国防省附属「星園・癒しの館」
 
第1章 「癒しの館」設置 4
 
 選ばれた女生徒達は、身体検査を受けた日から、もはや家に帰ることを許されなかった。体育館で一晩を過ごした彼
女達は、翌朝、新しい制服を渡された。
「さあ、みんな、これに着替えて。」
 そう指示したのは、見慣れない女だった。オフタートルの純白のブラウスに細いウエストを強調した紺色のタイトスカー
トを着た、匂い立つような優美さを漂わせる美女である。
「誰、あれ?」
「知らないわ。防衛隊関係の人じゃないの。」
 由香が琴美につっけんどんに答える。
 昨夜、落ち込んで眠れずにいた由香を琴美が力づけようとしたことが、プライドの高い由香にとって、かえって気に障
ったらしく、以来この調子である。多くの女生徒が、昨日の身体検査で恥ずかしい目に遭わされたショックから抜け出す
ことができないでいたが、由香の場合、琴美に対してこういう態度をとることで、なんとか自分の心を持ちこたえさせよう
としているのかもしれない。
「さあ、早くして、また男の人に着替えるところを見られたくないでしょ。」
 美女のこの言葉は効果てきめんであった。女生徒たちは、いっせいに渡された制服に着替えていく。
 体育館には、体操や武道の時に姿勢を映してみたりするために、壁に大きな鏡がつけられている。茉莉は制服に着
替えて、鏡に姿を映してみた。
(あっ、可愛い…)
 今自分が置かれている異常なシチュエーションを忘れて、思わずそう心の中でつぶやいてしまうほど、清楚でキュート
なデザインの制服だ。セーラーカラーのブラウスに、紺の襟なしブレザー、膝上20センチぐらいのプリーツが入ったチェ
ックのミニスカートという、ごく普通のスタイルなのだが、とても洗練されていて、センスが良い。
「キャッ、可愛い!」
 琴美がみんなを代表するかのように、声に出した。
「そうでしょう。これは、あの由利美智恵のデザインですからね。」
「ホントーっ!」
「すごーい!」
 美女がそう答えると、女生徒達が口々に感動の声をあげた。由利美智恵は世界的に有名なデザイナーで、彼女のデ
ザインは、若い女性たちから「一生に一度でいいから着たい服」と呼ばれている。同時に、一般庶民ではとても手が出
ないくらい高価で、「一生かかっても着れない服」とも呼ばれている。
「そうだ。由利先生には、有事協力で、無償でデザインしてもらったんだぞ。」
 いつの間にか女生徒達の横に男が立っていた。得意げにそう言った男は、プロレスラーのような体格の良い大男だ
が、少し足を引きずっている。昨日は防衛隊の制服を着て身体検査に立会ち会い、嫌がる女生徒達を押さつける役割
を担っていたが、今日はスーツ姿だ。
「さあ、朝礼が始まるぞ。クラス別に並ぶんだ!」
 まるで教師にでもなったかのように、大男が言った。
 
「君たちは、選ばれた娘たちだ。」
 きちんと整列させられた女生徒達の前に高さ50センチ程の台が置かれている、その上に立って、制服姿の諸藤はこ
う切り出した。
「今、我が国は有事態勢にある。同盟国のアルメリア合衆国が、悪のテロ国家フサイン共和国に対する正義の戦争を
始めたからだ。」
 女生徒達は昨日の出来事を通して、これまで自分たちと関係ないと思っていた遠い国のその事件が、どうやら自分た
ちの生活を狂わせ始めたことに気がついていた。一様に、不安そうな顔つきで諸藤の話に聞き入っている。
「相手はテロ国家であるから、いつ我が国がその標的とされるかわからない。そのおそれを未然に防ぐためには、アル
メリアの先制攻撃に積極的に支援し、協力する必要がある。」
 諸藤の口調が熱を帯びる、そうすると、それまで目立たず、貧相で、むしろみすぼらしく見えていた諸藤の身体が、急
に一まわりも二まわりも大きくなったように見えた。
「そこで今、防衛隊は次々と部隊を中東に送っているが、アルメリアの指揮下に入った彼らは、いつ再び帰ってくること
ができるかわからないまま、我が国を後にしなければならない。しかも、戦地に赴くのだから、怪我をすることはもちろ
ん、死と隣り合わせの生活を送ることになる。」
 諸藤はそこで言葉を区切って、体育館に並ぶ女生徒達を見渡した。美少女や愛らしい娘が揃っていることを確認し、
わずかに満足の笑みを浮かべたが、すぐに真剣な表情に戻って、演説を続ける。
「そうした危険をかえりみず、戦地に赴く者たちに、せめてもの慰めとはなむけを送ってやることが、君たちの役割なの
だ。君たちはその瑞々しい体を露わにして戦士達の前に開き、柔らかな胸の膨らみで彼らを慰撫し、濡れた性器で彼
らを受け入れるのだ。それが、国を愛する娘の務めである。」
 それまで、シーンとなって話を聞いていた女生徒達がザワザワと騒ぎ始めた。諸藤はどうやらとんでもないことを話し
ているようだ。
「今日から、この施設は横木市立星園高校ではなく、『国防省附属・星園癒しの館』だ。そして、君たちは女生徒ではな
く、『慰安嬢』と呼ばれることになる。もはや君たちの体は君たちの物ではなく、唇も、乳房も、性器も、肛門も、その
隅々まで、すべてが国家の物である。」
「なんですって!」
「嫌です!」
 亜弓や由香をはじめ気の強い女生徒達が数人、抗議の声をあげた。すると、例の大男や、そこにいた数名の男達が
彼女らの側に駆け寄って、その頬にビンタをくらわせる。
「キャアッ!」
 大男に殴られた由香は、1、2メートル吹っ飛ばされた格好で床に倒れ、悲鳴をあげた。
「今の君たちの言動を見て、私はあらためて確信したが、ここが学校でなくなっても、君たちを立派な慰安嬢に育てるた
めに指導し、監督する教師は必要だ。」
 そう言って、諸藤は新しい教師達を紹介し始めた。
 渡部校長にかわって「館長」という肩書きで、諸藤自身が「癒しの館」の責任者となる。1学年1クラスで1年生の担任
は小林麗奈、これはさきほどの美女だ。大男の平沼毅雄が茉莉たち2年生の担任である。3年生の担任になった安達
芳朗は、平沼とは好対照の痩せてヒョロリとした、目つきの鋭い男だった。小林と平沼が防衛隊員出身、安達が国防省
の官僚出身だと紹介された。この他にも男女約10人の新しい教師が防衛隊と国防省から派遣されて来た。従来の教
師も数人が残っていたが、全て若い女の先生で、いずれも担任は持たず「副担任」になるとの説明があった。
「それでは、次に身分証明書を渡す。この身分証明書は常に携帯し、どこででも求められたら必ず提示しなければなら
ない。」
 女生徒達にネイビーブルーのレザーの表紙に「国防省附属・星園癒しの館」と印刷された手帳が渡される。
 手帳の裏表紙は透明のビニールになっていて中の身分証明書が見える。
 証明書の右端に書かれている11ケタの数字とバーコードは、有事法制と同時期にスタートした「国民ネットワーク」の
登録番号だ。住所、氏名、生年月日などの住民基本台帳のアクセスに使うのが当初の目的であったが、その後、用途
の拡大とともに、相当な情報がその番号で検索できるようになっている。左端にある銀色の四角形=ICチップには、さ
らに詳しい情報が入っていると言われているが、実際のところどういう情報が入っているのかは、一般市民にはわから
ない。
 「国民ネットワーク」によって、国や地方自治体は個人の情報を完全に管理することができるようになり、今回の有事
態勢でもずいぶん役立っているが、一方で、個人情報を保護する法律は結局できずじまいでいる。そのせいもあって、
いろいろな役所が個人情報を悪用したり、ダイレクトメール会社などの企業に漏らしていたという事件は後を絶たない。
「あっ!」
 手帳を受け取った茉莉はそう叫んで、声を失った。そして、次の瞬間、耳まで真っ赤になる。
 身体検査の時に撮られたのだろう。裏表紙から見える身分証明書の写真は、形の良い乳房がはっきりと写った裸の
バストショットが使われている。
 ピンク色の乳首まで露わにした写真の横に「安藤茉莉」という名前と生年月日が書かれ、その下には「上記の者は、
国防省附属・星園癒しの館所属の慰安嬢であることを証明する。」との記載があった。そして、「館長 諸藤宗光」の記
名押印がされている。証明書によって、茉莉たちは、普通の女子高生から、自らの肉体で兵士達を慰安する慰安嬢に
なってしまったという事実を突きつけられたのだ。怒りや不安や恥ずかしさなど、言葉にできない感情が渦巻いて、茉莉
の目尻にじわりと涙が滲む。
 しかも、中を開くと、定期の購入や各種証明書をもらうための記載をしてもらう箇所の横に、脚を開いて撮影された性
器のアップの写真が貼られてあるのだ。唖然とする茉莉たちに向かって、諸藤の説明が響く。
「諸君たちは金銭を手にすることはないが、必要な物はその手帳を提示することで、何でも買うことができる。横木市内
の店であればどこでも、その手帳に買った物と金額を書き込んで、商品を渡してくれるだろう。」
 しかし、それはとりもなおさず、店で買い物をする度に自分のヌードや性器の写真を見せなければならないということ
だった。
「便利だろ。店に行って、オ××コの写真を見せたら何でも売ってくれるんだ。そうそう、もう一つ言っておくと、店側が
希望すれば、証明書の写真はICチップからダウンロードできるようになっているんだぜ。」
 平沼が、羞じらう茉莉たちの反応楽しむように、言わずもがなの卑猥な補足説明をする。
「これで、私の話は終わりだ。では、慰安嬢諸君、しっかりと、国のために尽くしてくれたまえ。」
 そう言って、諸藤が演説台を降り、ゆっくりした足取りで体育館を出ていく。
 最初は放心状態だった女生徒達が、ザワザワとざわつき始めた。その状態で、あと少し放っておいたら、あるいは女
生徒達は、抗議と抵抗でまとまっていったかもしれない。しかし、管理者たちは巧妙だった。
「おまえたち全員に、ご家族からの手紙が来ているぞ。」
 そう言いながら、各担任が、女生徒達に手紙を配り始めたのだ。
 おっとりした彼女にしては珍しく、今にも噛みつきそうな顔で平沼を睨んでいた琴美も、手紙を渡されると、慌てて封を
開けて読み始めた。昨日、家を出てきただけなのに、母の筆跡が、あまりに懐かしい。
 
  しばらく帰って来れないとのこと、急なことでびっくりしましたが、クラスで選ばれたのですね。市役所の方がいらっし
ゃって事情を聞きました。由香ちゃんや茉莉ちゃんも一緒とのことで、少し安心しました。
  あなたのお仕事の内容について、詳しいことは教えてもらえませんでしたが、防衛隊のお手伝いで、国のためにな
る大切な活動だと聞いて、お母さんも誇りに思っています。がんばって、あなたの役割を果たして下さい。
  休暇がいただけたら、元気で帰っていらっしゃいね。
 
「お母さん…」
 琴美は一言、そう言って、床に座り込んで泣きじゃくり始めた。
 どうやら、家族は、琴美たちが何をやらされるのかを聞かされることなく、ただ、防衛隊の手伝いをするボランティアだ
と聞いているようだった。
 他の女生徒達に来た手紙も、琴美の物と大差がなく、みんな、すっかりシュンとしてしまった。
 彼女たちは、すでに帰る家もないことを思い知らされたのである。
 


 
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