない部員を目にして、那須信彦はそう思った。彼自身
はバスケットボール部に籍を置いていたが、吹奏楽部のことはよく知っている。なにしろ、暇があれば、しょっちゅう顔を
出していたのだから…。
「茉莉…」
 信彦の視線は、クラリネットを持って椅子に座った美少女に向けられている。サングラス越しに見る彼女の様子は、
昨年と全く変わらない。今晩こそは告白しようと心に決め、そわそわと落ち着かない気分で演奏を見ていた昨年のこと
が、昨日のことのようにも、何十年も昔のことのようにも思える。
 信彦は額にかかる髪をかきあげた。長髪にサングラス、ルーズな服装、よく見なければ、誰も信彦だとは思わないだ
ろう。滝川の庇護のもと、情報部の一員として女生徒たちの前に堂々と姿を現わすことも可能だったが、彼自身がそれ
を望まなかった。滝川と諸藤との交渉で、自由に館に出入りできる立場を獲得しながら、わざと人目につかないようにし
て、茉莉たちの様子をうかがっている。
 指揮者が一礼して、指揮棒を構えた。部員たちが、楽器を構える。
「おおっ!」
 客席のあちこちで、小さな驚きの声が漏れた。
 吹奏楽器のマウスピース、打楽器のバチがすべてペニスの形になっているのだ。プラスチック製の砲身は反り返り、
クネクネと走る皺とブツブツとした突起がそこら中に刻まれている。
 茉莉のクラリネットも、吹き口に陰茎そっくりのパーツが取り付けられ、それをくわえる姿は淫らな妄想をかきたてる。
 曲が始まった。演奏のレベルは格段に上がっている。昔の高級娼婦さながらに、セックス技術だけでなく、音楽の訓
練もされているからだ。しかし、しばらく見ていると、演奏よりも、彼女たちが見せる仕草にいやがおうでも目を奪われ
る。女生徒たちは、演奏をしながら、楽器に取り付られた擬似男根を、フェラチオするようにしゃぶっているのだ。
「見ろよ、あの右のクラリネットの子の舌使い…」
 防衛隊の制服を着て信彦の隣に座っていた男が、連れの男に言った。男が指さしたのは茉莉だ。休符が続く間、愛
らしい唇から舌を出し、マウスピースに這わせて、丹念に舐め上げている。唇をすぼめたり、先端をちろちろ嘗めたり、
見ているだけで暴発しそうになるほど淫靡な光景だった。
「可愛い顔して、エロいなぁ。」
 連れの男もそう言って、ニヤニヤ笑いながら茉莉の方を見ていた。茉莉はマウスピースを口に含んでいく。頬をすぼ
ませ、内側の粘膜で擦りあげる。
「咥え込んだ表情も最高だな。」
「頬が動いてるぜ!俺もしゃぶってもらいたいな。」
 男たちの会話に、信彦は思わず耳を覆いたくなった。 
「あの娘、相当、教育が行き届いてきたようじゃないか。」
 舞台に目をやったまま、隣にいる諸藤館長にそう言ったのは、自政党幹事長の須崎晋次である。最前列に設けられ
た来賓席に普段着で座り、目立たないようにしているが、左右にいるがっしりした男たちは、まぎれもなくシークレット・
サービスだ。憲法や教育法を改正し、徴兵法を成立させ、来月にはおそらく、この国の最高権力者となる男だ。「自由
がきかなくなる前に、息抜きをされては…」と、諸藤が文化祭に招待したのである。
「教育は重要だ。以前は権利ばかり教えて子どもをダメにしてきたが、教育法を改正し、義務や国家に対する献身を教
えるようになって、随分良くなってきた。昔の戦争では、特攻隊を志願した若者がたくさんいた。自分の大切な命を投げ
打って、国家のために尽くそうとしたのだ。ああいう若者を育てるのが教育の本来の役割なのだ。」
 得意げに言う須崎に、諸藤は深々と頭を下げた。こうした須崎の言動を懸念する者は与党政治家にも少なくなかった
が、あえて反論する者は誰もおらず、すでに彼の総理就任は規定路線と言って良い。この国の言論は、とっくに死んで
いるのだ。
「この館でも、お国のために身も心も投げ出す娘を育てております。引き続き、先生のご支援をいただければ、幸いで
す。」
「そのようだな、あの娘の様子を見れば、よくわかる。」
 須崎の表情が緩んだ。自分が処女を散らした美少女が、陰茎そっくりのマウスピースを淫らに嘗め、しゃぶっている。
最初の時は、泣きながら羞恥に身を小さくし、須崎にされるままになっていた娘だ。
「後で、教育の成果を、じっくり試させてもらうとしよう。」
 須崎はニヤリと笑ってそう言った。一般国民が身も心も捧げるべき国家とは、すなわち自分のことだ、そんな驕りに満
ちた笑いであった。

「諸藤中尉!諸藤中尉はどこにいる!」
 そう叫びながら、足早に廊下を進む男がいた。元校長の渡部だ。女生徒たちの惨い姿を見て、とうとう堪忍袋の緒を
切った彼は、館の責任者を見つけて抗議しようと言うのだ。
「無駄ですよ、校長先生!」
 少し離れて追ってくる前川の顔には残忍な笑い顔が浮かんでいる。
「おっ、あれは…」
 渡部の足が止まった。廊下の突き当たりでゴミを拾っているのは、紛れもなく岩田だった。渡部は彼のもとに駆け寄っ
た。
「岩田君、連絡を待っていたんだよ。」
 いきなり話しかけてきた渡部を、人目をはばかるようにして、目立たない所に引っ張って行き、岩田は声をひそめて尋
ねた。
「校長先生、あれは、もう渡していただけましたか?」
「あれ?あれとは何だね?」
「えっ、まさか…」
 校長の反応に、岩田の顔が真っ青になった。
「『あれ』というのは、このファイルのことですかな?誰にお渡しになる予定だったのでしょうかな?」
 背後から、妙にのんびりした口調の男の声が聞こえた。振り返ると、地味な服装のサラリーマン風の中年男が立って
いる。手にはクリーム色のファイルを持っていた。
「渡部先生ですね。」
 口調はおだやかだが、どこかゾッとさせる声だ。一見、柔和な顔立ちだが、その目は冷徹な光を放っている。
「そうですが、何か?」
 できるだけ平穏な声を出そうとした渡部だったが、声が掠れ、少し上ずってしまう。
「お聞きしたいことがあります。私とともに、おいでいただきたいのですが。」
「あなたは?」
「滝川と申します。防衛隊情報部の者です。」

 2曲目になって、茉莉が舞台の中央、ちょうど指揮者の横に置いてある椅子に座った。映画音楽で有名になったロマ
ンティックなバラードが演奏される。
 曲が始まると、茉莉は楽器を床に置いて、細い指をブラウスのボタンに掛けた。一つ、また一つとボタンを外していく。
ボタンが全て外され、胸の谷間と双乳を覆い隠すブラジャーが観客の目に晒された。いきなり始まった美少女のストリ
ップを、観客は固唾を飲んで見つめている。
 フロントホックが外され、形の良い乳房がこぼれ出た。茉莉は、胸に集中する数え切れないほどの視線を感じ、茉莉
は頬を朱に染めた。
「ああ…」
 茉莉は悩ましげな吐息を吐くと、両手を胸に当て、柔らかな乳房をゆっくり揉みだした。
「う、あンン…、うふん…」
 甘い声をマイクが拾い、ブラスバンドが奏でるメロディーに乗ってスピーカーから流れる。茉莉の細い指が双乳に食い
込む。胸を揉み、乳首を弄り、喘ぎ声が高くなる。
 曲が次のパートに入ると、茉莉はパンティを脱いで、スカートの裾をまくり上げていく。白い太股が露わになり、股間の
翳りが現れた。ピッタリと合わさっていた太股が少し開かれた。
 茉莉はさらに膝を開くと、講堂にいっぱいの観客が見つめる中、右手を股間に持っていった。そっと割れ目を撫でて
みる。そこはすでにぬめりを帯び、指に熱が伝わってくる。
「ううっ…」
 クリトリスに指が触れると、背中にビビッと電気が走ったような感じがして、思わず声を漏らしてしまう。
 太股が90度ぐらいの角度で開き、陰部が丸見えになった。茉莉は床に置いてあったクラリネットを取り、卑猥なマウ
スピースを股間にあてがった。そして、ゆっくりと押し込んでいく。大きな亀頭部分が茉莉のぽっちゃりした陰唇を広げ、
ズブズブと秘孔に飲み込まれる。
「すごいな!クラリネットをオ××コに入れてるぞ。」
「本当だ。マウスピースを飲み込んでいく…」
 信彦の周りの男たちが、興奮した声を上げる。信彦の目は大きく見開かれ、茉莉の股間を見つめていた。既にマウ
スピースは根元まで押し込まれている。見たくないと思う一方で、茉莉の痴態から目が離せない。
「ううっ、ああぁ…」
 茉莉は白い喉を反らし、呻き声をあげた。演奏に合わせて楽器を動かしているのだ。その手が動くたびに、太いマウ
スピースが秘孔を出入りし、腰が淫らにうねっている。
(ああ、見ないで…。恥かしい…、見ないで…)
 茉莉は講堂いっぱいの観客が見つめる視線を感じて、目を閉じた。体内に挿入したマウスピースを動かすと、性器の
中から、淫蜜がトロリと流れ出てくるを感じる。
「ん、ん、んっ!あ…、あぁ…、ああぁ…」
 マウスピースが膣内を掻き混ぜる。今にもイキそうな身体を必死に抑え、達する寸前のところで徐行運転を続ける。
曲にあわせてイカなければならないのだ。花びらは熱くなって、大量の愛液を吐き出し続けていた。溢れた愛液がマウ
スピースを伝って、クラリネットを汚している。
 曲が終わりに近づいた。
「あっ…あっ、あうっ…」
 クリトリスを指でしごきながら、茉莉が短い呻き声を上げた。
「あっ…、いっ…、いっ…、あっ…、ああぁっ!」
 ブラスバンドの演奏が終わると同時に、茉莉は左手で右の乳房を握りしめ、右手に握ったクラリネットを激しく股間に
突き立て、絶叫して達した。

 衆議院議員志村瑞樹が事務所に戻ると、秘書たちが集まって、新聞各紙を並べて広げていた。
「先生、ひどいもんですよ。どこもかしこも、徴兵制度賛成、須崎支持のオンパレードだ!」
 政策秘書が憤りの声をあげる。
「…言論統制が行き届いているようね…」
 疲れた声でそう答えてから、志村は大学時代のボーイフレンドのことを思い出していた。新聞記者になった彼は、不
器用で、頑固なまでにジャーナリストであることにこだわっていた。こういう時代にはさぞ生きにくいだろうが、それでも新
聞社の中でがんばっているのだろうか…。
「中でも一番ひどいのが、これだな。『防衛隊増派こそ、唯一の道』だって、ふざけるな、政府の提灯担ぎが!」
 政策秘書が叩きつけるように置いた新聞に目をやり、志村は愕然とした。秘書が指さした署名記事には、なんと、
今、思い浮かべていた男の名前があったのだ。
(森脇君、どうして…)

「運動部の模擬店も、健在ですよ。」
 フサイン派遣部隊向けの美緒の衛星中継は、なおも続いている。
 校庭には、模擬店がずらりと並んでいた。運動部が模擬店を出すというのも、これまでの文化祭と変わらない。おで
んやら、タコ焼きやら、タイ焼き、やきとりまである。これまで厳禁だったアルコールを出す店も少なくないところが、大き
く変わったところだ。
 港特別区自治会の一行は、そんな模擬店の一つ、ビアガーデンで一杯やっていた。
「シャワー室がいいぞ。女の子が一緒に入って、オッパイやアソコを擦り付けて洗ってくれるんだ。しかも、本番もあるん
だぞ。」
 自治会の会計をやっているビア樽のような体型の男が、唐揚げをつまみながら上機嫌で話している。
「よーし、5杯目だ!」
 徳本は、ジョッキを飲み干してそう言うと、ビアサーバーの所に立っている女生徒を呼んだ。
 この模擬店の女生徒はみんな、ピッタリ体にフィットしたトリコロールの服を着ている。肩紐がなく、肩が剥き出しにな
ったもので、某ビール会社のキャンペーンガールが着ていたような服だ。お尻のラインをくっきり映した服の裾は股下5
センチほどしかない。呼ばれてやって来た女生徒は、小柄ながらもグラマーな体つきで、ボディラインを強調する服が、
男の視線を否応なく集める。特に、乳首の少し上あたりまで露出した胸は、幼さが残る顔立ちに似合わない豊かさを示
していた。
「おおっ、琴美ちゃんって、エッチな体してるよな。」
「オレ、前からそう思ってたんだ。」
 大谷と益本が大きな声で騒いでいる。その目はらんらんと輝き、衛星中継の画面を凝視していた。
 徳本に呼ばれた女生徒は、琴美だ。このビアガーデンはチアリーディング部の模擬店なのである。そして、大谷たち
にとっても、琴美はアイドル的存在だった。
「5杯目、おかわりだ。」
「ありがとうございます。」
 琴美は笑顔を浮かべた。かつての屈託のない笑顔を知っている立花徹の目には、画面に映った作り笑顔が痛々しく
てたまらない。
「それでは、お礼をさせていただきます。」
 琴美は胸元に手をやった、服を少しずらすだけで乳房が飛び出す。豊かで、美しい形の乳房は、見る者の目を釘づ
けにする。胸の頂点にはほのかに乳首の粒が突起していた。
「まず、触らせてもらおうかな…」
 徳本が琴美の胸に手を伸ばす。少女の二つの膨らみは大きく、重量があるものの、張りがあり、形はまったく崩れて
いない。徳本は、手の中に収まりきらない大きさを楽しむように撫で回し、こね回した。
「きれいな乳首だねぇ。」
 そう言いながら、徳本はピンク色した乳首を指で摘まみ、もう片方を手のひらで転がす。次第に硬くなってきた突起に
爪を立てると、琴美が切なげな声を上げた。
「あん…、あぁん…」
 されるままに乳房を揉まれ、乳首を指で弄ばれて、琴美は目を閉じ、体をくねらせて喘ぎ声を漏らしている。
「パイズリさせていただきます…」
 琴美は恥ずかしげな笑顔を、徳本に向けて言った。男はズボンのベルトを外し、チャックを下ろす。ブリーフがこんも
りと盛り上がっていた。
「失礼します。」
 琴美は徳本の膝と膝の間に正座し、陰茎を取り出した。天を向いたそれは堅くなり、体中の血がそこに集結したかの
ように真っ赤に充血していた。先端にはカウパー腺液が滲み、亀頭をテカテカと光らせ、竿の部分には青黒い血管がク
ネクネと走っている。
 琴美は乳房を両手で真ん中に寄せ、ペニスを谷間に挟んでゆっくりと擦り始めた。
「気持ちいいよ。もっと擦って…」
 琴美は自ら乳房をユサユサと揉みたてながら、怒張を擦り上げる。怒張はさらに太さを増す。
「こんなにかわいい顔して…、ホントにスケベな事が好きなんだねぇ。」
「は、はい…、私、とってもエッチなんです…」
 教え込まれた通り、琴美は自分を捨てて、相手を悦ばすセリフを口にする。
「どうですか、私のオッパイ…、気持ちいいですか?」
「ああ…、気持ちいいよ。」
 琴美は徳本に身を預けるような体勢になって、ペニスを擦るピッチを速めていった。柔らかな膨らみに包まれた感触
が男の官能を刺激する。
「おぉぉ…、出る、出る!」
 耐え切れずにピュッと漏らした精液が琴美の顎を直撃する。徳本はあわてて腰を引くと、ペニスを掴み、琴美の顔に
向けて勢いよく射精した。
「うっ!」
 琴美の顔に突き付けられた徳本の肉棒から青臭い白濁液が放出され、唇や頬に浴びせられた。
「うぅ…、う…」
 ペニスは首を振りながら、なおも精液を吐き出し続け、琴美の顔を直撃した。閉じた目や鼻にも浴びせかけられた精
液が、蜘蛛の糸のように貼り付いていく。
「顔射、一度やってみたかったんだよな」
 幼さの残る愛らしい女子高生の顔に、自分の出した精液がべっとりと張り付いているのを見て、射精を終えた徳本が
満足そうに言った。
「可愛い子は、こんなスケベな化粧も似合うね。」
「ああ、ぞくぞくするな…」
 自治会の面々がそう言って、卑猥な笑い声をたてる。
「ありがとうございます…」
 精液にまみれた顔で、塞がれていない片目を開け、お礼の言葉を口にしながら微笑んでみせる琴美の顔は、無残で
哀しかった。
「ひえー、顔射。そこまでするぅ?」
 中継映像を見つめていた大谷が声をあげた。
「イメージダウンだよなぁ。」
「いやいや、淫乱な琴美ちゃんも、捨て難いぜ。」
「俺も、してもらいたーい!」
 大谷、益本とその仲間が口々に言う。
「帰国したら、まずは琴美ちゃんの体をたっぷり楽しみたいぜ、口で1発、アソコに2発かな。」
 益本が大声でそう言い、にやけた顔で徹をチラッと見た。徹が琴美に思いを寄せていたことを知っているのだ。
「あの胸でパイズリも忘れちゃいけないぜ、俺は最低5発は琴美ちゃんで楽しむよ。」
 大谷も、徹の反応を横目で窺いながら言った。
「そうだなチアガールのユニホームを着せて、野球部のグランドでってのもいいな。」
 大谷、益本とその仲間たちの声に、徹が密かに握りこぶしを作ったその時、「わあーっ!」と大声を上げて彼らに向か
って行く者がいた。徹の親友、キャッチャーの遠山敏博だ。
 不意打ちを食らって一瞬ひるんだ大谷たちだったが、すぐに反撃に出る。そうなると、もう多勢に無勢だ。敏博は、た
ちまち袋だたきになる。
 呆然とそれを見ていた徹が、我に返って駆け寄ろうとした時、星園からの中継画面が大きく乱れ、ふいにプツンと消え
た。
「ん!?何だ!」
 坂巻たちが、あたりをキョロキョロ見る。
 すると、テントの端に、機械から引き抜いたケーブルを手にした人影が見えた。不思議な人影だ。異様に背が低い。
よく見ると、両脚とも膝から下が欠損し、木で作った粗末な台車のような物に乗っている。
 ボサボサの髪の下の、痩せて汚れた顔がニヤリと不敵な笑いを浮かべた。西崎康平だった。
「また、お前か!」
 逆上した坂巻がつかつかと歩み寄り、台車から引き倒して、殴りつけた。西崎は声一つあげず、グッと坂巻を睨みつ
ける。
 坂巻はさらに殴ろうとしたが、思いとどまって、踵を返した。
 フサインに派遣される前夜、逃亡を謀った西崎は、警備兵に捕まり、派遣船に連れ戻された。捕まった時に撃たれた
足は、十分な治療が施されることなく、フサインに着いてほどなく切断された。
 それでも西崎の反抗は続いた。彼が残った一本の足を失ったのも、戦場でのことではなく、坂巻らにたびたび集団リ
ンチを受けたためである。さすがに、上官から注意処分を受けた坂巻は、それ以後、西崎をリンチすることができなくな
った。自らの身体の一部を失うことで、理不尽な暴力から免れることになった西崎は、唯一坂巻の思い通りにならない
存在となった。
「今日は、これで終わりだ!」
 怒りをはらんだ声で言い放つと、坂巻は中央テントを出て行った。側近たちが慌てて後を追い、隊員たちは三々
五々、テントを出て行った。
「遠山、俺たち二人とも、きっと帰国は無理だな。」
 エースは、かつての女房役を助け起こした。
「お…、俺は大丈夫だから、西崎を…」
 敏博が苦しげな声で言う。普段は大人しい親友の、芯の強さと優しさを見せつけられた思いで、「こいつには勝てない
な」と徹はあらためて思った。平和だった頃はさほどではなかったが、異国の地で苛酷な境遇に置かれてからは、何度
となくそう感じる場面がある。
「わかった…」
 徹は、テントの端に倒れている西崎の側に駆け寄った。仰向けに倒れている西崎の顔には、不敵な笑いが浮かんで
いた。

 


 
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