国防省附属「星園・癒しの館」
 
第1章 「癒しの館」設置 3
 
「小柳首相以来の不良債権処理政策で、私たち建設業者はバタバタと潰れておりまして、その中で当社が生き残って
おりますのも、ひとえに須崎先生のおかげと、心より感謝いたしております。」
 都内のとある高級料亭の一室。頭の禿げた恰幅の良い初老の男が深々と頭を下げた。大手ゼネコン熊本工務店の
常務取締役、宇野隆正である。
 日本有数の大会社の重役が頭を下げている相手は、長身に一流ブランドのスーツを着こなす40歳代半ばの男だ。
彼の名は岸上伸朗。内閣官房副長官を務める須崎晋次の政策秘書だ。
 須崎晋次は与党、自政党の実力者である。これまでも熊本工務店をはじめ、多くの企業に便宜をはかり、その見返り
として、企業献金や選挙の票のとりまとめをさせている。その片腕として動いているのが、岸上なのだ。
「また、国防省の皆様にも何かとお世話になっております。戦争は何にも増しての景気対策でありまして、私どもも大繁
盛…」
 宇野が続いて頭を下げた相手は、いかにも役人といった感じのスーツ姿の男だった。国防省の事務方、伊東功二施
設長である。
「宇野さん、あいさつはそのぐらいにして、さっそく、今回の計画を先生方にお聞きかせただきましょう。」
 延々と続きそうな宇野のあいさつをさえぎって、眼鏡をかけた白髪の男が口をはさんだ。学者風に見えるこの男は、
横木市長の稲見久である。実際、市長に当選する前は、某大学の教授だった人物である。
 「それでは…」と言いながら、宇野が持ってきた資料を全員に配った。ここには4人の他にもう一人、防衛隊の制服を
着た男がいた。さっきから一言も発することなく、末席に控えている。さっき紹介はされたものの、宇野はもう名前も忘
れていた。軍人にしては地味な男だ。
「実際の高校を、そこに通う女生徒ごと慰安所に変えてしまおうというプランですから、学校らしさを生かそうと思いま
す。」
 宇野は、そう言って話を切り出した。
「校舎の中に、セックスができるスペースとシャワールームを20か所ほど作りますが、いずれも保健室、体育倉庫、教
室の片隅、階段のおどり場など、実際の学校の中で女生徒を犯すイメージで設計する予定です。もちろん、体育館もあ
りますし、教室などもいくつかは残しますので、いろいろイヴェントに使っていただけると思います。」
「エッチな授業ごっこをやったりできるんだね。」
「問題に答えられない生徒の服を脱がせたりしたりね。」
「お仕置きのための道具も、いろいろ揃えてもらいたいね。」
 稲見と伊東が好色な笑みを浮かべて言った。岸上もニヤニヤ笑いながらその会話を聞いている。
「もちろんです。性風俗がここまできている時代ですから、大東亜戦争…、いや失礼、先の戦争の時のような売春宿の
ような慰安施設では、現代の兵士たちには『癒し』になりませんからな。総合的なサービスができる施設にいたします。
例えば、現在あるプールは全面改装して、温水プールにする予定です。水泳で訓練しながら、リフレッシュもできるわけ
です。」
「ほーっ!」
 稲見と伊東が感心したような声をあげ、宇野は得意げに付け加えた。
「もちろん、女生徒と一緒に泳いだり、遊んだりすることもできます。」
「当然、女生徒たちはスクール水着ですな。」
 ロリコン趣味の強い伊東が言うと、稲見が首を振ってみせる。
「いやいや、いろいろエッチな水着を着せてもいいんじゃないか。」
「いっそ、すっ裸で泳がせたらどうだ。」
 岸上の意見に、稲見も伊東も手を叩く。
「そうだ、女子トイレのドアは取り払って、排泄ショーをさせたらどうだろう?」
 こちらはスカトロ趣味のある稲見が言うと、
「いやいや、ドアに覗きあなを作るか、マジックミラーをつけて、覗くものいいんじゃないか。」
 と伊東が応じ、
「どちらのご要望にもお応えできるよう、設計いたしますよ。」
 宇野がとりまとめて見せる。3人が盛り上がるのを見ていた、岸上が口をはさんだ。
「でも、落ち着いて、女を抱きたい時もあるんじゃないのかね。」
「そういう方のために、学校の敷地内に女子寮を作ります。本来的な意味での『癒し』の場は、むしろ、こちらの方になり
ましょう。」
 宇野が我が意を得たりとばかりに答えた。
「つまり、客が遊びに来る部屋を、女子寮風に飾るわけだな?」
「いえいえ、本当に女生徒を寮に住ませまして、そこでお客をとらせるわけです。つまり、女生徒のプライベートルーム
に、『癒し』に訪れた軍部の方々を恋人のようにお招きするわけです。」
 宇野は、全員に資料のページをめくるよう言った。
「各部屋は10畳のワンルームタイプで、お風呂とトイレがついています。現在いる女生徒約300人のうち、容姿のすぐ
れた者を3分の1ぐらい選ぶとお聞きしていますので、当初は100室程度作る予定です。」
「おや、他に大浴場もあるのかね。」
 岸上が資料を見ながら尋ねた、
「ええ。もちろん女生徒たちと混浴になっていますよ。」
「ゆっくりと湯につかったり、女生徒に体を洗わせたりできるわけだ。」
「防衛隊の諸君がうらやましいなぁ、それは。」
「もちろん、須崎先生を初め、政財界のVIPの皆様方にもご利用いただける施設にするつもりでございます。その節
は、岸上先生や稲見市長にも十二分にお楽しみいただきたいと思っております。」
 岸上と稲見の心底うらやましそうな声に、もみ手をせんばかりにそう言ったのは、伊東施設長である。
「いやあ、お洒落な岸上先生なら、女生徒たちも争って、自ら股を開いて、抱かれたがるんじゃないですか。」
「そうそう、今日のお召し物も相当な物だと拝見しました。」
「銀座の一流クラブのホステスが、そのダンディさに惚れて…、というような話もチラホラお聞きしていますよ。」
 一斉にそう言われた岸上もまんざらではなさそうな笑みを浮かべる。
「まあ、政策秘書と言うことで、それなりの報酬は国からいただいているからね。それに、我が党は支援者のおかげで、
秘書に寄付させて活動資金を賄っている野党とは違って、本来の制度趣旨どおり、秘書給与は秘書のポケットに入る
んだ。それを身だしなみや、女に使うのは、私のささやかな楽しみでね。」
 そう言った後、ふと岸上は真顔になって、稲見に尋ねた。
「しかし、高校を居抜きで慰安所にしてしまって、問題は起きないのだろうね。」
「ご心配なく。有事法制整備計画の中で作りました機密保護法によって、防衛隊に関する情報は、有事が宣言された後
は一切情報公開の必要はありませんし、マスコミも統制下に入っておりますから、報道される心配もありません。」
「それにしても、歓楽街を作って、風俗嬢でも集める方が問題が少ないんじゃないかね。」
「それではダメなのです。」
 岸上に反論したのは、それまでずっと黙っていた制服の男だった。他の4人が一斉に男を見つめる。すると、今まで
存在感がなかった男のまわりに暗いオーラが輝いているように見えた。その瞬間、宇野も男の名前を思い出した。諸
藤宗光、たしか防衛隊の中尉だった。
「まあ、どっちでもいいがね…」
 それまでまったく存在を意識していなかった男の、有無を言わせぬ口調に、さすがの岸上も少し鼻白んだ様子を見せ
る。
「2年前に完成した教育改革で、それなりに教育費を出せる家庭の子弟は私学に行くようになり、公立高校などには来
ませんからな。風俗嬢でなくても、構うことはありません。」
 座のしらけたムードを振り払うように、伊東が傲然と言い放った。
「気がかりなようでしたら、諸藤中尉が現地に赴いて、引渡しを受けるのは5月7日ですので、それまでに自政党の方で
名簿をとりまとめていただけば、その生徒たちは転校させるようにいたしますよ。」
 稲見市長がとりなすように言った。
「そう言えば、男子学生はどうするのか、私どももお聞きしておりませんが?」
 この場で唯一の「民間人」である宇野が、おそるおそる尋ねた。
「防衛隊の活動に参加してもらう予定です。」
 そう答えたのは稲見だ。
「しかし、フサイン共和国に対するアルメリアの空爆が始まったばかりで、兵隊が不足しているわけでもないのに、もう
学徒動員なのですか?」
「『学徒動員』とは、また古いね。」
 宇野の言葉に、岸上が苦笑する。
「我が国はもちろん、フサイン共和国周辺に展開している部隊もまだ直接攻撃を受けたわけではありませんが、その
『おそれ』がある、あるいは『予測される』ということです。ですから、これは学徒動員ではなく、防衛隊に協力するボラン
ティア活動です。先年、高校生に義務づけられた奉仕活動の一環なのです。」
 政府の説明どおりに、伊東が答えてみせる。
「まあ、エネルギーを持て余した若者を放っておくと、少年犯罪を起こしたりして、ろくなことがない。エネルギーを発散さ
せるとともに、目上の者を敬う心や礼儀作法をたたき込むには、徴兵するのが一番だ。とまあ、これはオヤジのお考え
だがね。」
 岸上が言うオヤジとは、言うまでもなく須崎官房副長官のことである。
「先生、徴兵ではなく、あくまで奉仕活動ですよ。『癒しの館』で活動してもらう女生徒の方もそうです。」
 岸上の発言に、稲見がわざとらしく釘をさした。
「何でもできるのです。有事ですから。」
 諸藤がポツリと呟き、その場の全員がギョッとした顔で彼を見つめた。
 防衛隊の制服を着た諸藤が、暗い顔つきに目だけを爛々と光らせる姿を見た時、岸上は初めて、自分がやってきた
ことが正しかったのかという疑問が、一瞬だけだったが、脳裏をかすめた。
 


 
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