聖処女真璃亜1 好色と覚醒のエチュード
 
プロローグ
 
 遊牧民族の少年アリーは、憎悪に満ちた目で空を見上げた。その頭上をアメリカ軍びステルス爆撃機が、轟音を響
かせて飛んでいく。
 レーダーに映らないことが最大の特徴になっている戦闘機だが、このあたりにまともなレーダーなどあるとも思えな
い。世界一の軍事力の前に、すでに主だった軍事施設は軒並み破壊されているはずだ。いや軍事施設だけでなく、
「誤爆」の名の下に一般市民の生活の場も数限りなく破壊された。少年の家族も全て死んでしまったのだ。それでも、
飽きることなく戦争は続いている。
「目標の秘密基地上空に到着した。これより空爆を開始する。」
「了解。」
 パイロットのジョージ・ブラッドリーは、空母に設置された前線司令部と交信していた。
 コクピットのスクリーンには、砂漠のオアシス地帯に建てられた建造物が空中写真のように映し出されている。標的は
旧政権の残党が逃げ込んだと言われている秘密基地だ。かつては大量破壊兵器の隠し場所になっているとの噂もあ
ったが、実態は「秘密基地」という程のものではなく、民兵が潜んでいる廃墟といった代物らしい。
「へへっ、悪の帝国め、自由と正義の一撃を受けてみろ!」
 ジョージが得意げに言い放った。スクリーンの空中写真に矢印が重なり合う。ジョージの指がスイッチを押すと、矢印
の先端がピカッと光り、そこから丸い小さな雲が発生した。
 よく言われることだが、まったくテレビゲームのようだ。棍棒から剣、そして銃へ、武器は進化すればするほど、人を殺
傷するという行為を抽象化し、殺傷する側にその重みを感じさせなくなると言われるが、最新鋭の空爆システムは、そ
の完成型と言えるかもしれない。地上では凄まじい破壊が起こっているはずだが、その惨状をパイロットが目にするこ
とはない。地上から禍々しく湧き上がるキノコ雲でさえも、スクリーン上では小さな綿ぼこりのように見えるだけだ。
 それだけのことだ…、いつもであれば。しかし、今回は違っていた。
 ウランを含む弾頭は、地上にいた人々もろとも建物を粉々に破壊し、さらに地面を切り裂くと、地中深く眠る古代遺跡
を貫いた。貫かれた古代遺跡が不気味に光を放つ。
「何だ!」
 ジョージはふいに叫び声をあげた。綿ぼこりほどの大きさしかなかった雲が急速に広がり、あっと言う間にスクリーン
をはみ出した。
「何だ、何だよ、これ!どうしたんだ!」
 その声がみるみる震え、冷静さをなくしていく。黒い雲は、はるか上空を飛んでいるはずの戦闘機を包み込み、窓か
らの視界がなくなった。真っ黒なそれは、闇そのものだ。
「ああっ!」
 突然、スクリーンがまぶしく光り、ジョンの目を焼いた。
「C1034、応答せよ!どうした、応答せよ!」
 空母のオペレーターは通信が途絶えた戦闘機に何度も呼びかけた。しかし、その呼びかけに答える者は、もはやどこ
にも存在しなかった。
 空を眺めていたアリーが、恐怖の表情を浮かべる。さっきまでわが物顔で飛んでいた戦闘機を飲み込んだのは、巨
大な黒い蛇の姿であった。
 そして、蛇はそのまま、カラカラに乾いた砂漠の上空へと飛び去った。
 


 
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